- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: 日本文芸社
- 発売日: 2016/12/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
ビートたけし氏推薦で話題沸騰!!!!!!ベストセラー第2弾!
吉田豪最新刊 満を持しての登場!!
右も左も善も悪も
正しいサブカルも間違ったサブカルも
すべてを飲み込む面白至上エンターテインメント!!
知らない話がまた出てきた!
無駄に波風を立てながら、最終的にはいい着地点に持って行く──
いまふたたび証される、インタビュー超人、鬼の50則!?
『週刊漫画ゴラク』同名連載を単行本化し大好評を博した、現代屈指のインタビュアーによる、相手からいかに面白い話を引き出すかのテクニックや、これまで接した著名人とのエピソード集第2弾。前作以上にパワーアップした爆笑&おどろきエピソード満載!
プロインタビュアー・吉田豪さんのベストセラー『聞き出す力』の続編。
『聞き出す力』は、「人の話を聞く(インタビューする)」ためのノウハウ本、かと思いきや、どちらかというと、有名人をインタビューした際の面白エピソード満載、という新書だったのです。
それを言うなら、阿川佐和子さんの『聞く力』もそんな感じだったですしね。
そして、今回の続編も、やっぱり楽しく読むことができました。
読んで、「聞き上手」になれる感じはあんまりしなかったのですが。
オビでビートたけしさんが、真面目な顔写真入りで、前著で触れられていた「濡れ衣恫喝事件」を謝罪しつつ、この新書を薦めておられます。
あの「超大物に人違いで怒られた話」をネタというか宣伝に利用してしまう吉田豪さんの商魂と、それに乗ってしまう、たけしさんの写真のインパクトといったら!
この新書を読んでいると、なんとなく「常識」だと思いこんでいることが、「人と話をする現場」では、時間の無駄になったり、かえって進行を妨げたりすることが多いということがわかります。
たとえば、冒頭に出てくる、こんな話。
最近、アイドルの子から逆インタビューを受ける機会が増えてきて、それはそれでいろんな意味で勉強になる。要は、インタビューでやっちゃいけないのってこういうことだんだなと、改めて気付かされたりするっていう意味で。だって制限時間五分ぐらいの企画なのに、いきなり「まずは自己紹介からお願いします」とか言うんだよ? そんなの時間の無駄だし、大人数のインタビューでどれが誰の発言だかわからなくなりそうなときぐらいしか自己紹介なんて頼む必要ないのに!
で、人数が多い場合も、ただの自己紹介を頼んだってまず面白くならないのは、飲み会とかで自分が自己紹介を振られたときのことを思えばわかってもらえるはず。ボクもできればそんなことやりたくないし、キャバクラなり美容院なりで「どんなお仕事をされてるんですか?」と質問されたとき、正直にこたえても適当な嘘をついてもどっちにしてもウンザリしてくるぐらいなので、インタビューでは自己紹介禁止!
だから、僕が人数が多いアイドルグループとかでそれぞれのキャラクターを掘り下げたい場合によく使うのは他己紹介、つまり他のメンバーにそれぞれのいいところや悪いところを話してもらうパターンだ。これなら無口すぎて、ほとんど会話に入ってこられないメンバーも活きるし、その後の話も転がりやすくなる。
自己紹介がいらないのに、そこでムダに時間を使ってしまっていることって、たしかに少なくなさそうです。
そして、「他のメンバーを紹介する方式」なら「紹介される側」だけでなく、「紹介する側」のキャラクターも伝わってきますよね。
人間関係がうまくいっていないグループだと、かなり緊張した雰囲気になりそうですが。
自己紹介って、どうしてもありきたりなものになってしまいそうですし。
この本を読んでみて思うのは、吉田豪さんというのは、「決めつけない人」なのだな、ということです。
そしてRev.from DVL所属、千年に一度のアイドル・橋本環奈の場合。
「ブログとかインタビューとか読んでて思ったのが、ネガティブ的な要素がゼロだってことなんですよ。アイドルぐらい病みやすい商売もないのに、弱音とかまったく吐かないですよね?」とストレートに聞いてみたところ、「弱みを見せるのは嫌です。だって言葉が悪いですけど、ウザくないですか?」とハッキリ言ってくれたから、その時点でまず見る目が変わった。
とにかく彼女、「ネガティブなことを言ってもいいと思うんですよ。それも個性だと思います。でも、私は言いたくない。恥ずかしい」と言い切るぐらいのタイプなのである。
続いて、「ブログも自分のことを書くより、メンバーのことを紹介していきたいっていう匂いがすごいするんですよ」と聞くと、「なんでわかったんですか(笑)」「やっぱりグループで売れたいんです」「何度言っても不仲説って出るじゃないですか。私がこういうふうに話題になったからって理由もわかるんですけど、ライブを観たら、メンバーがウザいほど仲いいのがわかるので」
と返されて、彼女のブログが面白くない理由がわかってきた。彼女は自分の面白さをアピールすることに、これっぽっちも興味がないのだ。
結局、「天使すぎるアイドル」とか「千年に一度のアイドル」とか持ち上げられ続けて、謙遜してもアレだし、そこに乗っかっていったら嫌われるしで、彼女は最初からやりにくいポジションにいるのである。
指原莉乃みたいに「お前、ブスだなー」的ないじられ方をすると「えー! ちょっと何言うんですか!」とか受け身を取りやすいけれど、褒められるのはやりにくくてしょうがない。
その結果、どうしても優等生的な受け答えしかできなくなっていくわけなのだろう。
