あらすじ
父が余命宣告され、さらに婚約者が突如失踪した亮介(松坂桃李)は、実家で「ユリゴコロ」と書かれた1冊のノートを見つける。そこには人間の死でしか心を満たすことができない、美紗子(吉高由里子)という女性の衝撃的な告白がつづられていた。亮介は、創作とは思えないノートの内容に強く引き寄せられ……。
2017年の映画館での25作目。週末のレイトショーで、観客は10人くらいでした。
2012年に原作を読んだのですが、正直、内容は「殺人鬼が書いたノートを見つけた人が引き込まれていく話」というくらいしか覚えていませんでした。
原作を再読しておくべきか、と思いつつも、なんとなく気になってレベルだったのだけど、時間が合ったのでこの映画にした、という事情もあり、原作の記憶がほとんどないまま映画を観たのです。
感想を読み返してみると、主人公・美沙子が社会人になって、こんな独白をする場面が、映画でもすごく印象的だったのを思い出しました。
相変わらず、仮面と悟られない仮面をかぶって目立たないようにはしていましたが、職場というのは学校よりももっと寒々とした異様な場所でした。学校にはあった、何もしないという自由、そうしたいときにまわりと接触を断つ自由がないのです。
自分をお金で売っているわけだから、仕事を強制されるのはしかたがないとしても、仕事以外の意味のわからない人間関係にも、否応なく組み込まれなければならない、そうしないと、仕事がうまくできない仕組みになっているのです。
5年前に読んだ小説のディテールはほとんど覚えていなくても、僕が「引っかかる」ところは同じみたいです。
人間、5年くらいじゃ変わらないんだな、と。
観ていると、「吉高由里子さん、メンヘラを演じさせたら天下一品だな……」と思わずにはいられません。
『蛇にピアス』の印象が強いからなのかもしれませんが(今回はあれほどの露出はありませんけど)、なんとなく放っておけないような儚さとエロティシズム、そして、空虚さを「体当たりで演じてます感」をみせずに醸し出せる人って、あんまりいないですよね。
子供時代のエピソードは、あまりにも酷くて目を背けてしまうものばかりなのですが、美沙子が大人になってからの「殺し」に関しては「なぜ男というのは、自分が有利な立場になると、女性の身体をモノのように(まあ、物理的には「モノ」であるのだとしても)、乱雑に扱い、壊してしまおうという衝動に駆られるのか?と考えこんでしまいました。
いやそれは、男全部にあてはまる話じゃないのだから、主語を大きくするな、とか、女だって、自分が圧倒的優位であれば、同じように他者を徹底的に傷つけることに快感を覚えることもあるだろう、とか言われるとは思うのですが。
僕はずっと、戦地でのレイプや略奪を行う兵士たちを「人間のクズだ」と軽蔑していました。
でも、自分が長く生きるにつれ、人が理性的にふるまうのは、守るべきものとか未来への希望(という名の計算)があるからで、絶望感や空虚さにさいなまれたり、自分が何をやっても罪を問われないとか、圧倒的に有利な立場にいたりしたら、「モラル」なんてものは、どこかに吹っ飛んでしまう人のほうが「普通」なのではないか、と思えてきたのです。
だかこそ、「理性的にふるまうことが妥当な環境や状況」を極力維持することが大事なのでしょう。
美沙子のような「殺すことでしか、生きられない」という人が実際にいるとしたら、本当に「更生」させることができるのだろうか。
自分や周囲の人間の身を守るために「排除」するしかないのでは……
この映画、前半は、「なんでこんなことをする人間がいるんだ……」という、目をそむけたくなるような、残酷なシーンが続きます。
こんなの観たって、不快になるだけで、何の意味もないだろう、って思いながら、スクリーンを見ている僕がいて。
なんのかんの言っても、自分が被害者でなければ「残酷なもの」は嫌いじゃない人は、多いのではなかろうか。
中盤は、「空っぽの人」をもっと徹底的に壊してやろうと自ら接近していって、返り討ちにあってしまう人間というのものの「潜在的な残酷さと愚かさ」に嫌気がさしてきます。
そして、ラストは……
えっ、なんだこれ?いきなり園子温監督作品?というか、『キングスマン』を思い出しましたよ僕は。
あれから、何をどうやったら、あんなことができるようになるんだ?
中盤で、松山ケンイチさんが頑張って、「人は変われるんだ」とさんざんアピールしてきたのを嘲笑うかのような展開に、ちょっと笑ってしまいました。
ダメじゃん、結局。
ダメなのは、あの人なのか、それとも、あの人のほうが正しいと思ってしまうような世の中なのか。
でも、「だからつまらない映画」というわけじゃなくて、このなんともいえない「どうしようもなさ」が、けっこう快感なんですよね。
むしろ、ここまで突き抜けてくれるんだったら、たいしたものだ。
中途半端なヒューマニズムに逃げない勇気に、乾杯!
制作側の意図とはまったく異なるのかもしれませんが、「救いようのなさが、救いになっている」という、とても不思議な映画でした。
あまり期待していなかったからなのかもしれないけれど、「予想よりずっと面白い映画」でしたよ、久々に。
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