- 作者: ブラッド・エルドレッド
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2018/02/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
広島在籍7シーズン目は歴代最長。
名実ともに最強助っ人の呼び声高いエルドレッド選手。
そのカープへの愛、広島の地への愛着は計り知れないものがあります。
解雇されるかもしれなかった来日2年目。
そこを乗り越えての本塁打王、
そして、リーグ優勝、2連覇……。
なぜ、エルドレッド選手は日本で成功することができたのか。
広島を愛し、広島に愛された男が、これまでの野球人生を振り返りつつ、
成功法則、カープ愛、そしてこれからの夢を綴ります。
目次
序章 37年ぶりの連覇達成
第1章 驚いた“野球"と“ベースボール"の違い
第2章 日本での素晴らしい仲間たち
第3章 広島でジャパニーズ・ドリームを掴むまで
第4章 エルドレッドの流儀
第5章 ぼくの未来について語ろう
野村謙二郎 特別寄稿
「なぜ、私は、“カントリー"を手放さなかったのか」
広島の街をママチャリで走っている姿も、すっかりお馴染みになったブラッド・エルドレッド選手。カープに在籍7年目で、球団史上最長になるんですね。
エルドレッドが来た当時のカープは、先発には頼りになるピッチャーが数人しかおらず、バッターもなかなか打てず、勝った試合のお立ち台は毎試合エルドレッド選手で、「他の打者は何をやってるんだ……」という感じでした。
黒田さんと新井さんが戻ってきた翌年にリーグ優勝を成し遂げる2015年まで、四半世紀くらい、カープはずっと低迷してきたのですから、今の「セリーグを連覇したカープ」なんていうのは、「夢なら醒めないでくれ」という感じです。
この本、エルドレッド選手からの「聞き書き」だと思われるのですが、彼の人柄の良さとともに、違う環境でうまくやっていくには、どうすれば良いのか、というヒントがたくさん詰まっている本だと思います。
新外国人選手にアドバイスを求められたときには、いつも「常にオープンマインドでいろ! すべてを受け入れる気持ちを持とう」と伝えるようにしている。
ぼくが日本に行くことが決まったとき、日本球界を経験したことのある選手から「『Why?』と言うな」というアドバイスをもらったんだけれど、実際、その通りだと思った。日本語では「なんで?」っていうんだよね。「なんで?」はやっぱり禁句かなと。
たとえば、指示された練習メニューで、やる意味がわからないと感じても、「なんで?」と思う前にとりあえずトライしてみる。やる意味を探す前に、とりあえずなんでもやってみることが大切だと思う。
「とりあえずやってみる」精神は野球面のみならず、生活面にもそのまま応用できる。日本に来たばかりでお箸が仕えないなんて嘆く選手がときどきいるんだけど、そんな選手に限って、お箸を使う練習をしようともしない。「あれが食べられない、これが食べられない」と嘆く前に「Jusy try it」の精神で最低限のトライをしてみる。
たしかに、異国の地で起こることは初めてのことだらけだし、文化も慣習も異なるので、わからないことや戸惑うことは多い。「なぜ?」と思うことに対して納得できるような説明が得られないことも多いしね。
だからこそ、小さなことにいちいちこだわったり、気にしたりしないこと。「そこにあるものがすべて」と思うことが大切。異国の地では、前向きにトライできた者がやはり一番強い。
これは野球選手だけでなく、きっと異国の地でがんばるビジネスマンにもそのまま応用できる考え方だと思う。
ちなみに、日本の食べ物については、こう語っています。
食べ物に関しては、そんなに執着がないほうだと思う。好き嫌いはあまりないし、強いこだわりもない。日本に来てから、これまでの人生で食べたことのないメニューにたくさん出会ってきたけど、食わず嫌いをせず、積極的にトライすることを心がけている。
日本の食べ物で苦手なのはたこ焼きくらいかなぁ? 意外かもしれないけど、あのたこ焼きにかかってる甘めのソースが苦手でね……。無理すれば食べられないことはないんだけど、自分から好んで食べることはしないかな。
あとはたいてい大丈夫。日本に来てから納豆にもトライしたよ。ぼくにとってはコーヒー豆を直接食べているみたいで、好きな味かと問われたら返答に困るけど、普通に食べることができるよ。
でも、日本人だってみんな納豆の味が好きというわけじゃないよね? 以前、食堂で梵(英心)が納豆を食べていたから「ソヨギはそれを好きで食べてるのか?」って尋ねたところ「いや。特には。身体にいいから食べている」と返ってきたので「健康のために割り切って食べている人も多いはず」と自分の中で勝手に結論付けているんだ(笑)。
僕はこのお好み焼きの話を読んで、この本に書いてあったことを思い出しました。
たこ焼きを『中にタコが入っているから』という理由で拒絶する子どもたち(欧米人にとって「タコ」というのは、僕が思っているよりもずっとハードルが高い食べ物みたいです、たこ焼きのタコなんて、ほんのちょっと断片が入っているだけなのに)に、「お好み焼きなら食べてくれるんじゃないか?」と著者が美味しそうな店を厳選して勧めてみたところ「中身にいろんなものが入りすぎている」という理由で、やっぱり食べてくれなかった、という話が出てくるんですよ。
