琥珀色の戯言

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【読書感想】女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと ☆☆☆☆

女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと

女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと


Kindle版もあります。

内容紹介
王子様を待たないで。お寿司も指輪も自分で買おう。


エクソダス」というのは、聖書の「出エジプト記」に記された言葉で、多くの人たちが国境を越えて脱出すること。
もし自分が抜け出せなかったとしても、女たちは、次の世代、また次の世代に、希望を託してきた。
せめて子どもには、今の自分より、少しでも幸せな人生をあげたい。
それって、代々、ちょっとずつ、ちょっとずつ、糸をつむぐように、女から女へ橋渡しされてきた希望の種なんだと思うんです。
今の場所が最低だと思うなら、そこを抜け出す戦略を立てる。
それだけは、どうかやめないで――


大きな帆をあげて、水平線へと漕ぎ出していこうとする娘を見送る母が、今だからこそ、伝えておきたい大事なこと。
人生という航路に絶対安全はないからこそ、知っておいてほしい。
人生に向き合い、幸せを自分で取りに行くための、厳しくもハートフルな生き方指南。


 僕は男で、男の子ふたりの父親なので、この本が対象としている読者ではないのかもしれないな、と思いながら読みました。
 西原理恵子さんは、日本の母親たちが縛られていた「しきたり」みたいなものの矛盾やムダや無理を『毎日かあさん』で描き、多くのお母さんたちの生き方に影響を与えてきました。
 『まあじゃんほうろうき』や『恨ミシュラン』の頃から、「なんか絵はそんなに上手くないけど身体を張って諸方面と闘っている、面白い漫画家がいるなあ」と読み続けてきた僕としては、「僕がここでウダウダしている間に、サイバラさんはこんなところまで行ってしまったのだなあ」なんて感慨深くもあるのです。

 この本は、そんな西原さんが、自分自身の「女の子として、そして、女の子の母親として生きてきた経験」をもとに書かれた「娘への手紙」みたいなものです。
 しかし、「ある意味理想の母親」であるはずの西原さんであっても、娘さんには面と向かってこういう話はできず、こうして文章を書き、本にすることによって間接的に伝えているということに、親子というものの難しさ、めんどくささを感じるところもあるんですよね。


 西原さんがこの本に書いていることは、「女の子は自立しなさい」、ただ、これだけなんですよ。
 世の中のさまざまな「常識」や「誘惑」のなかで、それがどんなに難しいか、西原さんは知り尽くしている。

 20歳までは、困れば誰か助けてくれるかもしれない。でもそこから先は、自分で道を切り開いていくしかない。若さや美貌は、あっという間に資産価値がゼロになってしまう。仕事のスキルや人としての優しさ、正しい経済観念。ゼロになる前にやっておかなければならないことはたくさんあります。自立するって、簡単なことじゃないからね。
 結婚したからっていって、そこがゴールじゃない。相手が病気になることもあれば、リストラされちゃうことだってある。どんなに立派な人だって、壊れてしまうことがある。つぶれない会社、病気にならない夫はこの世に存在しません。そうなってから「やだ。私、なんにも悪くないのに」じゃ、通らない。
 だから、娘に言っています。
「王子様を待たないで。社長の奥さんになるより、社長になろう」
 女磨きって、エステやネイルサロンに通うことじゃないからね。お寿司も指輪も自分で買おう。その方が絶対楽しいよ。
 娘は、今、反抗期真っただ中で、だからお互い口もきいてない。私にも身に覚えがあるから、なんの心配もしていない。
 ああ、そろそろ彼女も、船出の時が近づいてきたんだなって。
 旅立つ前に、伝えておきたい。
 これから世の中に出ていく女の子に、覚えておいてほしいことがある。

「おかあさんは、何もわかってない!」
 はい、いただきました。「大人はわかってくれない」。
 娘、反抗期の王道をまっしぐら。
 おー、今日もきゃんきゃん元気で吠えてるわって、嵐が通り過ぎるのを待ってるというわけ。


 西原さんは、この本に書いたことを娘さんに伝えたいのだと思うのです。
 まあでも、僕自身が子供だった頃を思い返してみると、こういう「あなたのことはわかってるし、なんの心配もしていない」って、「ものわかりがよすぎる態度の親」っていうのも、それはそれで「本当は何もわかってないくせに!」って、反発したくなったのだよなあ。
 親と子って、難しいですよね本当に。
 そして、結婚も育児もしっかりして、お寿司や指輪も買えるくらい稼いで、というのは理想ではあるけれど、それを全部実現しようとすると、余裕がない、ずっと何かに追われているような人生になるような気もします。
 ここまでハードルを上げられると、つらいんじゃなかろうか。


