人工知能の「最適解」と人間の選択 (NHK出版新書 534)
- 作者: NHKスペシャル取材班
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/11/08
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- 出版社/メーカー: NHK出版
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内容紹介
人工知能はブラックボックスだ。人生を左右する判断を委ねていいのか?
AI裁判、AIトレーダー、AI人事、AI政治家、そして、「人類代表」佐藤天彦名人が挑んだ電王戦――。膨大な計算力を背景に導き出される「最適解」に、私たち人間はどう向き合えばいいのか? そして、正しく「操縦」できるのか? 国内外の現場取材を基に、山積みの課題からルールづくりまで、人工知能と社会のかかわりを展望する1冊。『人工知能の核心』に続く、NHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か」シリーズ出版化第2弾!
第一章:「最適解」と神の一手~電王戦第一局
第二章:研究室からリアルワールドへ~広がるビジネス利用
第三章:管理される人間たち~「最適解」といかに向き合うか
第四章:人工知能は世界を救うか~AI政治家の可能性
第五章:盤上に現れた未来~電王戦第二局
2016年5月15日に放送されたNHKスペシャル『天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る』を書籍化した『人工知能の核心』の続編にあたります。
fujipon.hatenadiary.com
2017年6月に放送されたNHKスペシャル『人工知能 天使か悪魔か 2017』が元になっているのですが、前作が「人工知能の現在」を紹介した内容であるのに対して、今回は「人工知能が社会に浸透していくなかで、人間は人工知能とどう付き合っていくべきなのか」がテーマとなっているのです。
すでに、人工知能は、生活のなかに取り入れられていて、さまざまな影響を及ぼしているのですが、結局のところ、それを使うのが人間である、というのが最大の問題点ではあるんですよね。
この本のなかで、最後の『電王戦』での佐藤天彦名人と最強の将棋ソフト・ポナンザとの対局が採りあげられています。
結果は、佐藤天彦名人の2連敗だったのですが、この対局そのものは大きな話題になったものの、佐藤名人が負けてしまったことに対しては、ほとんどの人が冷静に受け止めていたのです。
『電王戦』で、はじめて現役プロ棋士がコンピュータに負けたときの人間側の憔悴を考えると、隔世の感があります。
『ポナンザ』が、佐藤慎一四段を破ったのが、2013年5月ですから、まだ4年半しか経っていないのに。
事前準備用に貸し出されていたポナンザとの対戦について、記者から尋ねられた佐藤名人は、「ほとんど勝っていません」と率直に明かしている。
「ポナンザは、現役のプロ棋士の強さを超えていると言っていいぐらいの実力を持っているのではないかというのが個人的な意見です」
もちろん、名人の威信を賭けた戦いに敗れたことには、「残念です」の一言では表されない心境があっただろう。しかし、対局を自ら明晰に分析する佐藤名人の姿には、何より、ポナンザという「強い相手」から大きな刺激を受けた喜びが窺えた。
「技術的なことが勉強になったのはもちろんですが、『こんな世界もあるんだ』『将棋にはこんな手もまだ残っていたんだ』と感じられたことが、将棋を愛好する者として大きな財産になったと思います。『これまで人間がやってきた将棋とはまた別の銀河があってもおかしくない。それぐらい大きな可能性が将棋にはあるのかもしれない』と感じました」
盤上で人工知能と出会った衝撃は、佐藤名人の心を大きく揺さぶった。
「ポナンザは、人間よりも将棋の神様に近い側にいるのではないか。それほどのすごい存在と一瞬すれ違った――それが今回の電王戦だったのだと思います」
人工知能の力を見せつけられた電王戦第一局。羽生善治もまた、佐藤名人に通じる思いを抱いた。
「今までの根本的な将棋のセオリーをもう一回見直さなくてはいけなくなった。その点で、非常にインパクトの強い一局だったと思っています。棋士たちがシャベルやスコップで掘っていたら、人工知能が急にブルドーザーで一気に開拓を始めた――そんな印象です。人工知能によってまた、今まで見たこともないような新たな手や戦術が生まれてくる可能性は十分あるのかなと思います。最近よく考えるのですが、ずっと長く将棋をやってきた身としても、全体の中のひとかけらというのでしょうか、(人間は)一部分の局面しか見てこなかったのだなと」
佐藤天彦さんや羽生善治さんは、人工知能と勝負する、というよりも、人間より強い人工知能から学んで、人間の将棋をより深化させていこう、と考えておられるようです。
将棋の世界で起こっていることは、人間社会全体でこれから起こることを先取りしている、とも言えそうなんですよね。
人工知能と人間が勝負するのではなく、どうやって人間より優れた人工知能を活用していくか、という時代になってきているのです。
