荒くれ漁師をたばねる力 ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命
- 作者: 坪内知佳
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2017/09/20
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
荒くれ漁師をたばねる力 ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話
- 作者: 坪内 知佳
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2017/11/30
- メディア: Kindle版
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内容紹介
山口県萩大島で漁業を行う萩大島船丸。その船団を率いるのは若干30歳の女性だ。門外漢のシングルマザーがなぜ漁業の常識をひっくり返し地方創世の先駆けとなったのか? 荒くれ漁師たちを束ねる若き女性起業家の奮闘物語。
すごいなあ、と思うところと、なんだかなあ、と感じるところと。
大学中退、結婚して山口県の萩に移住したものの、離婚し、シングルマザーに。
そこで、小さな子供を育てながら、翻訳や企画の仕事をして生活していこうとしていた著者は、旅館の宴席で萩大島の漁師たちと出会います。
最初は、名刺のレイアウトや事務の仕事を回してもらっていたのですが、著者は、漁師たちから、ある相談を受けることになるのです。
「長岡たちが住んでいたのは、山口県萩市の沖合8キロにある島「大島」(通称(「萩大島」)というところだ。
人間以外にはウミネコと猫と犬しかいない小さな島である。人口約700人、300世帯のうち半分以上が漁業にたずさわるという漁師の島にとって、日本の水産業の衰退は、自分たちの生活に直結する死活問題だ。
海に漁に出ても、いままでのようには魚は獲れなくなり、さらに魚を食べる人が減って、魚は安値でしか売れなくなってしまったという。それなのに船を動かす燃油費だけはどんどん高騰していく。資材費もかさむうえ、跡を継いでくれる人もいない。
「本当に何かやらないと、これからわしら、漁業だけじゃ食えんようになると思うんじゃ。あんた、ものを考えたり、パソコン得意やろ。俺らの未来を考える仕事、手伝ってくれんか?」
後にわかったことだが、当初は彼ら自身で直販などので営業活動を行おうとしたという。私に頼んできた名刺も、そのためのものだった。
しかし、ビジネスマナーや交渉の基本すら知らなかったためトラブルが絶えなかったという。そんなときに現れたのが、私だった。
彼らは、インターネットはおろか、パソコンをつなげることもできないというが、それでも、「萩の海はこのままじゃいけない」という強い意志だけは感じる。
最初は戸惑っていた私も、その純粋なエネルギーに、次第に惹かれるものを感じ始めていた。
——海、船、そして魚がいなくなったら、生きていけない。俺たちはこのまま手をこまぬいていて、いいのだろうか。
彼らは日に日に大きくなっていく不安に、押しつぶされそうだったのである。
次第に魚が獲れなくなり、魚の価格も下がり、後継者もいない。
そんな「じり貧」状態の萩大島の漁師たちにとって、身近な「そういうビジネスのことが分かりそうな人」が著者だったのです。
不思議な縁というか、正直、よくこの人に頼んだなあ、と思うんですよ。
何か大きな実績があったわけじゃないし、最初は「とりあえず、あの綺麗なお姉さんに相談してみるか」みたいな感じだったのではないかと。
もう少し都会だったり、人脈やお金があれば、コンサルティング業者が入ってきて、あれこれ「カタカナ言葉のアドバイス」が並んでおしまい、だったかもしれません。
お互いに「素人」で、切羽詰まった状況にあったからこそ、必死に出口を探そうとした。
結果的に、それが奏功したのではないかと思われます。
その過程で、新しいやりたを受け入れられなかった人たちが抜けていったり、船団長の長岡さんでさえ、一時「休職」してしまったりもしているのですが。
正直言うと、僕はこの本を読んで、「ビジネスの参考になる」とか「美談」とか、思えないところがあるのです。
著者は本当に一生懸命に働いて、萩大島の新しい漁業を軌道に乗せようとしています。
営業に使える時間は、子どもを預けている24時間の間だけ。すると商談はマックス4件までしか入れられない。そのため、1分1秒を惜しんで、めいっぱい時間を商談に使う工夫をした。