なので、そういうことしか言わない人を取材するときは、徹底して優等生的な発言を引き出すか、なぜそういうことを言うようになったのか理由を掘り下げるか、どっちかだと思うのだ。
「あれは優等生を演じているのだろう」「真面目すぎてブログが面白くない」というような外野の声も、橋本さんはたぶん知っていて、それでも、直球を投げ続けているのでしょう。
すごい人だなあ、と思うのと同時に、「強すぎる人の隙のなさ」みたいなのが、橋本さんのタレントとしての「かわいいし、演技もうまいのに、爆発的な人気を得ているというわけではない」という状況につながっているような気もします。
前田敦子さんの「不安定さ」とか、指原莉乃さんの「自虐」は、ウイークポイントのようにみえて、実際はファンの「共感」を生んでいるところもあるのです。
他のメンバーも、こういう完璧超人みたいな人が傍にいると、仲が良くて、橋本さんが本心から他のメンバーを応援してくれていることはわかっていても、それはそれでやりにくいというか、「つらいこともある」のではなかろうか。
周りからは、どうしても比べられてしまうだろうし。
人間っていうのは、ややこしいものですね。
こうしてあれこれ考えてみると、「優等生の孤高」みたいなものも浮き彫りにされてくるのです。
というか、みんなから「天使すぎる」とか言われたら、それを対する「受け」のバリエーションは、そんなにたくさんはないですよね……
褒められることへのリアクションは、本当に難しい。
島崎遥香さんの寡黙すぎる受け答えとか、岡本夏生さんの「インタビュアー泣かせ」とか、もう最高です。吉田さんが断片的に紹介されている中にも、「このインタビュー、全文読んでみたい!」というものがたくさんありました。
いまこの原稿を書いている時点(2016年3月)では、不倫報道で大変なことになっている乙武君。おかげで一度だけ乙武君と一緒にゲイバーで飲んだ経験のあるボクが週刊誌1本、ワイドショー2本でなぜかコメントすることになった。
2002年に『小学三年生』で初めて乙武君を取材したときは、「なんでも手を出しちゃうんですよ。手ないのに」といったブラックなギャグや女好き話をのびのびと話した結果、1年の予定だったインタビュー連載が7ヶ月で終わり、編集長と担当編集が飛ばされていったことはボクもよく持ちネタにしているんだが、この機会に記事を読み直してみたら、「有名になったマイナス点として『女子と手をつないで歩けなくなったこと』って真っ先に言われていたのがさすがだと思いました」というボクの発言に、乙武君が「だって、遊びたい盛りじゃないですか。普通、彼女がいて、他の女の子とデートしてもバレやしないのに、僕は写真撮られて絶対にバレる。そういう辛さですよね(笑)」と返していて爆笑。一体いつまで遊びたい盛りが続いてるんだと思うが、乙武君は良くも悪くもそういう人なのである。
2011年にやった『人間コク宝』収録のインタビューでは、次男が生まれる瞬間にゲイバーでキャバ嬢を口説いていたこととかホストをやってることとかに突っ込んだら、一切隠すことなく笑顔で全部話してくれた。
なんだか、この話を読んでいると、ずっと昔から「良くも悪くもそういう人」だったにもかかわらず、参院選出馬とか政治が絡んでくると、あんなふうにあらためて採りあげられて叩かれてしまうのか、という気もしてくるんですよ。
少なくとも、身近な人、メディア側にいる人は、ずっと知っていたのではないでしょうか。
乙武さんの不倫は、社会通念からすれば、けっして「立派」とは言いがたい話ではありますし、「いつまで遊びたい盛りが続いているんだ」とは思いますけど。
ただ、乙武さんの場合、ふと思い立って、テレビゲームで遊んだり、出かけてコーヒーでも飲みながら本を読んだり、というような「娯楽」に制限がある人生なことは間違いなくて、その数少ない娯楽の中でいちばんハマってしまったのが「女性」であるのだとしたら、なかなかやめられないのかもしれませんね。これまではむしろ、みんな、そういう「障害を抱えているのにオープンで明るい乙武さん」を面白がっていたところもあったのだし。
吉田豪さんのインタビューを読むと、これまでその対象に抱いていたイメージが変わってしまうことが少なからずあるのです。
たぶんそれは、吉田さんが対象者を好きになろうとしていることと、相手を決めつけないで、ちゃんとその発言や行動の「理由」を確かめているから、なのでしょうね。
まあ、結局のところみんな対人関係というかコミュニケーション術に悩んでいるみたいだったので、そういう人にボクが言いたいのは、無理して「面白い人」になろうとする必要はないってこと。面白いことを話すためにはセンスが必要だから選ばれし者にしか向いてないけど、相手の面白さを引き出す「聞く能力」を磨くには、最低限の空気の読み方さえできれば努力次第でなんとかなるはず。
バンドを組んでもヴォーカルやギターみたいな目立つパートをやりたがる人が多くて、ドラムは常に人材不足でニーズがあるのと同じで、世の中には自分の話をしたい人が多いから、どう考えても聞く側になったほうが楽なのだ。
たしかに、「話し上手」に比べて、「聞き上手」は、競争率が低いのだと思います。
なんのかんの言っても、人は、自分の話を聞いてほしい。できれば、楽しそうに。
話し上手になるためと同じだけの努力を聞き上手になるためにすれば、「聞く世界のほうが成功しやすい」可能性は高そうです。
もちろん、吉田豪さんのような日本代表レベルになるのは難しいとしても。
- 作者: 吉田豪
- 出版社/メーカー: 日本文芸社
- 発売日: 2015/03/20
- メディア: Kindle版
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