琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】東大から刑務所へ ☆☆☆

東大から刑務所へ (幻冬舎新書)

東大から刑務所へ (幻冬舎新書)


Kindle版もあります。

東大から刑務所へ (幻冬舎新書)

東大から刑務所へ (幻冬舎新書)

内容紹介
ホリエモン×カジノで106億円熔かした井川意高の壮絶な人生哲学のぶつかり合い】


すべてを失わなければ、辿り着けない強さがある!


大学在学中に起業したライブドア時価総額8000億円企業にまで成長させながらも、
世間から「拝金主義者」のレッテルを貼られ逮捕された堀江貴文


大王製紙創業家の長男として生まれ、幼少時代は1200坪の屋敷で過ごし、
42歳で3代目社長に就任しながらも、カジノで106億8000万円を使い込み逮捕された井川意高。


二人の元東大生が刑務所に入って初めて学んだ〝人生の表と裏〟〝世の中の清と濁〟。
東大では教えてくれない「人生を強く自由に生きる極意」を縦横無尽に語り尽くす。


 『熔ける』という井川意高さんが自らの「カジノ地獄(天国?)」を書いた本を読んで、僕は思ったんですよね。ここまでやれば、ある意味「本望」であり、刑務所に入ることによって、井川さんはようやくギャンブルの呪縛から解放されるのではないか、と。
 これでやめられなかったら、もう、どうしようもないよね……


fujipon.hatenadiary.com


 この新書、その井川さんと、同じように刑務所生活を送ることになってしまった有名経営者である堀江貴文さんの対談本です。


 読み終えて、僕は苦笑しながらつぶやきました。
「こりゃ、ダメだ……」


 井川さん、もちろん出所されてからはカジノには行っていないようですが、テレビの「坊主麻雀」っていう、負ければ丸刈り、勝てば高額賞金の番組に出演したり、それなりに贅沢な暮らしをしたりで、傍から見ると、清々しいくらいに「反省した様子をみせていない」のです。
 むしろ、「おつとめも終わったのだから、これからはまた好きなように生きてやるぜ!」と胸を張っているようにすら思われます。
 堀江さんがライブドア事件実刑判決を受けたことに関しては、僕は「出る杭として打たれた」と考えていて、実刑は厳しすぎると感じていますし、堀江さんが刑務所に入れられたことに対して納得できない気持ちは理解できるんですよ。
 でも、井川さんって、カジノでのギャンブルのために、自分の会社から、途方もないカネを引き出し続けた人で、「言い訳のしようもないギャンブル廃人」にみえます。
 御本人も「わかっていたけれど、ギャンブル依存で抜け出せなかった」のだろうな……と思いきや、「創業者一族でたくさん株も持っていたからいいだろう」って……
 結果的に、井川さんが起こした事件で、井川一族は会社から追われているにもかかわらず、御本人は、どこ吹く風、という感じです。
 なんてひどい人だ、というより、もうここまで来てしまっては、どうしようもないな……という、乾いた笑いが沸いてきます。
 それと同時に、刑務所というのは、人間を「更生」させるための場所ではないのだな、ということも伝わってきます。
 もちろん、人にもよるのだろうけど、少なくとも、井川さんにとっては、反省や更生の場ではなかったみたいです。

井川意高:3年2カ月の懲役刑を勤め上げたあとにしみじみ思うけど、カジノ狂いと特別背任事件が発覚しなければ、私は今ごろまだ大王製紙会長を務めていたかもしれない。少なくとも、50代前半の若さで経営陣から足を洗うなんてことは絶対になかった。
 でもね、大王製紙の役員として人生の大半を終える生き方に、果たしてどれほどの意味があるのかと思う。たとえ年間5000億円の売上を立てている一部上場企業だといっても、10年後、20年後も安泰とは限らないからね。


堀江貴文東芝みたいに、ものの見事にズッコケてつぶれかけてる大企業もありますしね。


井川:今は栄華を誇っている大企業であっても、いつまで左うちわでいられるかなんて、誰にもわからない。それに社長なり会長を何らかの形で辞めたあと5年もたったら、みんなその人の存在なんて忘れてしまう。
 大王製紙は、製紙業界では第3位かそこらの会社なわけよ。そこの創業家3代目の社長がちょこっとエリエールの事業を立て直したからといって、井川意高の名前はちっとも歴史には残らん。今回の事件のおかげで、しょうもない文化史の隅っこかもしれないけど、「井川意高」の名前は間違いなく歴史に刻印されたと思うよ。


 ただ、こういう井川さんという人は、観客としてみれば、滅法「面白い人」であるのもまた確かなんですよ。
 上場企業の社長といっても、世間で名が知られているのは、京セラの稲盛和夫さんや任天堂岩田聡社長など、ごくごく一部のカリスマだけですよね。
 「ホリエモン」こと堀江貴文さんの名前は、経済になんて興味ない、という人にも知られています。
 井川さんも「ああ、あのカジノで106億円負けた人か!」と、かなり認知されているのではないでしょうか。
 しかし、そんなことで歴史に名前を遺すのが本意なのかな……「悪名もまた名なり」とは言うけれど。