 男だってそうだよね。仕事も家事も育児もパートナーとの関係もちゃんとやるには、1日24時間は、あまりにも短すぎる。そして、「うまくいっているようにみえるひと」がネットで可視化されることによって、それができていない自分にコンプレックスを抱き、周囲からも「こんなにちゃんとやっている人もいるのに」と責められる。
 西原さんの場合は、家事などで手を抜けるところは抜いて、ちゃんとお金を自分で稼げるようにしておきなさい、というのが基本なのでしょう。
 しかし、「両親ともにお父さん」みたいな家庭は、それはそれでキツいよね……


 この本で、西原さんは自身の半生について語っておられます。
 仕事をして、お金を稼いで食べていくためには、どうすればいいのか?

 やらないうちは、何とでも言えるんですよ。
「あの監督はダメになった」「あのマンガは面白くなくなった」、いくらでもディスることができる。
 たまにいますよね。ゴールデン街とかで、いまだにくだまいてるおっさんが。
 根拠のない自信は、人をいっぱしに何者かになったように錯覚させるから。
 要らんプライドをへしおられて、目が覚めてからが本当のはじまり。
 じゃあ自分にできるのは何なのか、初めて次の一歩を具体的に考えることができた。


 私は、芸術がやりたいわけじゃなかった。
 私がやりたいのは、何でもいいから絵を描いて、食べていくこと。
 だとしたら、最下位の自分にできることは、何なのか。そこで考えた。
 それで、私はエロ本に行ったんですよ・
「自分には才能がある」と思っている人たちが、絶対に行かないところにこそ、自分の座れる椅子があるんじゃないか。あの時、どうしてもイラストレーターになるんだって、いつまでもしがみついていたら、今の自分はなかった。


 とにかくやってみることと、自分を知ること。そして、不要なプライドを捨てること。
 これができれば、「食べてはいける」んですよ、大概は。
 でも、こんな「あたりまえのように聞こえること」を実際にやるのは、本当に難しいのです。

 娘が反抗期をこじらせてる大きな要因のひとつに、娘が思春期なのに、かあちゃんも朝帰り。やっぱりこれかなと。高須先生との熱愛宣言があるってこと。
 こじらせますって、そりゃ。
 でもね、こればっかりは、私も譲れない。
 私にも、私の人生があるから。
 誰かを好きになって、でもうまくいかないこともある。だからって、もう誰のことも好きになれないと思ったことは一度もなかった。傷ついたからこそ、それをわかり合える新しい出会いもあるんだなって。
 生きてきて、今がいちばん幸せ。そう言える場所まで、ようやくたどりついた。
 ここまで私、よく頑張った。自分、お疲れ! みたいな。


 この本のなかでは、西原さんと高須院長との恋愛(と、それをオープンにしてネタにもしていること)について、西原さんの子供たちがどんなスタンスをとっているか、というのも書かれています。
 「子供たちはこれまでのお母さんの苦労を知っていて、応援してくれている」というほど、人間の感情はシンプルなものではない、ということに、僕はなんだかすごく安心したのです。失礼な話ではあるんですけど。


 西原さんは、こんなふうにも仰っています。

 六本木にある外資系のステーキレストランに行ったら、受付からボーイまで全員美男美女。
 しかも、お客も外国人が多いから、全員英語が話せるんです。
 東京って、美男美女で英語もしゃべれて、やっとこういう店で時給1500円くらい稼げるんだと思ったら、もうやんなっちゃう、どうしようって、泣けてきた。
 今って、頑張ったことに対する対価があまりにも安いですよね。
 いくら才能があっても、対価が安いんじゃやる気がでない。
 そう言いたくなるのもわかる気がします。


 ああ、この「頑張ったことへの対価が安い」っていうのは、あるよなあ、って。
 みんなが頑張って、レベルアップしようとしていることで、かえって、少しの努力では差がつかなくなっている時代なのでしょう。
 これからはAI(人工知能)とも比べられるだろうし。


 この本、女の子、あるいは女の子の親は、一度は読んでおいて損はしないと思うんですよ。
 全部マネすることはできないかもしれないし、読んで反発するところもあるだろうけど、いつか「あのとき読んでおいてよかったな」って、思い出す、そんな気がします。


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