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【読書感想】強欲の銀行カードローン ☆☆☆

強欲の銀行カードローン (角川新書)

強欲の銀行カードローン (角川新書)


Kindle版もあります。

強欲の銀行カードローン (角川新書)

強欲の銀行カードローン (角川新書)

内容(「BOOK」データベースより)
2016年、自己破産者が13年ぶりに増加した。原因の一つとされるのが、急増する銀行カードローンによる貸し付けだ。消費者金融では年収の3分の1を超えて貸すことができないが、銀行にはその規制がなく、過剰な貸し付けが横行しているのだ。モラル欠落の実態を明らかにする。


 そういえば、普段利用している地銀からATMでお金を引き出すとき、いつも「カードローン機能をお付けすることができます。説明を見ますか?」みたいな表示が毎回出て、鬱陶しいなあ、って思っていたんですよね。
 テレビのCMやネットの広告でも、銀行カードローンに関するものがけっこう目立っています。
 消費者金融が法律でかなり規制されたことにより、銀行がカードローンに進出してきたというのはわかります。
 でも、有名銀行だから、そこまでひどいことはやらないだろう、と、思い込んでいたのです。


 この新書を読んで、こんなことになっているとは……と驚きました。
 2016年、自己破産の申立数が13年ぶりに増加したそうです。
 

 消費者金融は2000年代前半まで、法制度の「隙」を突き、グレーゾーン金利いっぱいの年29.2%でお金を貸しまくり、重たい利息負担で首が回らなくなる多重債務者が後を絶たなくなった。100万円を借りると毎年29.2万円もの利息を取られる計算で、返済が行き詰まるのに長くはかからない。
 そこで2006年に消費者金融などを規制する「貸金業法」が改正された。上限金利は100万円以上を貸すなら年15%、10万円以上100万円未満なら年18%、10万円未満なら年20%までとなり、2010年に完全施行となった。
 このとき、同時に導入されたのが、貸金額は他の業者もあわせて年収の3分の1を超えてはいけない、とする「総量規制」だ。お金を貸すときは信用情報機関を通じて利用者の借入額を調べ、すでに3分の1を超えている場合は新たな貸し出しをしてはいけない、というものだ。
 ところが、カードローンを提供する銀行や信用金庫などの金融機関は、貸金業者ではないため、貸金業法の規制を受けない。消費者金融と同じようなことをやっているにもかかわらずだ。貸金業法が改正された当時は銀行が今のようにカードローンを積極的に売り込んでいなかった、ということが背景にあるが、今は冒頭のCMのとおり、事情が変わっている。
 貸出額を年収の3分の1以下とする総量規制が消費者金融にはかかるのに、銀行にはかからない。このことを疑問に感じたことが、カードローンについて取材をするきっかけだ。


 「堅実な仕事」の代名詞のような銀行も、今はかなり厳しいみたいなんですよね。
 2013年の金融緩和で金利は超低水準となり、競争も激しくなったため、貸出先の企業もなかなか見つからない。
 住宅ローンの金利も1%を切るのが当たり前になっているそうです。
 カードローンはこれらの貸し出しに比べれば、ずっと金利が高く、収益が期待できます。

 多くの銀行のカードローンには、「黒衣(くろこ)」となる保証会社の存在があることも教わった。
 個人が銀行のカードローンでお金を借りるには、保証会社の審査を受け、保証を受けることが「利用条件」となっている。保証会社への保証料は、銀行が払っている。お金を借りた人が返せなくなったときは、保証会社がその個人に代わって借金を銀行に返し、個人にお金を返してもらう「回収」の手続きに入る。回収とは言っても、昔のように荒っぽい手を使うわけではない。電話で催促し、それで埒があかなければ、裁判所に訴えてわずかながらの資産を差し押さえる程度だ。
 その保証会社となっているのが、なんと、消費者金融などの貸金業者なのだ。お金をどこまで貸していいかどうか、銀行に代わって審査する。消費者金融で培ったノウハウで、どんな相手なら、どのくらいまで貸しても元が取れるのか、経験とデータに基づいて判断するのが実は消費者金融の役割なのだ。お金を貸すのはあくまで貸金業法対象外の銀行だから、年収3分の1以下という総量規制を気にせず審査することができる。
 一方の銀行は保証料を負担はするが、誰にいくら貸したところで、貸し倒れても消費者金融が肩代わりするため、ノーリスクで金を貸すことができる。
 貸金業法の規制強化によって貸出額がぐんぐん減っていた消費者金融は、じつは銀行と二人三脚でカードローンの貸出額を伸ばし、保証料を稼ぐビジネスにシフトしていた、ということだ。


