琥珀色の戯言

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【読書感想】トヨタの強さの秘密 日本人の知らない日本最大のグローバル企業 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
売上高27兆円超。営業利益3兆円弱。いずれも圧倒的に日本一。ではトヨタはなぜ強いのか?答えはじつにシンプル。「世界の人が『買いたくなる』クルマを設計しているから」。本書では、ものつくりの世界において「優れた設計情報をつくること」が決定的に重要になった現代において、世界中が学ぼうとしているトヨタの設計情報がつくられる仕組み=トヨタの製品開発を丹念に解き明かす。


 トヨタはなぜ強いのか?
 「カイゼン」などとして世界中で参考にされている、「効率的な生産」がその強みなのだと僕は思いこんできました。
 しかしながら、著者は、TPS(トヨタ生産方式Toyota Productions System)は、すでに世界の製造業やサービス業での常識となっていて、それで「差別化」できるような時代ではなくなっていると指摘しているのです。

 トヨタの製品(クルマ)がなぜグローバル市場で売れ、競争優位を作り出してきたのか。その答えは簡単である。グローバルの消費者が買いたくなるような製品を作り続けているからである。つまり生産ではなく開発にその秘密はある。
 トヨタの強さの秘密はTPSではなく、TPD(トヨタ流製品開発:Toyota Product Development)なのである。


 いくら生産方式が効率的でも、作ったものが売れなければ、不良在庫が増えていくだけです。
 生産方式による差別化が難しくなったいま、大事なのは「いかにして、売れる商品を開発・設計するか」になってきているのです。

 2015年現在、実は、トヨタ本体の利益の95%以上は東側のTPDのハタラキで生み出されている。また実際に消費者が製品として買うか買わないかといったことを決める製品の「価値」もTPDで企画・設計・開発されている。
 価値も利益も実現手段も、そのほとんどは、もちろんTPDで作られているわけである。
トヨタ本社の)西側のTPSは現在、利益そのものに関して言えばその貢献度は5%以下である。
 利益の95%以上はTPDのハタラキで生み出されているとはどういうことだろうか。これはつまり、製造されるクルマ一台あたり、原価はいくらでどれくらいの利益が出るか、といったことのほとんどが、TPDにおける「トヨタ流原価企画」で企画されていることを意味する。

 ちなみに「トヨタ流原価」もまた、言葉が指している意味のニュアンスが世間と異なる典型例である。
 トヨタでは新人で入社するとすぐに、
「売価ー原価=利益」
 の関係を教えるそうである。
 トヨタでは、売価は変えられない(売価は市場が決める)ので、利益を上げるには、アタマを使って原価を下げるために「アタマのハタラキ」が問われる。それが具体的には「カイゼン」や「改革」の源である。売価が一定なら、利益を増やすには、原価を下げるしかない。


 この本を読んでいると、「ものつくり」という概念が、劇的に変化していることがわかります。

 機械化が進んだいまでは、実際の生産現場ですらも、激しい肉体労働の部分はもはやほとんどない。ましてや述べてきたように、生産現場以前の開発段階で、「設計情報」をアウトプットするまでが、グローバル競争の勝者と敗者を決めている。

 製造業での「勝敗の分かれ目」は、その製品が形になる前の段階に、シフトしてしまっているのです。
 もちろん、だからといって、現場での技術が不要である、というわけではないのでしょうが、それはもうかなりパッケージ化されて「誰でも、どこでもできる」ものになってきていて、大きなアドバンテージを得るのは難しい。
 著者は「製造業は、ざっくり言ってしまえば、『コンテンツ産業化』『情報産業化』『知識産業化』しているのである」と仰っています。
 そうか、もう、いまの製造業って、僕が社会見学でみた「工場」のイメージとは、全くちがったものになってきているのだなあ。

 結局、設計情報やそれらを生み出すプロセスに経済的な価値があるのである。技術はそのための手段に過ぎないのだが、専門家ばかりだと、そこがわからなくなるケースは多い。設計者がいてはじめて技術は価値を持つ。


 あと、これを読んで、トヨタが下請けに厳しい条件を課して、利益を搾り取っている、というイメージが変わりました。
 トヨタ向けに開発した技術は、許可を得れば、他者に営業してもよい、というルールになっているそうです。

 通常、クルマに使われる製品の場合、そのパーツやサブシステムは納入実績がないとなかなか買ってはもらえないものである。デンソーやアイシンなどの場合は、すでに厳しい品質・納期の要求をするトヨタで納入実績があるので、他の自動車メーカーは安心して買えるというわけである。「トヨタに入れているなら大丈夫だろう」というわけである。すでにお墨付きがある。ここでも営業コストを大いに節約できる。トヨタ向けに作ったもの、あるいは共同開発したものを外へは高く売って儲ければよいわけだ。


 トヨタはそれを安く手に入れられるし、関連会社はトヨタのブランド力を利用して、他社に売って儲けることができる、というシステムなんですね。


 僕は経済とか製造業の内幕についてはほとんど予備知識を持たずに読んだので、専門用語など、やや難しいなと感じるところもありましたが、トヨタを通じて、「ものつくり」の概念の変化を知ることができる新書だと思います。

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