 誰それが逮捕された、とかいうのも、けっこうすぐに忘れられてしまうところはありますよね。
 あまりに昔の罪のことばかり言われるようでも良くないのでしょうけど。

堀江:人間ってすぐ忘れる生き物なんですよ。だって僕が長野刑務所からシャバに出てきたのは4年前なのに、僕が元犯罪者だってことを多くの人が忘れてるんじゃないですか。


井川:特捜警察がガサ入れしたときは、日本中のマスコミが「ホリエモン=極悪犯罪者」と喧伝したものだった。なのに今や、たかぽんはゴールデンタイムのバラエティ番組に出演したり、朝の「サンデー・ジャポン」で普通にコメンテーターをやってるもんね。


堀江:人間の記憶ほどいい加減なものはないんですよ。だったら、みんなの記憶なんて全部塗りつぶして、新しいイメージで上書きしてしまえばいい。そのうち「堀江って昔、何かすげえ罪で捕まったらしいぞ」みたいな言説ですら、「えっ、そんなのウソでしょ。都市伝説でしょ。フェイクニュースだよ」となりますから。ググれカスと言いたいけど、ウィキペディアすら調べようとしない横着者が世の中にはあまりにも多い。ということは、負の歴史なんてあっという間に忘れ去られるんです。


井川:仮釈放された直後の2017年2月、私の著書『熔ける』が幻冬舎で文庫化されたのよ。文庫本をお袋に見せたら「えーっ! せっかく世間があんたのことを忘れかけてるのに、なんで本なんて出すのよ」と眉をひそめる。私はこう言い返した。
「いやいや、逆だよ、お袋。このままだったら、オレはただの犯罪者として、記憶され、その記憶さえもやがてみんなの頭の片隅から消えてしまう。こうやってもう1回本を出してもらえれば、『なんだか知らないけどおもしろそうなヤツだな』と思われて、良くも悪くも人々の記憶に残るから」


 実刑を食らうような罪で服役していた人が、けっこう短期間で忘れられる一方で、刑法では罪にならない不倫タレントはずっとそれで干され続ける、というのは、理不尽な感じもします。
 イメージ商売だから、しょうがないところはあるんでしょうけど。
 

 堀江さんの話を読んでいると、警察や検察は「万人に平等で公正」ではなさそうなんですよ。
 彼らが「本気」になりさえすれば、「出る杭」は、あっさり打たれてしまう。
 韓国で前大統領が逮捕され、「あまりにも世論に動かされやすい韓国の司法」を問題視する人が多かったのですが、日本でも、司法は世論や警察の顔色をうかがってしまうのです。「検察のメンツ」なんてものもありますし。

堀江:僕の場合、井川さんが逮捕されたときとは全然状況が違うんですよ。なにしろ、特捜検察から何をどこまで立件されるのか全然予想がつかなかった。「これを違法とするならば、何でも違法にできちゃうじゃねえか」という焦りがあった。いろんな事件をデッチ上げられて、何回逮捕されるかもわかりませんでした。
 弁護士からは「強制わいせつとか、全然別の事件で攻められるかもしれない」と言われました。実際、「堀江貴文に関係する700人の女性リスト」が作られたらしい。


井川:なんだそりゃ。


堀江:あからさまな嫌がらせですよね。特捜検察は性犯罪なんて捜査する部署じゃなくて、大規模な経済事件とか政治家がらみの疑獄なんかを扱う部署です。僕が全然捜査に協力しなくて徹底抗戦してたから、とにかくできるだけ逮捕・拘留機関を長引かせたかったんだと思う。淫行捜査までやって、あわよくばヘンな女から被害届でも出させたかったのでしょう。


井川:堀江貴文に関係する700人の女性リスト」は実際に見せられたの?


堀江:いや、もちろん現物は見ていません。あとから聞いた話によると、携帯電話の番号とか連絡先とか名刺とか、いろんなものが700人分もリストアップされていたらしい。誰とヤッたとか、こいつとはヤッてないとか、そんなことまで調べられていた。本筋とはまったく関係ない話です。


井川:「700人リスト」の中に18歳未満の未成年が1人でも交じっていたら、淫行で追起訴されてたね。


 ジェームス三木さんの『春の歩み』みたいなのを検察が税金を使ってつくってくれるわけです。
 バカバカしい、とは思うのだけれど、一度目を付けた相手には、ここまでやるのか……と驚かされます。
 しかしこれ、本当なのかな……堀江さんも「現物は見ていない」らしいし……
 この手の「別件逮捕」まで駆使されたら、何も出ない人のほうが少ないではなかろうか。

 
 読んでいると、「この人たちも、懲りないな……」と苦笑するのと同時に、刑務所は、人間を「改心」させる場所じゃないのだな、ということも思い知らされるのです。
 よく塀の中で我慢できていたな、と感心するのだけれど、出てしまえば元通り。
 むしろ、お金があれば、窃盗なんてやらなかった、あるいは、幸福であれば麻薬に手を出さなかった、という人のほうが、出所してからどうにかしようと思っても、その先の生活が行き詰まって再犯を繰り返してしまうのかもしれません。


 こういう人たちの存在は、やっぱり「面白い」のだけどさ、僕にとっては。


我が闘争 (幻冬舎文庫)

我が闘争 (幻冬舎文庫)

アクセスカウンター