北朝鮮はいま、何を考えているのか (NHK出版新書 537)
- 作者: 平岩俊司
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/11/29
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Kindle版もあります。
- 作者: 平岩俊司
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/11/30
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内容(「BOOK」データベースより)
二〇一七年に入り、ミサイル発射と核実験を立て続けに行う北朝鮮。金正恩は本気で戦争をするつもりなのか?そのとき、アメリカは、日本は、世界は、どう対処するのか?北朝鮮研究の第一人者が危機の要因を明らかにし、今後の見通しと問題解決へのシナリオを提示する。
日本近海にミサイルを飛ばしてくるし、拉致問題の調査は進まないし……経済力では日本のほうが圧倒的に優位ではあるものの、万が一、核兵器を使われるようなことがあれば、ものすごい数の犠牲者が出ることは確実です。
かなり経済的に困窮していて、国民の生活も苦しいはずなのに、三代にわたる独裁政治がまだ続いている北朝鮮。
日本が負けることはないだろう、なんて思うのですが、北朝鮮と戦争をしても、少なくともこちらには得るものがなさそうですし、それこそが、北朝鮮にとっての「強み」になっているような気がします。
「Jアラート」でミサイル通過の一報が鳴り響くと不安な気持ちになり、いっそのこと、先制攻撃してしまったほうが良いのではないか、なんて、考えてしまったりもするのです。
たった一発、それも、自分の住んでいる場所とは遠い上空を通過していっただけなのに、こんなに不安になるのだから、いつ空襲されるかわからなかった太平洋戦争末期の人たちは、気が休まることがなかっただろうなあ。
もちろん、どんな環境にでも「慣れ」はあるのだとしても。
アメリカだって、向こうから仕掛けてくるのでなければ、あまり関わりたくない、というのが本心でしょう。
中国やロシアとの関係もあるし。
一触即発の米朝関係――そんな情勢を見て、一般の人がまず考えるのは、「北朝鮮の若い指導者は大丈夫か」という思いではないだろうか。つまり、気まぐれや経験不足から、戦争を引き起こすなどの常軌を逸した行動をとるのではないのかという不安だが、それは正しくない。核にしてもミサイルにしても、北朝鮮は思いつきで行動しているわけではなく、彼らなりの合理的な――もちろん、世界が受け入れられるものではないが――論理がある。それぞれの実験では常に目標を設定し、用意周到に準備したうえで、アメリカをはじめ中国・韓国・日本などの周辺国に最もインパクトを与えられる機会を狙って強行している。国際社会の声を無視しても核・ミサイル実験を繰り返すのは、金正恩が「若くて経験不足の独裁者」だからではなく、北朝鮮という国家の明確な方針であり、目標なのである。
となると、「金正恩は交渉可能な相手なのか」という問いが出てうが、それに対しては「そう見るべきだ」と私は思っている。彼らは彼らなりの緻密な考えや計算があり、決して場当たり的にやっているわけではない。だからこそ彼らの行動論理を理解したうえで、彼らの行動の真の意味と目的を把握する必要がある。もちろん彼らの論理に付き合うことはできないが、少なくとも常軌を逸した思いつきの行動ではないことを前提にして彼らに向き合う必要がある。
互いに牽制し合うアメリカと北朝鮮でが、本来的な着地点が「外交」であり、「対話」であることがは間違いない。しかし、その対話の意味が、アメリカ・日本と、北朝鮮とではまるで異なる。日米にとっての対話が「北朝鮮に核を放棄させるための対話」であるのに対して、北朝鮮のそれは「自分たちの核保有を認めさせたことを前提とする対話」である。
「こちら側」からみれば「何を考えているのかわからない」し、「核ミサイルを開発するより、国民の生活レベルの改善のほうが大事じゃないの?」と思うのですが、北朝鮮にとっては、現在の体制を維持することが大事なんですよね。
被爆国である日本からみると、核兵器は「悪しきもの」だとしか思えないのですが、最近のアメリカの政策をみると、北朝鮮が核兵器を放棄する可能性は乏しそうです。
北朝鮮の核危機は今回が初めてのことではない。1993年の核拡散防止条約(NPT)脱退宣言から95年の朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)発足までの期間を第一次核危機、そして2002年の北朝鮮のウラン高濃縮計画発覚、翌03年のNPT脱退通告から現在に至る状況を第二次核危機と呼んでいる。このあたりの事情については第三章で詳しく述べるが、ここで言っておきたいのは、90年代の核危機と2002年以降の核危機では、北朝鮮の目的が大きく異なっていることである。
第一次核危機のときの目的は「交渉」で、核開発をちらつかせることでアメリカと交渉し、朝鮮半島の休戦協定を平和協定に変えたい、あるいは国交正常化したいということだったと言ってよい。つまり核は交渉・取引のカードだった。しかし第二次核危機以降、より明確に言えば2006年の第一回核実験以降は、逆に「核を持っていれば攻撃されない」と考えを改める。イラクのフセインもリビアのカダフィーも核がなかったから倒されたのであり、核兵器の保有こそが自分たちの体制を守る唯一の方法だと北朝鮮の指導部は確信するようになったのだ。
