あらすじ
インドのスラム街。5歳のサルーは、兄と遊んでいる最中に停車していた電車内に潜り込んで眠ってしまい、そのまま遠くの見知らぬ地へと運ばれて迷子になる。やがて彼は、オーストラリアへ養子に出され、その後25年が経過する。ポッカリと人生に穴があいているような感覚を抱いてきた彼は、それを埋めるためにも本当の自分の家を捜そうと決意。わずかな記憶を手掛かりに、Google Earth を駆使して捜索すると……。
2017年の映画館での7作目。
平日の夕方の回で、観客は10人くらいでした。
ポスターの『アカデミー賞最有力!』というのは、結果が出た今となっては、ちょっと、せつなくなります。
この映画、インドの回送列車で居眠りして迷子になった少年が、オーストラリアの夫婦の養子となり、Google Earthを使って生みの親にたどりつくまでを描いた「実話」なのです。
迷子になった、とはいっても、5歳の子どもといえば、自分と家族の名前くらいは知っているだろうし、なんで親が見つからなかったんだ?誘拐でもされたんだろうか?と僕は思っていたんですよね。
しかしながら、この映画で、1980年代半ばのインドの状況を知ると、同じ「インド」という国内でも地域によって言葉が通じなかったり、テレビが家にない家庭があったり、親が文盲(文字の読み書きができない)だったり、というさまざまな悪条件が重なっての結果だったことがわかります。
日本であれば、太平洋戦争の終戦直後とかでもなければ、まず考えられない話ではあるのですが。
親としては「もし自分の子どもがこんなことになってしまったら……」と、中盤くらいから涙が出てきて困りました。最近本当に、涙腺がゆるい。
親や兄弟は、いきなり離れ離れになってしまって、ずっと心配して探し続けているのではないか、それなのに、自分はいまオーストラリアで豊かに暮らしている、という引け目みたいなものと、育ての親への遠慮の板挟みになり、うまく生きられなくなってしまう主人公サルー。
彼が起こした奇跡と同時に、彼を育てた養父母の素晴らしさ(彼ら、とくに養母の「善良さ」の背景を知ると、この人もまた「捨てられた子ども」だったのだな、と悲しくなるのです)、傷ついた子どもを養子として育てることの難しさ、インドのストリート・チルドレンたちが置かれている状況など、「監督が断片的にしか描かなかったこと」が強く印象に残る映画でした。
なかでも、子どもたちを収容している施設での性的虐待を示唆する場面や(あからさまには描かれていないのですが)、サルーの弟として養子になったマントッシュが、ずっとトラウマに引きずられ、養父母たちを悩ませる描写など、制作側は「25年ぶりの再会という感動の美談だけではなく、こういう『現実』を知ってもらいたかったのだろうな」と思ったんですよね。
サルーにとっての幼い頃の親との離別は、本当につらいものだったと思うけれど、結果的に、オーストラリアの豊かで善良な夫妻の養子となったおかげで、そのままの暮らしでは得られなかった教育や健康を得られたのかもしれません。
だからといって、彼が幸せだった、運がよかった、とも言えないし、自分で選べるのであれば、サルーは迷子になろうとはしないでしょうけど。
人生塞翁が馬、とは言うけれど。それは他人が決められることではないような気がします。
この映画をみると、もし同じことが2017年に起こったら、ネットの力でもっと効率よくサルーの関係者を探せたのではないかなあ、とも思うんですよね。
サルーの顔写真を撮影して、「この子を知っていますか?」と拡散すれば、なんらかのリアクションがあるのではなかろうか。
その一方で、25年後のサルーが生まれた町の光景をみると、世界には、25年間で大きく変わるところもあれば、そんなに変わらないところもあるのだ、ということを思い知らされます。インドはこの25年間で『IT大国』になっているんですけどね。
……そんなことを考えながらみていたら、作中で紹介されたこんな話で、僕は絶句してしまいました。
インドでは、現在でも年間8万人の子どもたちが行方不明になっている。
……………僕はこの映画を観て、残りの7万9999人の子どもたちに思いを馳せずにはいられませんでした。
Google Earthでも見えない「世界」が、まだ、地球上にはたくさん残されているのです。
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