琥珀色の戯言

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【読書感想】さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで ☆☆☆☆

さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで

さよなら、カルト村。 思春期から村を出るまで


Kindle版もあります。

内容紹介
「所有のない社会」を目指す「カルト村」で生まれ、過酷な労働や理不尽な掟に縛られた村の暮らしを受け入れて育ってきた著者は、なぜ自ら村を出たのか? 村で過ごした13歳から19歳までの青春期を描き、当時のマスコミを騒がせた村の実態に迫る、衝撃の実録コミックエッセイ。朝日新聞毎日新聞新潮45TVブロス、アンアンなど、数多くの書評欄で取り上げられ、「その後の話が読みたい!」の声が殺到した話題作『カルト村で生まれました。』の待望の続編! 思春期をむかえた村の子の毎日(音楽、男女交際、一般の本を読むことは禁止。男子の部屋も女子が掃除!)。「個別ミーティング」や内容を大人にチェックされる「日記」など、思想をコントロールする村独自の新たなシステムがスタート。結婚相手は年の離れたおじさん!? 村の「調整結婚」など驚愕のエピソードが明らかに――。


 オビに「衝撃のコミックエッセイ」って書いてあったのですが、読みながら、僕はずっと「これは『普通じゃない世界』なのかもしれないけれど、『異常』なのだろうか?」って、ずっと考えていました。
 いや、親と年に数回しか会えないとか(妹さんとも年に1回くらいしか会えなかったそうです)、学校の図書館にも出入り禁止、大人の気に入らないことをしたら、ひとりだけ隔離されて反省を求められるなんて、やっぱり「普通」じゃないですよね。
 でも、人って大概どんな環境でも「自分にとっては普通」になってしまうものだしなあ。


 僕が印象に残ったのは、村での生活で、毎日日記を書かされていた、ということでした。

 中でも赤ペン先生が○☆(丸星)をつけた日記は、皆の前で読み上げられ廊下に貼り出され、ミーティングの議題になり、村の機関誌に名前入りで掲載される。

 退屈な日常のささやかな楽しみ

 なので村の子の日記は「いかに丸星をもらうか」が目的になり、知らず知らずのうちに村の考えが浸透していくようになっていた。


「洗脳」って言うけれど、無理にあれこれ教えて詰め込むのではなくて、こんなふうに「自分たちにとって都合の良いものを褒める」ようにするだけで、子どもは「褒められたい」という気持ちから、「自発的に」変わっていってしまうのだな、と。
 親とか先生は、何かを「教えよう」とするだけではなくて、「何を褒めるか」で、子どもが向かっていく方向を決めてしまうことがあるのです。

中等部の禁止事項
(1) 音楽を聴くこと
(2) 男女交際
(3) 一般の本を読むこと


 「自分にはとくにやりたいこともない」ということで、ずっと村で暮らしていくつもりだった著者が結果的に「村を出て『一般』で生活する」ことを選んだのは、通っていた学校で、村では禁じられていた「一般の本」を読んでいたことが大きかったのではないかと僕は思ったのです。
 著者は、本を通じて、外部への想像力を持つことができたのではないでしょうか。
そして、もしあなたが何かに「洗脳」されるのを怖れているのであれば、この(1)(2)(3)が「外部への窓」になってくれるはず。
 まあ、諸刃の剣、というところはありますけどね、(2)とかはとくに。


 著者が一般社会に出てから、居場所を見つけるために利用したのが「出会い系」だった、というような話を読むと、「出会った人が、いい人でよかったねえ」と考えずにはいられません。
 こういうのはもう、運だとしか言いようがないところがあるのです。


 これは「告発本」ではなくて、「ちょっと周囲と違った生き方をすることになってしまった、ひとりの女の子の回顧録」なんですよね。
 著者は、自分のおくっていた生活について、誰かを責めているわけでもないし、ものすごく後悔しているわけでもない。
 自分にとっての「あたりまえ」が、世間にとって、あまりにも「異常」だとみられてしまうということに、むしろ戸惑っているようにも感じるのです。
 だからこそ、すごくフラットな視点で書かれているのだよなあ。


 人はどう生きるべきか、子どもはどう育てるべきか。
 それに唯一無二の答えなんてないし、これを読んで「子どもがかわいそう」と言って良いのかどうか、僕にはわかりません。テレビゲームと読書三昧で生きていた僕としては、「自分はこうじゃなくて運が良かった」とは思うんですけどね。

 興味本位で構わないと思うので、いま中学校や高校に通っている人、あるいはその親は、読んでみてほしい。
 そういう生活をしている人たちがいる、というのを知ることで、きっと「視野が広がる」はずだから。


fujipon.hatenadiary.com

カルト村で生まれました。 (文春e-book)

カルト村で生まれました。 (文春e-book)

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