琥珀色の戯言

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【映画感想】デトロイト ☆☆☆

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あらすじ
1967年の夏、アメリカ・ミシガン州デトロイトで大規模な暴動が発生し、街が騒乱状態となる。2日目の夜、州兵集結地の付近で銃声が鳴り響いたという通報が入る。デトロイト警察、ミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、地元警備隊は、捜査のためにアルジェ・モーテルの別館に入る。数人の警官が、モーテルの宿泊客相手に捜査手順を無視した尋問を開始。自白を強要された宿泊客たちは……。


www.longride.jp
(注:音が出ます!)


2018年、映画館での2本目。
観客は僕も含めて4人でした。


アカデミー賞最有力!
……なんていうのは、この時期に公開される映画にはありがちな宣伝文句なのですが、前評判が高かったにもかかわらず、全くアカデミー賞から「スルー」されてしまったことがかえって話題になったこの作品。


forbesjapan.com


テーマが半世紀前にアメリカ・ミシガン州デトロイトで起こった暴動と人種差別ということで、なんらかの「忖度」が働いたのではないか、という説もあったのですが、実際に観てみると、「すごい映画だとは思うけれど、良い映画かと問われたら、ちょっと悩んでしまう」という感じなんですよ。
僕はこの映画のタイトルをみて「デトロイト暴動」の全貌を描いた作品なのだと思いこんでいたのですが、実際に描かれているのは、その暴動のなかで起こった、アルジェ・モーテルという安ホテルで白人の警察官たちが、「アフリカ系アメリカ人」の発砲容疑者たちに行ったあまりにも苛烈で横暴な尋問と、その後、彼らがどう裁かれたか、ということだったのです。
話題になっている「40分間」、密室で警官たちが容疑者とされた人々を追い詰めていく場面は、見ていて本当につらかった。
ただ、こういう映画の常として、観客にはその「裏側」も見えているので、「ああ、実際には撃たれていなかったんだな」とわかってしまうと、当事者が感じていた恐怖を追体験するのは難しいところもありますね。


正直、僕自身は人種差別というものをする側、される側として実感したことがほとんどないので、冒頭のデトロイトの暴動で、警官たちに投石し、パトカーのフロントガラスを破壊し、市街地の店に火をつけて略奪しまくっているアフリカ系アメリカ人たちをみて、「これは、ある種の『内戦』みたいなもので、警官の側が過剰な防衛をしたり、逃げる犯罪者に発砲したくなったりするのも、気持はわかるな」と思ったんですよ。

僕は以前、アメリカから来た英語の先生と話をしていて、「なぜ、アメリカは世界に並ぶことなき強国なのに、テロリストを撲滅するため、という理由で、圧倒的に力の差がある他国を攻撃するのか?」と訊ねたことがありました。まあ、不躾としか言いようがない質問ではありますが。
先生は、僕に、こう話してくれたんですよ。
「傍からみたら、アメリカと、たとえばイラクだったら、戦力に圧倒的な差があるようにみえるだろうけど、アメリカで生活している人間にとっては、次にテロで命を落とすのは、自分や家族や友人ではないか、という危機感が常につきまとっているんだ。とくにあのNY同時多発テロ以来。だから、自分の身を守るためには、先制攻撃もやむをえない、と考えている人もたくさんいるんだ」


キャスリン・ビグロー監督は、暴動を起こしている連中を「無辜の民」「善良な人々」としては描かなかった。
彼らが日頃、有形無形の差別を受け、生活も苦しいことはわかる。
でも、いまの日本で生きている僕にとっては「だから、暴動を起こして、店に火をつけたり、略奪するのも致し方ない」とは思えない。


お互いに、相手に「怒り」や「恐怖心」を抱いていて、何かのきっかけで争いが起こることによって、さらに憎しみが連鎖し、増幅していく。
もし自分が警官の立場だったら、適切な対応ができただろうか?
戦争中であれば、「こういうこと」は少なからず起こっていたはずです。
白旗を掲げていた敵が、いきなりマシンガンを乱射してきた、という体験を一度してしまったり、そんな話を同僚からきいていたりしたら、「降参を受け入れるのも怖い」ですよね。


この映画は、デトロイト暴動、とくに、アルジェ・モーテルでの事件にかかわった人々の群像劇なのですが、僕が外国人の顔を見分けるのが苦手なこともあり、正直、「なんだかゴチャゴチャしていて、ひたすら緊張感と不安感が煽られ、観ていて疲れるし、その後にカタルシスが約束されているわけでもない作品」だったのです。


キャスリン・ビグロー監督が撮りたかったのは、まさに「そういう映画」だったのだと思います。
しかし、いち観客としての僕は、この映画の、あまりにもリアルな素っ気なさ、みたいなものが、あまり好きになれませんでした。
すごいよ、すごいんだけど、なんでお金を払って、こんなキツいものを観なければならないんだ?
それに、この映画で語られている内容は、あくまでも、一部の当事者が証言した「事実」に基づくものです。
もちろん、ある程度の信頼性があるという前提で映画化したのでしょうけど、鵜呑みにして良いものなのか、という迷いもある。
事実だとしたら、あの状況で、発砲音を鳴らして警察を挑発する側にだって、責任はあるとしか思えない。
もちろん、やったことの「軽さ」に対して、あまりにも酷い仕打ちだったとは映画をみていると感じるけれど、ネット掲示板に「小女子を焼き○す」と書き込んだあとで、「小女子=こうなごという魚のことだった」とか言い訳していた人のことを思い出しました。
もちろん、差別や警察の横暴を支持するわけでは無いけれど、この映画って、白人側の問題と同時に、こうして「断絶」は進んでいくのだ、ということが描かれているのです。


率直に言うと、他人には奨めがたい映画なのだけれど、自分以外の観客がどう感じたのか、訊ねてみたい作品ではありました。


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