琥珀色の戯言

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【読書感想】この自伝・評伝がすごい! ☆☆☆

この自伝・評伝がすごい!

この自伝・評伝がすごい!


Kindle版もあります。

内容紹介
なぜ彼らは、偉業を成し遂げることが出来たのか? 今、読むべき偉人伝を日本一の本の目利きが紹介!


 著者が「自伝や評伝」を通じて、さまざまな人物の「参考になるところ」や「これまであまり注目されていなかったけれど、評価されてしかるべき面」について紹介している本です。
 それなら、直接著者の「人物評」を書けばいいのに、と思いながら読み始めてみたのですが、これはこれでなかなか面白かった。


 この著者の本というのは、僕にとっては、相性が悪いというか、ちょっと極論や思い込みで書かれているところが多い印象があるのも事実なんですよ。
 イーロン・マスクの項より。

 この本にはイーロン・マスクのパーソナリティに多くのページが割かれている。まず、印象に残るのが人付き合いの悪さだ。マスクは、学校に通うようになってから高校生の後半になるまでいじめを受けていたという。このおかげでマスクは学校ではひとりぼっちで過ごすことが多かったわけだが、これが吉と出た。つまり普通の子どもなら友達と遊ぶ時間を、本を読む時間に転換できた。そこでSFの本を読み漁り、ロケットや電気自動車につながるSF力を身につけることができたのだ。
 これが友達と年がら年中いっしょにいるような生活だったらどうだろう。余暇は友達と遊ぶような「普通の子ども」になっていたら、今のマスクはないかもしれない。本では「イーロンはジョブズと同じで三流、四流の人物が苦手なんです」という証言を紹介している。つまりマスクのようなSF力をつけるためには、出来の悪い友達といっしょにいるより、本を読んだ方がいいということだ。


 本好きで社会的に成功した人って、こういうことを言いがちですよね。
 三流、四流の人物である僕としては、いじめられて本ばかり読んでいることが成功に結びつく割合に賭けるくらいなら、宝くじでも買ったほうがマシ、だと考えてしまいます。
 イーロン・マスクという激レアな成功例は、一縷の希望になるとしても、その子どものリアルタイムでのつらさを考えると、「普通の子ども」のほうが、よっぽど幸せなのではなかろうか。本ばかり読んでいるより、出来が悪くても、友達と遊びたいのではないかなあ。


 まあ、著者は「本というのは、全面的に肯定するだけではなく、『こんなおかしなことが書いてある』という読み方もできる」と仰っているので、確信犯なのかもしれませんが……


 著者の人物評は、かなり興味深いところを掘り下げているんですけどね。
 ああ、こんな見方があったのか、って。


 iPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥さんについて。

 山中はこれまで研究ではなく、予算獲得に奔走してきた。その中での成果のひとつが山中の意向によって作られた京都大学iPS細胞研究所なのだが、私の山中の印象は科学者というより、金策屋に近い。ようするに、私が山中伸弥を本書で取り上げたのは、ノーベル賞を獲ったからではないのである。


 青色発光ダイオードの開発者で、ノーベル賞を受賞した中村修二さんの項より。

「負けてたまるか!」。これが中村の原動力であり、本書で私が指摘する中村の才能だ。まず、読者にはくれぐれも「青色LED青色発光ダイオード)」を発明したことが、中村の特別さではない、ということを認識していただきたい。中村の特別なところは、「『研究のためには喧嘩も辞さず』ではなく『喧嘩のためには研究も辞さず』」という基本姿勢にある。あくまで「喧嘩」が先なのだ。


 前田慶次かよ!って感じですが、「立派な研究をしたこと」ばかりが強調されがちな研究者の伝記・評伝から、こういう、その人の「一面の本質」を取り出してみせてくれるのが、この本の面白さではあるんですよね。
 ニクソン大統領って、僕は「ウォーターゲート事件で失脚した卑劣な政治家」だと思い込んでいたのですが、政策的には多くの実績をあげており、「アメリカでは、2017年がニクソン復権元年になるといわれている」そうです。
 採りあげられている人物によっては、「いやさすがにそれは良く(悪く)考えすぎなのでは」というものもあるのですが。


 あと、著者が実際に一緒に仕事をしていたことがある(ただし、そんなに長時間ではなかった、ということも明記されています)ビル・ゲイツさんの話も興味深いものでした。

 誰でもビル・ゲイツが利口なことは知っているだろう。では、どう利口なのか。やはり、私が何よりもすぐに思いつくビルの特異な能力は「一挙に3万人ぐらいの名前を軽く覚えられる」ということである。当時、ビルには後に米マイクロソフトのCEOとなるスティーヴ・バルマーという部下がおり、そのバルマーも「私は2万人の部下の名前ならパッと覚えられるが、ビルはそれ以上」と言っていた。ようするに桁外れの記憶力があるということなのだ。ビルの記憶力については、どこかで書いたかもしれないが、まず、ビル・ゲイツの基本能力として挙げておきたい。


 ここまでくると、2万人と3万人を比較することに意味があるのか?とか、そもそも、どうやって比べるんだ?なんて言いたくもなるのですが、なんて圧倒的な「天才の世界」なんだろうか。


 伝記・人物評伝好きの僕としては、読んでみたい本が増える一冊でした。
 いろんな伝記を読み比べてみるというのも、なかなか楽しそうですよね。

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