もはや核は交渉・取引のカードではなくなったのである。すなわち、イラクのフセインは核を持っていなかったからアメリカに攻撃された。またリビアのカダフィーは核を放棄したからアメリカに裏切られた、核さえ持っていればそんなこににならなかったのに――と、フセインとカダフィーの二つの事例は、北朝鮮にとって絶対に核を放棄してはならないという「教訓」となったのである。トランプ大統領はイランの核合意についても「イランは遵守していない」として見直しを示唆した。事態の推移によっては、フセイン、カダフィーに続く第三の教訓ということになるかもしれない。
たしかに、「核を持たない、あるいは放棄した独裁国家が、たて続けにやられてしまった」のは事実なんですよね。
人間、追い込まれれば何をやるかわからない。独裁国家の権力者が危機に陥ったとき、多くの人を「道連れ」にする可能性は否定できません。
アメリカ本土にまで届く核ミサイルがあれば、アメリカだって、そう簡単には手を出せません。アメリカとしては、「勝つのが当然の相手だからこそ、多くの犠牲を出してしまうわけにはいかない」のです。
僕が北朝鮮だったとしても(人間の思考と国を比較するのは無意味でしょうけど)、最近の事例をみれば、核放棄は選ばない。
インドやパキスタンは核兵器を持っているのに、なんでうちはダメなんだ!というのは、そんなにおかしな理屈ではないようにも思います。
日本にとっては、はなはだ迷惑ではあるものの。
北朝鮮は、いろいろと困った国ではあるのですが、その一方で、周辺諸国にもさまざまな思惑があるのです。
著者は、中国にとってはコントロールしがたい存在ではあるものの、自国の国境にアメリカの勢力との緩衝地帯としての北朝鮮があるほうが望ましく、ロシアには、アメリカとの交渉材料として使える、という利点があり、韓国からすれば、統一が悲願ではあるものの、いきなり崩壊して統一、ということになれば、韓国側の負担が大きくなりすぎる、という北朝鮮の微妙な位置づけを解説しています。
アメリカにとっても、「自国の威信を示す」「軍需産業の仕事を増やす」こと以外には、北朝鮮と戦うメリットはないんですよね。
韓国と北朝鮮の関係というのは、日本からはなかなか理解しがたいものがあるのです。
もともとはひとつの国で、朝鮮戦争では、資本主義と共産主義、それぞれの陣営の思惑で分断されてしまったのだけれど、北と南で戦ったのも事実です。
韓国の「嫌いな国」では、北朝鮮1位、日本2位、というのを何度も聞いたことがあります。
歴史を遡れば、前述したラングーン事件(1983年にビルマ(現ミャンマー)のラングーン(現ヤンゴン)で発生した爆弾テロ事件。韓国の大統領暗殺が目的で、大統領は無事だったものの、韓国の閣僚が多数死傷。北朝鮮の工作員によるものとされる)の場合も、事件の直後に北朝鮮の側から米韓朝の三者会談開催が提案されている。そして、100名以上の死者が出た大韓航空機爆破事件の後ですら、南北の総理級の会談が実現したのである。いずれも、一般的な国際関係ではあり得ない話である。
この2つの大きなテロ事件を国家的に行った相手と、すぐに「対話」するというのは、一般的には考え難いと著者は仰っています。
そりゃまあ、そうですよね。
あんなことをやっておいて、いきなり「話し合いましょう」なんて、虫が良すぎる。
しかしながら、それをずっと続けてきたのが北朝鮮と韓国で、長年争い続けていても、完全に断絶することもない関係なのです。
韓国も北朝鮮相手だと辛抱強いのか、「再統一」のためなら、なりふり構わない、という姿勢なのか。
この本を読んでいて痛感するのは、日本と北朝鮮がうまくやっていくのは、かなり難しいだろうな、ということなんですよ。
その大きな理由として、日本の経済的な停滞と中国の経済成長により、北朝鮮にとって、「交渉相手として、日本の優先順位が下がっている」というのがあるのです。
経済支援を求めるのであれば、経済力をつけた中国や韓国相手にも期待できるようになったし、日本の自衛隊が侵攻してくることはまずありえない。歴史的に、日本を責める材料には事欠かない。
日本にとっての北朝鮮は、安全保障上、大きな不安要素なのだけれど、北朝鮮にとっては、脅してもやり返してくる心配が少ない相手なのです。
だからといって、やり返すわけにもいかないし。
著者は、「だからといって、北朝鮮が外交上手だとも言い切れない」とも仰っているんですよ。
「現体制を延命させる」ことには成功していても、経済的な発展らは取り残され、国民の生活は豊かになっていない。膠着状態をこのまま続けていくにも、限界はあります。
それにしても、北朝鮮の情勢は、なかなか先が見えないですよね。ずっとこのままではないとしても、僕が生きているあいだに、なんらかの劇的な変化はみられるのだろうか。
- 作者: 古川勝久
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- 作者: 香田洋二
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/12/13
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