- 作者: 塩田武士
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/08/03
- メディア: 単行本
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内容紹介
京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープとまったく同じものだった。週刊文春ミステリーベスト10 2016年【国内部門】第1位!
「グリコ・森永事件」を覚えていますか?
僕の親世代にとっての「未解決事件の代表」は、『三億円事件』のようなのですが、いま40代半ばの僕の世代には、この「グリコ・森永事件」が強く印象に残っている人が多いのではないでしょうか。
「どくいり きけん たべたら しぬで かい人21面相」
当時、中学生だった僕にとっては、この「グリコ・森永事件」というのは、正直なところ、怖いというより、ちょっと面白がって眺めていたところがあるのです。
警察を嘲笑するような「脅迫状」は教室でよく話題になっていましたし、青酸ソーダ入りのお菓子といっても、当時はそんなにお菓子に興味もなかったし。
新聞やテレビをみながら、「そろそろ次の脅迫状が来るかな……」なんて、期待していたところもありました。
いま、小さな子どもがいる親の立場になってみると、毒入りの食品を子どもが口にしてしまったら……と、当時自分の親たちが不安に感じ、犯人に憤っていた理由がようやく理解できるような気がします。
この『罪の声』、その「グリコ・森永事件」を下敷きにしたミステリなのですが、あらすじを読んだときには、「あの事件の真相(あるいは、真相に近いこと)が書かれているのか?」と思ったんですよね。
読んでみると、あの事件をモチーフにしたアナザーワールド、というような内容で、読んでも、「事件の真相」がわかるわけではありません。
著者はもと新聞記者で(どの程度「グリコ・森永事件」の取材に関与していたかはわかりませんが)、実際の事件の経過や報道、捜査に基づいて書かれており、読んでいると、あの当時のことをいろいろ思い出さずにはいられません。
そして、中学生の僕にとっては「おもしろ事件」の色彩が強かったあの事件は、狡猾かつ悪質なものだったことを、あらためて思い知らされました。
警察が犯人のひとりであろう人物に肉薄しながら、「一網打尽」にするために、あえて泳がせ、結果的に事件解決の糸口を失ってしまった、ということも。
この作品のなかでは、犯人からの指示に使われた「子どもの声」にスポットライトがあてられています。
誰かに命令されて(あるいは、頼まれて)、結果的に昭和史に残る犯罪に加担してしまったあのときの子どもたちは、いま、どうしているのか?
警察から逃げおおせ、時効を迎えた犯人たちは、いま、どうしているのか?
捕まらなかったから「成功」だと思いがちだけれど、ずっと世間の目を気にしながら生きているのだとすれば、その人生が「成功」とは言いがたいですよね。
「犯人は運がよかっただけ、と言う人もいますが」
阿久津が冷や水を浴びせても、達雄は表情を変えなかった。
「時代が味方した面は確かにあると思います。ローラー作戦が不発に終わったのは、都市化のせいで隣近所の不審人物にも気付かない社会になってしまったからです。今やったら、監視カメラやら通信記録やらで、もっと早くに追い詰められてたでしょうね。つまり、ちょうどエアポケットやったということです」
「そういう側面もあるんでしょうね。あれだけの長期間、派手に暴れ回って未解決になった事件なんか記憶にありませんから」
あの事件は、たしかに「あの時代だからこそ」起こり、未解決のままになってしまったのかな、とも思うんですよね。
今だったら、監視カメラや「Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)」、電話の通信記録のチェックなどで、犯人は捕まる可能性が高いはず。
正直、実際の事件をモチーフにしているだけに、ひきこまれるところと、「でも、これフィクションなんだよね……」と興醒めしてしまうところの両方があるんですよね。
事件の真実に迫る、というようなノンフィクションではなく、あくまでも、あの事件を下敷きにして、著者が想像で補った「ギンガ・萬堂事件」の話。
「織田信長が本能寺で生きていたら」という本宮ひろ志先生のマンガがあるのですが、そのくらい「歴史」になっているのなら、「嘘を嘘として」楽しめるけれど、「グリコ・森永事件」は、僕にとっては、まだ生々しすぎる。
でも、あの事件の真実を知っている人は、たぶん、この世界のどこかで、まだ生きているんですよね。
「グリコ・森永事件」も、こんなふうに綺麗に「幕引き」できればいいのに、と思いながら読みました。
「子どもを犯罪に巻き込むこと」の罪深さについても、考えずにはいられません。
ちょっとみんな「いい子」すぎる世界なのでは、とも感じましたが、「グリコ・森永事件」を記憶している人にとっては、いろんな「思い」が去来するであろう作品です。
殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―(新潮文庫)
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