- 作者: 若竹千佐子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2017/11/16
- メディア: 単行本
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- 作者: 若竹千佐子
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内容紹介
74歳、ひとり暮らしの桃子さん。
おらの今は、こわいものなし。
結婚を3日後に控えた24歳の秋、東京オリンピックのファンファーレに押し出されるように、故郷を飛び出した桃子さん。
身ひとつで上野駅に降り立ってから50年――住み込みのアルバイト、周造との出会いと結婚、二児の誕生と成長、そして夫の死。
「この先一人でどやって暮らす。こまったぁどうすんべぇ」
40年来住み慣れた都市近郊の新興住宅で、ひとり茶をすすり、ねずみの音に耳をすませるうちに、桃子さんの内から外から、声がジャズのセッションのように湧きあがる。
捨てた故郷、疎遠になった息子と娘、そして亡き夫への愛。震えるような悲しみの果てに、桃子さんが辿り着いたものとは――
青春小説の対極、玄冬小説の誕生!
第158回芥川賞受賞作。
著者の若竹千佐子さんは63歳で、芥川賞の最年長受賞者ということでも話題になっています。
僕が日ごろ接している人たちからすると、60代前半というのは「まだまだ若い」という感じはするんですけどね。
昔は、60歳を過ぎたら「老人」だと思っていたけれど、今の60歳はまだまだ「壮年」です。
僕は転校生活が長かったので、方言というのがすごく苦手です。
新しい環境で、みんなが方言でしゃべっているのに自分だけが違う言葉なのが嫌で、そういうときに、見様見真似で方言らしきことを喋ろうとして、ぎこちなくなってしまう自分がもっと嫌でした。
地元意識とかもないので、「この方言が良いんだ」という評を読むと、「ふーん」と思ってしまうんですよね。
そういうのは、まさに「個人的な恨み」でしかないのは百も承知なのだけれど。
この小説も、「高齢の女性+方言を使った作品」ということで、かなり身構えて読み始めました。
桃子さんは相変わらずお茶を啜る。背中でも例の音。
ズズ、ズズ、カシャカシャ、カシャカシャ、
ズズ、カシャ、ズズ、カシャ、ズズカシャ、ズズカシャ、
おまけに頭の中では、
オラダバオメダ、オメダバオラダ、オラダバオメダ、オメダバオラダ、オラダバオメダ、
際限なく内から外から、音というか声というか、重低音でせめぎあい重なり合って、まるでジャズのセッションのよう。といって桃子さんは格別ジャズに詳しいというわけでもない。だいたい音楽全般何の素養もない。それでも桃子さんはジャズに一方ならぬ恩義があると感じている。
僕はこれを読んで、若竹さんは「筒井康隆チルドレン」ではないか、と思ったのです。
いま63歳ということは、10代、20代の頃にリアルタイムで筒井作品の洗礼を受けた世代のはず。いやもう、これは僕の勝手な想像でしかないのですけど。
これで、なんだかとても僕にとっては親しみがわいてきて。
若竹さんは、方言の土着性をねっとり描くというよりは、リズム感を活かして、音読して楽しい小説にしているのです。
「老い」というものが少し見えてきた僕にとっては、納得できる「高齢者の世界観」も提示されています。
何にも知らなかったじゃ。柔毛突起ども口々に感嘆の声を上げる。何にも、何にも知らなかった。若さというのは今思えばほんとうに無知と同義だった。何もかも自分で経験して初めて分かることだった。ならば、老いることは経験することと同義だろうか、分かることと同義おうか。老いは失うこと、寂しさに耐えること、そう思っていた桃子さんに幾ばくかの希望を与える。楽しいでねが。なんぼになっても分がるのは楽しい。内側からひそやかな声がする。その声にかぶさって、
んでもその先に何があんだべ。おらはこれがら何を分がろうとするのだべ、何が分がったらこごがら逃してもらえるのだべ。正直に言えば、ときどき生きあぐねるよ。
「生きあぐねる」という言葉、なんだか沁みるなあ。
僕もそういう気分になることがあります。
人は基本的に孤独で、黙っているときでも、頭のなかには、言葉が渦巻いている。
でも、それは「語られることのない感情」として、失われていく。
逆に、それを全部口にしてしまっては、うまく生きてはいけない。
そんな「失われた言葉」や「矛盾した感情」が、丁寧にすくいあげられている、そんな小説だと感じます。
「老い」は、必ずしも「内面が乏しくなること」ではない。
とはいえ、自信たっぷりに「年を重ねることは、素晴らしいことなのだ」という姿勢というわけじゃないのも、率直だよなあ。
ベテラン作家が書く「老い」のように、うまく言葉を選択し、洗練してから書くのではなく、混沌としたものを素材のまま差し出されたような、瑞々しさを感じる小説でした。
日頃、高齢者に仕事などで接することが多い若者は、一度、読んでみると良いですよ。
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