納豆に比べたら、たこ焼きとかお好み焼きというのは、外国人にも食べやすいのではないか、というか、とくに苦手意識を持たれるような食べ物という感じはしないのですが、案外、苦手だと感じる人は多いのかもしれません。
エルドレッド選手の場合には、家族の理解や日本での生活への球団のサポートも非常に大きいようです。
メジャーリーグで、パワーは評価されていたものの、なかなか一軍で結果を残せなかったエルドレッド選手にカープから契約の話が来たときの話。
妻に電話連絡を入れ、「日本の広島カープというチームからオファーが来た」と伝えると、ものすごく興奮して喜んでくれてね。契約条件を伝え、自分が前向きな気持になっていることを伝えると「日本に行きましょう。レッツゴーよ!」と即座に返事が返ってきた。
「この日本行きの話は、私たちにとって絶対にいい機会になるわ。日本の野球ファンの人たちは、あなたのプレーに対して、絶対に喜んでくれると思う」
そう、力強く断言もしてくれた。
プロ4年目の2005年に結婚した彼女は、ぼくのプロ人生のすべてを知っているし、ぼくが一切手を抜くことなく、一生懸命に野球と向き合ってきたことも理解してくれていた。メジャーでチャンスに恵まれず、マイナー生活が長くなっていた状況の中、「あなたはもっとできる。成功できる。私たちはもっと一緒に喜びを分かり合えるはず」と言い続けてくれたのが彼女だった。
エルドレッド選手の好奇心旺盛で、「まずはやってみよう」という性格とおおらかさ、日本で成功したい、というハングリー精神、そして、家族や周囲のサポート、すべてがうまく噛み合ったのです。野村謙二郎監督が「カントリー(エルドレッド選手の愛称)に期待しているのは長打だから、三振が多くても構わない」と、役割を明示してくれたこともプラスに働きました。
広島カープの力になれたらという気持ちも、ものすごく強い。長い期間お世話になったカープに恩返しがしたい。もしかしたら、それが一番やりたいと思っていることかもしれない。
アメリカに住みながらだと、外国人獲得の手助け、といったところが最も現実的な仕事内容になるかもしれないけど、もしもそういう依頼があれば引退後の仕事の選択肢に十分入ってくると思う。
妻とはときどき、将来のことを話し合うんだ。いまはまだ子どもたちが小さく、学校のこともあるので、引退後はアメリカに戻ることにはなるだろうけど、「子どもたちが大きくなって、一番下の子が大学に入ったら、日本に住んでなにかカープの手助けができないかな?」とかね。
でも、たとえどんな仕事をすることになろうとも、最低でも年に一度は日本に帰ってきたいと思っている。間違いなく、日本、そして広島は、ぼくの第二の故郷だからね。
カープファンとしては、本当に嬉しい言葉です。
僕はこれを感動や感謝とともに、「でも、カントリー、このオフシーズンにまたひとり子どもが産まれたから、将来日本に住むのは、また先の話になっちゃったね!」と祝福しつつ読みました。
エルドレッド選手とチームメイトの交流も、この本の読みどころのひとつです。
鈴木誠也とは、けっこう仲が良くてね。彼はいつもぼくのことをあたかも父親のように「パパ」と呼ぶんだ。そして、ぼくも息子のように彼と接している。「ほら、息子よ、こっちおいで」みたいにね。常日ごろから親子ごっこみたいなやりとりをしてるんだ。
昨年、リーグ優勝を決めた試合後に彼をおんぶしてグラウンドを歩いたので、報道陣に「なんで鈴木選手をおんぶしたの?」と聞かれたんだけれど、普段の親子のような関係があったから自然にああなったんだ。「世話の焼ける息子だからなぁ。ぼくがちゃんと面倒みないと」って答えたよ。
うちは娘ばかりだから、「もしかしたら将来、本当にあなたの息子になる日がくるかも。その可能性はあるよね?」なんて聞いてきたりするけど、必ず「誠也、それはノーチャンスだ」と言って彼を殴るマネをするんだ。
「もしある日、ぼくが『あなたの娘のボーイフレンドです』と言ってエルドレッド家の玄関に突然現れたらどうする?」
「いや、そんなのありえない。ノーチャンスだから。追い返すよ」
「『もうお互いに深く愛してしまったんです。おとうさん! 結婚を認めてください!』って言ったら?」
「絶対に認めない。帰ってくださいって言う」
「なんでだよー」
そんな親子ネタの冗談で、しょっちゅう盛り上がってるよ(笑)。
でもほんと、素晴らしい選手に成長したよね。文句のつけようがない。娘との結婚は認めないけど、素晴らしい選手であることは十分すぎるくらいに認めてるよ。
この本を読んでいると、あらためてエルドレッドがカープに来てくれて、一緒に優勝できてよかった、と思うのです。本当にナイスガイなんですよ、エルドレッド選手。
ここに書かれていることは、新しい世界で挑戦しようとする人、挑戦しようという人をサポートする立場の人、どちらにとっても、参考になるはずです。
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