まず子どもを9時に預けると、新幹線で山口から移動して、大阪に着くのが午後1時頃。そこから移動してアポを入れて、昼の2時頃に1件目の商談を行う。1時間から1時間半の商談をして、移動に30分。2件目の商談に入って1時間から1時間半。すると時間は夕方の4時半か5時頃になる。
この時間帯になると、商談が早めの晩ご飯になる。そうなると当然お酒が出るので、飲むことになる。3件目の商談が終わるのが6時半か7時。
ここで終わりにせず、頑張ればもう1件、遅い晩ご飯を食べる商談が入れられるのだ。でも3件目ですでに飲んで食べているため、もうお腹はぱんぱんだ。
そこで店を出たあとに、すぐに食べたものをトイレに行って全部吐き出し、お腹を空にして、4件目の商談に臨んだ。
そこまでするのか、と思われるかもしれないが、子どもを24時間保育に預けて、営業に出てきている身だから、時間は1分たりとも無駄にしたくなかった。一番大切な子どもとの時間を犠牲にしてまで大阪まで出てきたからには、吐き戻しをしてでも、1件でも多く商談を入れたかった。
こんなふうに大阪まで出張したときは、たいてい晩ご飯を2回食べていたため、吐き戻していたとはいえ、10キロくらい太ってしまった。契約先が20件を超えると、料理長同士の紹介で、すでに食事を用意してくれているのだ。そんな厚意を断るなんて、当然できないし、したくなかった。
そんな甲斐もあり、やがて新規開拓店は20店を超えた。信用も確実に得られるようになり、サービスの鮮魚BOXをやめたあとも契約ができるようになっていった。
船団丸で集まってミーティングを開くときは、たいてい最後は「おらーっ」と大声をあげて大喧嘩になる。
「お前、俺らを潰す気かあ!!」
私も決して負けてはいない。
「だから絶対、潰れんと言っとるやろが」
「いや、潰れたらどないしてくれるんか」
「そしたら私が借金、全部返すわ!!」
「お前なんかにできるか」
「できるわ!」
「何もわからなんくせに」
「わかっとるわ、このぼけ!!」
その場でとっくみ合いの喧嘩になったことも一度や二度ではない。向こうは男であるうえ、本来は優しい心根の持ち主だったから、さすがに手加減していたと思うが、それでも激しいバトルはしばしばあった。
いま、講演会をするたびに「そんな状況で、前に進むことが怖くなかったんですか?」といった類いのことをよく聞かれる。しかし、怖さは微塵もなかった。
ただやるだけ、それだけだった。
うーむ。
すごい人だなあ、と思うんですよ。
でも、僕は吐き戻してまでの営業とか、周囲の漁師と罵りあったり、取っ組み合いの結果をしたり、というのが「武勇伝」として語られてしまうのが、すごくイヤなんです。
背景は違うのは百も承知なのですが、豊田真由子議員を思い出してしまいました。
もし、この人がこんなに綺麗な女性でなければ、漁師たちの集団ですぐにリーダーとしてまつり上げられるのは難しかっただろうし、こんな「男まさり」の性格でなければ、その中でリーダーシップを発揮することはできなかったと思う。
こういうのって、参考にできたり、真似できたりするものではないし、感心はしても、感動はしない。
ここまでやったから、うまくいったのだろうけど、これが「正しい」ことになってしまったら、時代を逆行しまくってしまう。昭和の会社人間のお父さんと同じことをいまの時代に若いシングルマザーがやると、「美談」になってしまう。
これって、「社畜ポルノ」じゃないのかな……こういう人が社会に必要だというのもわかるのだけど……
もっともそんな私の子育てに対して、
「坪内さん、それは育児放棄じゃないですか。 ”女性ならば”すべきことがあるのではないですか?」
と批判されることもある。
面白いことに、言ってくるのはほぼ全員男性だ。そんなとき、私は決まってこう答えている。
「それじゃ、男性であるあなたが私に代わって、6次化の事業をしていただけますか。そうすれば、私はここから退きますけど」
さらにかぶせるように言う。
「女性としてすべきことがあるなら、私は専業主婦になって子育てに専念します。だからあなたが立ち上がって、日本の水産をどうにかしてください。よろしくお願いします」
そう言ってマイクを置く。
これは、正論なのかもしれません。
でも、同じことを、今の時代に男性が言ったら、どうなるだろう。
「自分にしかできない仕事があるから、家庭よりも仕事を重視すべき時期なんだ」と。
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