そこには大きな問題もあって、『ポナンザ』のように「機械学習で自ら学んで強くなる」という場合には、人間には、その思考、選択のプロセスがわからないんですよね。
この本のなかでは、アメリカですでに利用されている「受刑者の再犯率を予想する人工知能」が紹介されています。
人工知能の再犯予測は、主に裁判前と裁判中の二つのタイミングで使用されている。裁判前においては、被告人が裁判を待つ期間、釈放するかしないかを決める判断材料として、また裁判中は、被告人の刑期や出所後の保護観察の期間と内容を決める裁判資料として、裁判官や保護観察官に渡される。
全米各地で導入が進んでいるが、2002年から利用を始めたバージニア州では、刑務所の人口増加率が31パーセントから5パーセントにまで低下したという。
賛否が議論されている、微妙な状況下で、私たちの取材依頼に応じる裁判所はほとんどなかった。ようやくOKをもらえたのが、カリフォルニアワインの産地として知られる、カリフォルニア州ソノマ郡にある裁判所だった。
ソノマ郡裁判所では、2009年に人工知能を導入し、その予測結果を刑期や保護観察処分の内容を決める重要な材料の一つにしている。人工知能を使うようになってから、ソノマ郡では再犯者の割合が10パーセント程度減少しており、刑務所の運営にもわずかだが、余裕が生まれ始めているという。
アメリカの刑務所は定員オーバーが続いて困っている、という話は聞いていたのですが、すでに、人工知能による再犯リスクの評価が運用されていることは知りませんでした。
担当の保護観察官が人工知能に入力するのは、過去の犯罪歴、仕事や収入、教育歴、年齢、性別、育った家庭環境などだ。すると人工知能は、過去の法廷データや犯罪常習者の統計など膨大な情報を基に被告人の未来を予測する。この先三年以内の、再び犯すかもしれない罪の内容とその可能性を示すのだ。
ハルバーソン氏に、ある被告人のデータを人工知能に打ち込んでもらったところ、本当にすぐに結果が出てきた。確かに便利で、これなら誰にでも簡単に使えるだろう。「この被告人は『薬物リスク高』と出ました。つまり、この人物はドラッグに関する犯罪を再び行う可能性が高いということです」
便利で、素晴らしいシステムじゃないか、と僕も思ったんですよ。
ただ、自分が「分析される側」だった場合、模範囚として刑期をつとめているのに、仕事や収入や家庭環境で「再犯率が高い」と評価されたら早目に出所することができない、というのは、納得できないですよね。自分は「これから」ちゃんとやろうと思っているのに、って。
この本では、そういう受刑者のひとりに、実際に取材をして話をきいています。
「そんなこと、機械に決められるのは、納得できない」
そりゃそうだよなあ、って。
もっとも、人間の主観で決めるのが正しいのかどうか、というのも曖昧なところがあって、この人も、人工知能が決めたほうが早期出所できるのならば、「客観的な判断ができる」人工知能の評価のほうがいい、と主張するかもしれません。
人工知能が判断をするためのデータそのものに偏りがある場合も多く、すべてを人工知能任せにするのは、まだまだ難しいようです。
もっとも、そういう「差別や偏見に基づいたデータ」を積み重ねてきたのは、人間自身なわけですが。
佐藤(天彦)名人に歴史的な勝利を収めた人工知能・ポナンザが、新鋭のソフトに敗れたように、人工知能は現実社会においても、人間をはるかに超えた次元で互いの性能を競い合う新たな時代に突入した。
ビジネスにおいては、人工知能の「最適解」が産業の生産性を高め、経営判断を下し、人事評価もこなす。熾烈なグローバル競争を勝ち抜く上では、企業がいかに人工知能を使いこなすかが、ビジネスチャンスをつかむ鍵を握っている。
また、人工知能は身近な生活に豊かさをもたらしている。ロボットが掃除してくれたり、乗りたいタイミングで目の前にタクシーを手配してくれたり、ロボットが話し相手になってくれて心が救われることもあるだろう。
一方、2014年にイギリス・オックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士が、論文「雇用の未来」で示したような懸念も現実のものになりつつある。仕事が人工知能に置き換わる可能性や、人工知能が巨大企業や国家などに有利に働くようにプログラムされ、従業員や市民の選別や誘導、操作に利用される事態も私たちの足元で静かに広がっている。
社会的な不安を防ぐガイドラインづくりの動きも国内外で見られるが、基準はまだ定まっていない。一つのルールを決めても、技術の加速度的な進化が新たな課題を生み出すという事態も起こっている。
人工知能を取り巻く状況は複雑で、課題は山積みだ。
人工知能は、人間を幸せにするのか?
結局のところ、人工知能を使うのが人間である、というのが、最大の問題なのかもしれませんね。
人間は「自分より賢い存在」を受け入れ、それに従うことができるのだろうか。
- 作者: 羽生善治,NHKスペシャル取材班
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- 作者: 大川慎太郎
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