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【読書感想】会社はいつ道を踏み外すのか―経済事件10の深層― ☆☆☆

会社はいつ道を踏み外すのか―経済事件10の深層―(新潮新書)

会社はいつ道を踏み外すのか―経済事件10の深層―(新潮新書)


Kindle版もあります。

会社はいつ道を踏み外すのか―経済事件10の深層―(新潮新書)

会社はいつ道を踏み外すのか―経済事件10の深層―(新潮新書)

内容(「BOOK」データベースより)
東芝オリンパスNHK、第一勧業銀行、山一證券…なぜ彼らは道を踏み外したのか。いかにして法の網の目をくぐろうとしたのか。長年、社会部の経済事件担当記者として企業の不正を追及してきた著者が、独自取材をふんだんに盛り込み、事件の裏の裏まですべて明かす。バイセル取引、のれん代、にぎり、飛ばし等々、複雑な経済用語も徹底解説。あなたの会社は大丈夫?全ての組織人必読の経済事件講座、開講!


「経済事件」っていうのは、日頃から『日本経済新聞』とかを読み慣れている人じゃないと、なかなか理解するのは難しいなあ、と思いながら読みました。
著者は共同通信社からテレビ朝日を経て、現在はフリージャーナリストとして、経済事件を取材しつづけているそうです(最初は経済事件担当を志望していたわけではないとのことですが)。

 本書は自分の取材体験をもとに、記者やデスクとして深く関わった経済事件を10件選び出し、手元に残していた取材メモや資料を読み返しながら、事件の再構成を試みたものだ。“極悪非道の大悪人”のように指弾された事件の当事者が、公判を綿密に傍聴したり、時間をおいて取材し直してみると、実は冤罪の被害者だったというケースも珍しくない。これは東京地検特捜部など捜査当局が流す虚々実々の情報を、大手マスコミが疑いもせずにたれ流しているために起こる現象だが、私自身もその世界からスピンアウトするまで、情報操作の片棒を担ぐ一人だったことは否めない。そこで本書では、改めて事件の実像に迫ろうと心掛けた。本書の中に、報道された当時とは様相がかなり異なる事件があるのはそのためだ。


東芝オリンパスライブドアなど、10のよく知られている経済事件について、その詳細と舞台裏、ニュースとして採りあげられた「その後」についても丁寧に書かれている新書なのですが、正直、経済用語に疎い僕にとっては、けっこう読むのが大変だったのです。
日本経済新聞を普通に読みこなせるくらいのビジネスマン向け、という印象でした。


それにしても、大企業の社長や会長になるような人というのは、かなり仕事ができ、人格的にもそんなに破綻していない、はず、そうじゃないと、トップにまで上り詰めることはできないと思うのですが……
権力の座が人を狂わせるのか、きれいごとだけではなく、多少モラルを逸脱するようなグレーゾーンに踏み込まないと、そこまで行くのは難しいのか。


東芝の『不正経理』問題について、著者はこのような経緯を紹介しています。
東芝の西田社長と、その後継者となった佐々木社長について。

 赤の他人にとっては、自己愛の強いナルシストの西田が自分と違う個性の佐々木を非難しているとしか思えないのだが、西田は佐々木に直接「来年は変わってもらうよ」と伝えた。しかし佐々木は「あと1年やらせてください」と応えたという。
 不振の事業部門に対する佐々木の「チャレンジ」の圧力は、このあとさらに厳しくなる。2012年9月20日の社長月例で、上半期の営業損失見込みが201億円となるDS社(PC社と映像事業のVP社が統合された社内カンパニー)の社長が「80億円の改善(圧縮)にチャレンジする」と報告。これを聞いた佐々木は「未達のカンパニーがあると全社で予算未達になる。それなのに、自分たちの提出値を守りますというだけ。まったくダメ。やり直し」と厳しく叱責した。
 1週間後の同月27日に再度開かれた社長月例で、「DS社の上半期の損失がさらに拡大し、248億円に達する」との報告を聞いた佐々木は、上半期末までの残り3日間で赤字を120億円減らすよう強く求め、改善策を翌日報告するよう指示した。これを受けてDS社は翌日、119億円の損益対策を実施すると説明し、佐々木の了解を得た。
 佐々木はこのように、四半期末まであと数日間しかない段階で、困難なレベルのチャレンジを求める傾向が強かったという。不正な会計操作をせずに、それほど短期間で収益を改善できると本当に思っていたとは、とても信じ難い。佐々木の脳裏には「来年には代わってもらう」という西田の言葉が、常にこだましていたのだろうか。


