トウガラシの世界史 - 辛くて熱い「食卓革命」 (中公新書)
- 作者: 山本紀夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/02/24
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 山本紀夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/02/09
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内容(「BOOK」データベースより)
比類ない辛さが魅力のトウガラシ。原産地の中南米からヨーロッパに伝わった当初は「食べると死ぬ」とまで言われた。だが、わずか五百年のうちに全世界の人々を魅了するに至った。ピーマンやパプリカもトウガラシから生まれた。アンデスの多様な野生トウガラシ、インドのカレー、四川の豆板醤、朝鮮半島のキムチ、日本の京野菜…。各地を訪ね、世界中に「食卓革命」を起こした香辛料の伝播の歴史と食文化を紹介する。
トウガラシのルーツはどこで、どのようにして世界中に広まっていったのか?
僕はけっこう辛いものが好きで、かなりトウガラシのお世話になっているんですよね。
この新書は、「植物学から民族学に転向した」という著者が、植物学専攻の時期からずっと興味を持ち続けているトウガラシについて、植物学の知識と世界各国でのフィールドワークを踏まえながら書いたものです。
口絵には、さまざまな国で栽培されていたり、市場で売られたりしているトウガラシのカラー写真が掲載されているのですが、「うわあ、赤いな……」と、ちょっと感動してしまいました。
いまや日本の漬け物の生産量第一位を占めるのはキムチだが、これにはトウガラシが不可欠である。そのせいか、トウガラシの原産地は朝鮮半島だと考えている人が少なくない。また、インド原産だと考える人もいる。これも辛くて刺激的なトウガラシを使ったカレーライスのせいかもしれない。
しかし、トウガラシは朝鮮半島原産でもなければ、インド原産でもない。トウガラシの故郷は中南米であり、十五世紀の末にコロンブスによってカリブ海の西インド諸島から初めてヨーロッパに持ち帰られた。そして、ヨーロッパからアフリカやアジアなど世界各地にもたらされた作物なのである。つまり、トウガラシはコロンブスの新大陸「発見」まで旧大陸ではまったく知られていなかった作物なのである。
ということは、トウガラシは、500年あまりの期間で、世界中に広まり、各大陸の人々の食生活を変えてしまった、ということになります。
そして、トウガラシの「食べ方」も、国や地域によって、違いがあるのです。
著者は、ブータンの料理について、こんな話を紹介しています。
たしかに、トウガラシはブータン人の食生活に欠かせないものだ。ただし、トウガラシはインドやネパールでも不可欠だったが、ブータンではその不可欠の程度がまるで違うのだ。実際、国連開発計画(UNDP)のブータン事務所で数年働いた経験をもつ上田晶子氏は、この点について次のように述べている。
何よりも重要なことは、ブータン人は、トウガラシを、スパイスではなく「野菜」としてとらえている点である。トウガラシは、何かに「加える」ものではなく、それ自体を「食べる」、そして「味わう」ものなのである。(中略)もう一つ重要なことは、トウガラシには「代用品がない」ということだ。コメがなければ、ソバやトウモロコシと、ダイコンがなければカブをという具合に、多くの食品にはその代わりに用いられるものがあるが、トウガラシはトウガラシであって、その役割を代わってくれるものはない。そして、それが野菜として大量に消費されるとなると、その入手は死活問題といっても過言ではない。
念のため、付け加えておくと、このトウガラシはピーマンやパプリカのような甘味トウガラシではなく、しっかり辛い、辛みトウガラシである。これを読む人のなかには「本当かな」と思われるかもしれないが、本当である。わたし自身もそれを確認している。先述したブータン西部を歩いたとき、ポーターたちがかなり大きなトウガラシを平気な顔で食べていたのを見ているからだ。
ここにも書かれているのですが、僕のイメージでは、トウガラシ=赤くて辛い、なのだけれど、ピーマンやパプリカはトウガラシの一種で、「辛くないトウガラシ」なんですね。
そう言われてみれば、たしかに似ている。
それにしても、トウガラシを野菜のように食べるって……
著者もブータンで現地の人が食べているものを試食させてもらったそうなのですが、トウガラシを直接口に入れるのは避けたのに、辛くて吐き出しそうになった、とのことでした。
辛さに対する「耐性」には「慣れ」も関係しているというのは、CoCo壱番屋のカレーで僕も実際に体験しているのですが、ブータンの人たちのトウガラシ好きは桁外れみたいです。
いくらなんでも「野菜みたいに食べる」というのは、僕には想像しがたい世界ではありますけど。
ちなみに、この新書のなかでは、韓国でキムチにトウガラシが使われるようになったのはわずか250年前で、朝鮮半島にトウガラシが伝わったのは、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際ではないか、という説が紹介されています(異説あり)。
日本では、長い間、七味唐辛子の一成分や、ソバの薬味としてしか利用されていなかったトウガラシなのですが、朝鮮半島ではたいへん好まれるようになったのです。
ただし、韓国でも、最近はキムチを家で漬けるのではなく、スーパーで買ってくることが多くなり、キムチの漬け方を知らない若い女性が増えてきており、「発酵したにおいが嫌い」という理由で、キムチを食べない若者も多いそうです。
また、朝鮮戦争の際、韓国軍兵士の士気を上げるために、アメリカが日本産のトウガラシを買いつけた、ということも紹介されています。
日本でのトウガラシの生産は昭和30年代後半がピークで、その後は手間がかかることや人件費の高騰などから、日本はトウガラシの輸入国となりました。
トウガラシには、身体に良い成分も含まれています。
トウガラシの栄養素のうち、ビタミンやミネラルなどの微量成分では、ビタミンCの量の多いことが特徴として指摘できる。ハンガリーの章で紹介したように、ビタミンCは世界で初めてハンガリーのパプリカから大量に精製されたのだ。そのことでもわかるように、トウガラシはビタミンCの宝庫といえる。
ビタミンCの働きのうち、代表的なものとしては、体の老化を防ぐ抗酸化作用がある。
(中略)
ちなみに、ビタミンCといえば、真っ先にレモンを思い浮かべるかもしれないが、パプリカや生トウガラシのほうがビタミンCを多く含んでいる。とくにパプリカは実が大きく、一個で50~200グラムもあるうえに、ビタミンCが100グラムあたりで150ミリグラムも含まれているのだ。
ビタミンCが豊富で、老化を防ぐ作用もあるトウガラシ。
辛いものは身体に悪そうなイメージがあるのですが、身体に良い成分もかなり含まれているのです。
レモンよりビタミンCが多い、というのは意外でした。
とはいえ、そんなにたくさん食べられるものではなさそうですが(それは、レモンも同じなんですけどね)。
わずか500年で、中南米から世界を「征服」したトウガラシ。
人間って、これほどまでに「辛いもの」が好きなのですね。
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