 銀行自身は「消費者金融よりも、顧客の返済能力を評価する能力が高い」と言っており、借りる側の「利便性」を主張して、総量規制の対象外であることを正当化しています。
 とはいえ、実際は審査の大部分をやっているのは、これまでの消費者金融ですし、ノウハウの蓄積を考えても、本当に「銀行のほうが調査能力が高い」のかは疑問です。
 「銀行から借りる」というと、「サラ金から借りる」よりは、ずっと健全なイメージがあったのですが、実際は看板を付け替えただけ、みたいな状況になっているわけです。
 しかも、看板を替えたおかげで、「年収の3分の1」という枠にも縛られなくなった。
 

 著者は、カードローンを推し進める銀行側に問うのです。
 ちょっと生活費が足りなくなった、出かけたいけれど、手持ちがない、というときや、冠婚葬祭や医療費など、予定外の出費に、それを乗り切ることができる(そんなに多額ではない)お金を貸してくれるような存在は必要だろう。でも、年収の3分の1以上もの多額のお金を簡単に借りられることに、リスク以上の「利便性」があるのか?と。
 これに対する、銀行側の回答は、かなり苦しいものばかりです。
 まあ、そりゃそうですよね。
 銀行としては、いまや命綱ともいえる存在のカードローンに制約を加えてほしくはない。
 その一方で、個々の銀行員たちは、カードローンのノルマを課せられて、きつい思いをしていることも少なくありません。
 金融業をやっていれば、借金のリスクは熟知しているはずなのに、それでも、成績を上げるために、積極的にカードローン加入や利用をすすめなくてはならないのだから。


 生活困窮者には、生活保護公的支援という道もあるのだけれど、どうしてもハードルが高くなりがちで、担当者に根掘り葉掘り聞かれるわけでもなく、金利が高くても「ご利用ありがとうございます」と接してくれるカードローンに向かいがちです。
 今の日本では、公的支援が必要な人全員を支援していたら、予算も人員も全く足りないんですよね。


 ちなみに、カードローン問題については、こんな話もあるようです。

 新聞各紙がこぞってカードローンで特集を組み始めたのとは対照的に、民放テレビのニュースは総じて沈黙を貫いている。NHKに加え、テレビ東京が民放局でひとり気を吐いて自己破産の現場を取り上げたものの、残る4社の民放局はほぼスルー。これはCMを通じて高金利・高収益なカードローンの恩恵にあやかっていたことと無縁ではない。この間にある民放局で準備されていたカードローンの特集が、営業部門の介入によって立ち消えになったという事例も私は聞いている。


 ムチを使わなくても「飴をあげないよ」と、ちらつかせることによって、メディアをコントロールすることもできるのです。
 広告主が、「CMを出しているテレビ局に批判的な報道をされてはたまらない」と思うのは(正しいかどうかはさておき)理解できます。


 2006年の「貸金業法」改正により、自己破産者や借金による自殺者がかなり減ったのは事実です。
 ところが、いろんな苦い経験を経て、ようやく規制された網の目を、今度は銀行がくぐって稼いでいるのです。
 銀行も、生き残るためには、なりふり構ってはいられない状況にあるとはいえ、こちらもそれに引っかかってあげる理由はありません。
 年収の3分の1が妥当かどうかはさておき(僕は3分の1でも多すぎるような気がするのですが)、銀行カードローンにも総量規制が必要だと思います。
 これを読んで感じるのは、現在、2017年というのは「お金を稼ぐためなら、プライドもモラルも捨てる」というのが、当たり前の時代になっているのだな、ということでした。
 銀行なんて、もともとそんな立派なものじゃないよ、と言われれば、たぶん、その通りなんでしょうけど。


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カイジ「命より重い!」お金の話

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