 3日で120億円赤字を減らすなんて、不正以外では、徳川埋蔵金でも発見しないかぎり無理だろ……こういうのを読むと佐々木社長は正気だったのか?と思わざるをえません。
 でも、こういうところで、社長の叱責をおそれて、不正をしてでも帳尻(だけ)合わせしてしまう部下というのもいて、その積み重ねが、巨額の不正経理になってしまったのです。
 企業の不正については、この手の「上司の強引な指示に従ってしまったがために、そういう『無理』が常態化してしまった」ものが少なくありません。
 誰かが歯止めになるべきなのだけれど、企業のなかで、自分がその「歯止め」になることは難しいですよね。


 クレディ・スイス(CS)証券元部長の脱税(無罪)事件では、元外国債券部長の八田隆さんに、悪質な(意図的な)脱税の証拠はみられなかったにもかかわらず、刑事告発されました。

 CS証券の集団申告漏れで、無申告の約100人のうち告発されたのは八田一人だった。査察部が強制調査したもう一人の元幹部は、嫌疑を認めたため告発されず、追徴課税処分だけで終わった。無申告額が八田を超えるケースも1件あったが、「意図的な所得隠し」とする科調第一課の指摘に異議を唱えず、懲罰的な重加算税を含めて納税したため、査察を免れていた。八田は申告漏れの事実は認めたものの、所得隠しの意図を頑なに否定し続けたため、徴税権力の見せしめにされたのだ。


 自分はわざと脱税したわけではない、と事実関係を争うと告発されて刑事裁判となり、悪いことをしていないと思っていても「罪を認める」と追徴課税で済んでしまう。
 この新書を読んでいると、「国家権力に睨まれることの怖さ」を痛感します。
 でも、「やってないことを、やってない」と主張すると罪が重くなる、というのは、あまりにもひどい話ですよね。


 「ライブドア事件」での堀江貴文さんの量刑についても、この新書で紹介されている他の経済事件と比較すると、「実刑は重すぎるのではないか」と考えざるをえません。

 ライブドア事件の公判で堀江は懲役2年6ヵ月、宮内は1年2ヵ月の実刑、中村、岡本、熊谷は執行猶予3年付きの有罪判決が確定した。堀江は上告審まで争ったが、2011年4月26日の最高裁判決で実刑が確定。同年6月から13年3月まで収監された。
 それにしても、わずか50億円余りの粉飾で実刑とは驚くばかりだ。しかもこの事件のスキームを構築したのはどう考えても宮内と、関係先の家宅捜索の2日後に自殺した(とされる)野口で、堀江は粉飾するように指示したり、具体的な粉飾の手法を考案したりしたわけではない。どれほど堀江の役割を重く見たところで、宮内らの報告を聞いて承認し、決済したにとどまる。2007年3月16日の一審判決は量刑の理由をこう書いている。
「被告人は自己の認識や共謀の成立を否定するなどして、本件各犯行を否認しており、公判廷でもメールの存在等で客観的に明らかな事実に反する供述をするなど、不自然、不合理な弁解に終始しており、多額の損害を被った株主や一般投資家に対する謝罪の言葉を述べることもなく、反省の情は全く認められない」
「何度もいうが、当然、私に犯意などない。(中略)検察は『社長として経営責任を負うこと』と『刑事責任を負うこと』を混同しているフシがある」(『徹底抗戦』より)との堀江の主張は、全くその通りだろう。この事件の実像は意趣返しを狙うマスコミと、調子に乗った若い起業家を叩き潰そうとする国家権力がタッグを組んだ「税金を使った露骨なイジメ」なのだ。


 「わずか50億円」と言われてしまう世界って、ちょっと実感がわきません。
 もしかしたら、当事者たちも、それだけのお金に対して「数字」という感覚しかなかったのかもしれませんね。
 読んでいて、「この新書がスムースに読めるくらいは、経済のことを勉強しておいたほうが良いのではないか」と思いました。
 お金のことに関しては、とくに「メディア経由で伝えられるイメージ」に引きずられやすいので。

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