
- 作者: 中島恵
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2017/10/11
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。

- 作者: 中島恵
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2017/10/25
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内容(「BOOK」データベースより)
爆買い、おカネ大好き、パクリ天国―。こんな「中国人」像はもはや恥ずかしい?街にはシェア自転車が走り、パワーブロガーが影響力をもつ中国社会は、私たちの想像を絶するスピードで大きな変貌を遂げている。次々と姿を変える中国を描いた衝撃のルポルタージュ。
自己主張が強くて、爆買いをして、トイレの使い方が汚くて、うるさい。
僕も中国の人に対して、そんなイメージを持っていました。
ところが、最近の中国は、だいぶ変わってきた、日本以上の「IT社会」になってきているらしい。
ただ、そういうのは、上海とか、一部の大都会だけじゃないの?とも言われていて。
この本は、中国で長年仕事をしてきた著者が、近年の中国を、自らの経験と取材を通じて描いたものです。
2017年6月下旬、東京・銀座の老舗和菓子店で買い物をしていたときのことだ。
「あっ、そうだ。日本ではまだ現金しか使えないことをすっかり忘れていたわ」
「日本は、こういうところはけっこう遅れているんだよねぇ」
耳を疑うような中国語の会話が聞こえてきた。
隣のレジで買い物をしている40代くらいのおしゃれな中国人夫婦が小声で話していたのだ。二人とも片手にたくさんの買い物袋を提げ、もう片方の手でスマホ(スマートフォン)を握りしめている。
中国の都市部で頻繁に使われるスマホを使った電子決済サービス、ウィーチャットペイ(微信支付)を使って支払おうとしたようだが、日本では電子決済がまだできない店が多いことに気づいたのだ。周囲に中国語がわかる人はいないと思ったはずで、悪気はない。
この会話を聞いて、「やっぱり今、中国から来日したら、こういうふうに感じてしまうんだろうな」と思い、ひとり苦笑した。
高度に経済発展している中国でも、多くの人は日本に対して、「自分たちの国よりずっと以前に経済発展した先進国」というイメージを抱いている。しかし、その先進国で、中国では当たり前に使われるスマホによる電子決済がほとんど使えないのだから、相当驚いたに違いない。
日本でも報道されているので、ご存じの方も多いと思うが、都市部に限らず内陸部でも中国人はスマホ決済を使いこなし、便利な生活を謳歌している。目覚ましいITの進化は彼らに自信と余裕をもたらす。
中国の都市部だけではなく、内陸部でも、スマホ決済は一般的なものとなっているそうなのです。
ただし、著者は、中国のIT化=日本より進んだ社会、とも言えないと指摘しています。
中国では、偽札が少なからず流通し、現金はいちいち確かめないと偽札にすり替えられるリスクが高く、クレジットカードもなかなか普及しなかった、という時期がかなり長かったのです。
そういう社会だったからこそ、偽札や偽造カードのリスクがないスマホ決済は「信頼度が高い、革命的な取引方法」として爆発的に普及していったのです。
日本のように、現金取引、カード決済のリスクが低い社会では、「わざわざスマホ決済に切り替えていく切実な理由がない」とも言えるんですよね。
中国の急速なIT化は、アフリカで、もともと据え置き電話があまり普及していなかったために、かえって携帯電話が急速に普及したのと同じような現象なのでしょう。
この本を読むと、スマートフォンの普及と生活必需品化は、中国人の生き方を変えてきている、ということがわかります。
それは中国人の心に”人を信用し、信用される喜び”を植えつけ、「いい人」を作り出していくシステム「芝麻(ごま)信用」だ。芝麻信用とは不思議な名称だが、物語『アリババと40人の盗賊』で使われる名セリフ「開けゴマ」からきている。「チャンスは開ける」という茶目っ気のあるネーミングだ。
これはアリペイのアプリの一つで、簡単にいえば、自分の評価をまとめた採点表のようなものである。採点の結果、よい行ないをすれば自分の評価がまとめた採点表のようなものである。採点の結果、よい行ないをすれば自分の評価が高くなって、悪い行ないをすれば評価が上がるというもの。アメリカのクレジットスコアとほぼ同じ仕組みだ。日本でもオークションサイトなどで似たような仕組みがある。
政府に認定された正式な評価基準ではないが、2015年1月の導入以降、急速に利用者が増加し、2017年6月現在、約3億5000万人が使用している。これまで中国では個人の信用を客観的に測るものがなかったので、初の試みだ。
アリペイは自社の決済システムを利用した人々から、膨大な情報を得ている。そのビッグデータを今後政府と連携して社会のあらゆるものに活用していくという壮大なプロジェクトが動き出しているが、そのデータをもとに個人情報を自動的に分析、それを点数で表記しているのがこの芝麻信用だ。
たとえば、シェア自転車をきちんと返却したか、公共料金を毎月支払っているか、交通違反をした前歴がないか、ネットショッピングの支払いが滞っていないか、タクシー配車アプリを使用して問題なく乗車したか、犯罪者の手伝いをしていないか……等々、さまざまな履歴データを分析し、素行がよければ自動的にポイントが加算されていく。
「信用」を測る基準は、個人情報(職業、年齢など)、支払い履歴、消費の特徴などに分かれ。それぞれポイントが高いほどいい。ポイントは350点から950点まで、較差(やや劣る)、良好(普通)、極好(とてもよい)などの五段階に分かれている。
本人はこのアプリで、自分の”信用度”をいつでもチェックできるようになっている。
なんだか毎日成績表を見せられているような気分だし、私などは違和感を覚えるが、合理的で、身分証によって常に管理される(中国の身分証にはICチップが組み込まれていて、出入国履歴や病歴などあらゆる個人情報のデータが入っている)ことに慣れている中国人にはこれが受け入れられ、案外”いい方向”に作用しているそうだ。
このポイントが高い人は信用度が高いということで、自分から、「芝麻信用」の情報を開示することによって、ホテルの予約の保証金が不要になる、婚活サイトで優先的に条件のいい相手を紹介してもらえる、海外旅行のビザが早く取得できる、などのメリットがあるそうです。
逆に、ポイントが低いと、住宅ローンが借りにくくなったり、スマートフォンを利用したシェア自転車が利用できなくなる、就職試験で不利になる、といったデメリットも出てくるのだとか。
なんだか、自分をキャラクターにした育成シミュレーションみたいだなあ、なんて思いながら読んでいたのですが、同じことを日本でやれば(日本でも、金融機関では「クレジットスコア」的な「顧客の信頼度」を共有するシステムがあるそうですが)、プライバシーの侵害、個人情報の濫用ではないか、というような反発が大きそうです。
こういうのって、怖い感じがするのだけれど、慣れてしまえば、けっこう「自分の信用を育てる」というのも楽しいのだとか。
こういうシステムが受け入れられているのも、これまでの中国人の「マナーの悪さ」や「信頼できない人がいる」ということを、中国人自身が理解していて、そこから抜け出そうとしていることのあらわれなのです。
そして、こういう「評価システム」の存在のおかげで、「ポイントを稼ぐ(あるいは失わない)ために、自らの行動を律する」という人が増えてきているそうです。
この数年で、中国人のマナーは劇的に向上し、他人を思いやる行動も目立つようになってきている。
もしかしたら、「監視社会」というのは、独裁者の価値観に基づくようなものでなければ、案外、最大公約数的な理想郷に近いのかもしれません。

中国人エリートは日本をめざす なぜ東大は中国人だらけなのか? (中公新書ラクレ)
- 作者: 中島恵
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- 作者: 川島博之
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