- 作者: 益田ミリ
- 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
- 発売日: 2018/01/26
- メディア: 単行本
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内容紹介
「大切な人の死」で知る悲しみとその悲しみの先にある未来。
誰もが自分の人生を生きている。
益田ミリ、新たな代表作! 珠玉のエッセイ20編を収録。
益田ミリさんが、叔父さんの死、そして、お父さんの死について書いたエッセイ集。
益田さんのエッセイやマンガには、ご両親のことがときどき描かれていたのです。
直接の知り合いではないけれど、作品経由で知っている人たちも、時間とともに、みんな老いていきます。
2004年に、さくらももこさんが、ひさしぶりに会った親友「たまちゃん」から、(たまちゃんの)お父さんの遺品のライカのカメラをもらった、というエッセイを読みました。
たまちゃんのお父さんは、自分が『ちびまる子ちゃん』に登場していることを喜んでいたそうなんですよ。
娘の友だちが人気マンガ家になったおかげで、自分の存在が、物語の一部としてずっと世の中に残っていくというのは、どんな気分なのだろうか。
益田さんとあまり仲が良くない時期もあったというお父さんは、自分のことが書かれている娘のマンガやエッセイを、どんな気持ちで読んでいたのかな。
益田さんは、このエッセイ集のなかで、「愛する人を失う哀しみや寂しさ」とともに、「生きている人間の残酷さや切り替えの早さ」も書いているのです。
癌でホスピスに入院していた叔父さんのお見舞いに行ったときの話。
なんと声をかけていいのかわからず、
「おっちゃん、来たよ」
と、わたしは言った。
ちょうど他にも親戚が来ていたので、一緒にお茶を飲みながら話した。明るくて人好きのする叔父である。話していると笑いも起こった。
それで、つい調子にのって、
「もうすぐ東京でオリンピックもあるしな」
と、わたしが言うと、今の自分にはオリンピックなんかまったく興味がないと叔父は言った。
わたしは自分に嫌気がさした。叔父がオリンピックを見られるはずがないのに。
もちろん、悪気があって東京オリンピックの話をしたわけじゃないはずです。
なんとか共通の話題を見つけだそうとして、出てきたのが東京オリンピックだったのでしょう。
「死」を意識していない人にとっては、「いつのまにか、あと2年で東京オリンピックになった」のだけれど、その「あと2年先」を見ることができない人も少なからずいる。叔父さんは、けっこう寂しかったのではなかろうか。そこに悪意がないとわかっていればこそ。
そして、「みんなが当たり前に来ると思っている未来にたどり着けない日」は、誰にでもいつか訪れるのです。
午前中の電話にいい知らせはない。
スマホの表示は母からだった。電話を取る前、大きく息を吸った。父の容態が深刻なのだという。あと二、三日の命かもしれないらしい。
「わかった、今日の夜、帰る」
「うん、そうしてくれる?」
母の弱々しい涙声。けれど、「喪服を持って帰って来なさい」と告げたときは親らしい口調になった。
身内が入院しているときって、電話が鳴るのが怖い。
その一方で、ずっと悪い状態が続いていると、いっそのこそ、決着がついてくれたらラクになれるのではないか……などという考えが、頭に浮かんできて自己嫌悪に陥ることもある。
まだ生きているのに、喪服の心配なんて!
そんなことを思わなくなるのが、大人になる、ということなのかもしれませんね。
新幹線は動き出した。死んだ父親に会いにいくという、人生最初で最後の帰省である。
今夜、わたしが帰るまで、生きて待っていてほしかった。
母からの電話を切ってすぐはそう思ったのだが、新幹線に揺られる頃には、それは違う、と感じた。これは父の死なのだ。父の人生だった。誰を待つとか、待たぬとか、おそういうことではなく、父個人のとても尊い時間なのだ。わたしを待っていてほしかったというのは、おこがましいような気がした。
悲しい。涙は次から次から溢れてくる。
なのに、いろんなことを並行して考えているわたしもいた。
昨日、早めに原稿を送っておいてよかった!
お父さんの体調のこともあるから断るつもりだった旅行記の仕事、やってみようかなぁ、ちょっとおもしろそうだし。
おっと、車内販売が来た、飲みたい、ホットコーヒー。
人は、どんなに悲しいときでも、悲しみ以外のことが頭に浮かんでくることがある。
それは、ひとつのことに集中する力の限界なのかもしれないし、なんらかの防衛本能のようなものなのかもしれません。
僕も親が亡くなったあと、なんだかどうでもいいような職場の机の片づけとか、やりかけのゲームのこととかを考えてしまって、自分の不謹慎さに呆れていたのだけれど。
他者の死は、どうやっても、自分自身の死にはならない。
それが、どんなに大切な人であっても。
自分にとってドラマチックな死にかたを誰かに望むのは、傲慢なのだよなあ。
ただ、こういうのって、長く患ったあと、寿命だから、と言い聞かせられるような亡くなりかたであればこそ、ではあるのです。
事故や災害、犯罪などで突然訪れた死や小さな子供の場合などは、周囲も「割り切る」のは、とても難しい、というか、不可能だろうな、と思います。
『ポケモンGO』のモンスターは葬儀場にも出てくるのか、という話題になり、みなでやってみたら何匹か出てきてゲット。父が生きていたら、こういうわたしたちを絶対におもしろがってくれていたと思う。そういう人だった。
いつかは、自分の番が来る。
僕のことも、誰かがこんなふうに、ふと思い出してくれたらいいな、そんなことを考えながら読みました。
fujipon.hatenadiary.com
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