琥珀色の戯言

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【読書感想】文豪ナンバーワン決定戦 ☆☆☆

文豪ナンバーワン決定戦

文豪ナンバーワン決定戦

内容紹介
日本文学に金字塔を打ち建てた、50人の文豪たち。
夏目漱石から星新一徳田秋声江戸川乱歩三島由紀夫林芙美子松本清張安部公房……
本書では、彼らを「美文」「思想」「面白さ」といった5つの項目で採点・ランキング化。
読者の視点と文芸評論家・福田和也氏の視点を交えながら、各文豪の魅力を再発掘します。
さて、栄えある第1位に輝いたのは――!


 「まえがき」で、この本の監修者である福田和也さんが「ここ数年、漫画やゲームによって『文豪』がブームになっている」と書かれているのですが、事実なんでしょうか……(福田さんがわざわざ噓をつくことはないとは思うけれども)
 猫キャラの夏目漱石とか、メガンテを繰り返す太宰治とかが出てくる、無双系のゲームとかが出ているのだろうか。
 明治期以降の日本文学が、アイドル推薦とか、有名漫画家が描いた表紙で話題になる、ということは、たしかにあるのでしょうけど。
 僕自身も、偉そうなことは言えず、「いかにも教科書に載りそうな日本文学」というのは、けっこう敬遠してきたんですよね。
 このベスト50に入っている人でも、短篇のひとつも読んだことがない、という人もいますし。
 「面白さ」「美文」「思想性」「独自性」「読みやすさ」という5つの採点項目で、明治以降、没後数十年という条件で選ばれた「日本の文豪」ランキング。
 著者たちも、これが決定版、という雰囲気ではなく、いままで知らなかった作家の作品を手にとってもらうきっかけに、という感じで書かれています。 
 正直、それなりに日本文学に親しんでいる人にとっては、「そんなの知ってるよ」という話ばかりで物足りないと思われますが、入門者向けとしては、このくらい平易で、かつ萌えキャラクターを駆使して、という思い切りの好さが必要なのでしょう。


 ベスト3だけ御紹介しておくと、1位が谷崎潤一郎、2位が夏目漱石、3位が宮沢賢治
 もちろん異論はあるだろうけれど、最大公約数的には、納得のランキングではないかと。
 以下の順位には、「この人がこんなに上位に?」とか、「こんなに下位なのか」というのもあるのですが、全般的には、僕としては納得のいく順位でした。
 1位は夏目漱石かな、とも思っていたんですけど、谷崎潤一郎なら、しょうがないか。


 興味を持ってもらいやすいように散りばめられている、面白いエピソードも読みどころです。
 内田百閒さんの項より。

 晩年、日本芸術院会員に推薦されると直ちに辞退したが、その際には「イヤダカラ、イヤダ」の名セリフで断り、変人の面目躍如となった。

 玄関に「世の中に人の来るこそうれしけれとはいうもののお前ではない」なんていう言葉をかかげていた。

 黒澤明監督の遺作『まあだだよ』が、内田百閒さんの話なんですよね。
 ちなみに、内田さんは、「面白さランキング」で1位に輝いており、僕もあらためて読んでみたくなりました。


 あと、「思想性」の項で、星新一さんの「おーい でてこーい」が、「原発事故を経験した現代日本人が全員読み直すべき作品」として紹介されています。
 この作品『ボッコちゃん』に収録されているのですが、たしかにそうだよなあ、と。
 読み継がれるように固有名詞をなるべく使わず、亡くなるまで過去作を時代にあわせてリライトしていたという星新一さん。
 ずっと読まれているのは、それなりの理由がある、ということなのでしょう。
 「おーい でてこーい」を読んでも、人は原発を止めることができなかったというのは、文学の力の限界、みたいなものも考えずにはいられません。
 ちなみに、星新一さん自身は「何を書いても、短くなっちゃうんだよね」と仰っていたそうです。


 芥川賞作家・藤野可織さんの「文学作品の楽しみ方」についてのインタビューもありました。

藤野可織それから、流行語というか、当時の若者言葉も面白い。たしか深沢七郎の作品だったかな……。会話の中で「今日はマネーがねえんだよ」って言うシーンが出てくるのだけれど、これも最高ですよね(笑)。本当にこんな言い方をしていたんでしょうか。


−—「マネー」はいいですね(笑)。


藤野:三島由紀夫の「仮面の告白」にも印象的な部分があります。13歳になった主人公が、画集にあったグイド・レーニの「聖セバスチャン殉教図」に興奮して自慰をする場面で、なぜか「射精」という言葉だけ「ejaclatio」とラテン語になっているんです。何がうれしくてここだけラテン語なの、って(笑)。あれは未だにたまに思い出しては、おかしくなります。


 そうそう、相手が「文豪」だからといって、正座して読むのではなくて、こういうのを見つけて、ニヤニヤするというのも、「あり」なんですよね。
 文豪の作品とは言うけれど、最初に世に出たときは、みんな普通に手にとっていたものなのだから。
 「マネー」とか、浜田省吾かよ!って言いたくなるし、三島さんにとって、特別な言葉だったのか、それとも「照れ」みたいなものだったのか。
 後で思い出すのは、こういうところばかりなのだよなあ。


 文学好きの飲み会での話題を真剣に本にしてみました、という一冊なので、興味を持った方は、書店でパラパラとめくってみてはいかがでしょうか。
 一人一冊ずつでも50人全員クリアすれば、けっこう自慢できそうな気もします。


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