琥珀色の戯言

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【読書感想】戦後の貧民 ☆☆☆

戦後の貧民 (文春新書)

戦後の貧民 (文春新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
昭和二十年夏、敗戦。焼け跡から立ち上がる日本人は逞しかった。復興マーケット、闇市、赤線…七歳で終戦を迎えた著者だから語りえた、あの時代の日本と日本人!


 7歳で終戦を迎えた著者がその目で見てきた、太平洋戦争後の貧しかった日本人。
 著者にとって思い入れが深い時代、ということもあったか、文章がちょっと濃すぎるな、と感じたところはあったのですが、「その時代」の空気が伝わってくる新書です。


 「戦争」というと、戦場での悲惨な光景や空襲での被害などはなんとなくイメージできるのですが、2015年8月15日に「終戦」となっても、日本人がすぐに豊かに、幸福になったというわけではないのです。
 家族を失い、家は焼かれ、食べ物はなく、仕事もない。
 そんな時代から、僕の父母世代は立ち上がってきたのです。
 僕の父親は昭和16年(1941年)の生まれですから、著者と同じくらいの世代、ということになります。
 終戦時に4歳ということは、これと同じような光景をみてきたことになるのか……
 僕には、そんなことはほとんど語らず、「昔は病気のときにバナナを半分だけ食べられるのが楽しみで、大人になったらこれを1本丸ごと食べてみたいと思っていたんだよなあ」なんて言っていた記憶があるくらいです。
 スーパーで買ってきた大量のバナナに辟易していた子どもたちは、「また昔話だよ……」とか、言い合っていました。
 その頃の話を、もっとちゃんと聞いておけばよかったな、と、今になって後悔しています。

 
 著者は当時の資料を丁寧にひもとき、当時の闇市や赤線(売春が行われていたところ)があった場所を、地図とともに説明し、当時の様子を描写しています。
 僕は残念なことに東京人ではなく、東京の地理には全く詳しくないので斜め読みでしたが、東京の人は、いっそう興味深く読めるのではないかと。

 商品は多種多様であったが、意外なことに、台所用品や日用雑貨に人気があつまった。箸や茶碗や皿がまず売れ、鍋やヤカンがつづいた。焼け出された人や引揚者がいかになにも持ってないのかがわかる。やがて食べる物や着る物、履き物など、商品の幅はひろがった。初めのうちはシロウトが出す店のほうがおおかったが、テキヤ組織力を発揮しだすと品そろえも豊富になり、定価も適正な値を維持できた。ほかに、当時「第三国人」と呼ばれていた在日朝鮮人や中国人や台湾人が経営する市場も盛んにになった。ちぢめて「三国人」ともいうが、十五年戦争の勝者でも敗者でもなく三番目の国という意味であり、差別語ではない。


 闇市といえば、食べ物が一番人気かと思いきや、台所用品や日用雑貨の人気が高かったのか……
 食べ物以前に、箸や茶碗や皿さえ持たない人の存在というのは、いまの僕には、ちょっと想像できません。
 

 上野の闇市の中心は、いまでもアメ横としてにぎわっているし、その歴史もよく語られているので多言しない。利権をめぐって、在日朝鮮人と日本のテキヤやヤクザが抗争をくりかえし、発砲事件や放火など、混乱をきわめた時期があった。警察と行政は自動車修理工場の近藤広吉にマーケットの経営を依頼し、禁制品だった飴を売ることを認めた。「アメヤ横丁」の誕生で、いまも菓子屋が多い。


 飴が売られていたから、「アメヤ横丁」という話は聞いたことがあったのですが、当時は、飴が「禁制品」だったのです。いま、スーパーマーケットやコンビニにあふれている飴を思うと、そんな時代もあったのか、とあらためて考えてしまいます。


 この本のなかで、僕がもっとも衝撃を受けたのは、RAA(特殊慰安施設協会)という、米兵を対象とした「慰安所」について書かれた章の、この記述でした。

 はたしてRAAの慰安所が、市民の婦女子の救済になったのかどうか。この疑問を論じた本はおおく、それらの著者の結論は、慰安所があるかないかにかかわらず、米兵による強姦が頻発しているという指摘だ。個々の事件の紹介は本によってちがいがあるが、どの資料にあたるかでの違いにすぎない。すさまじい数の暴行強姦があったのだ。ここでは、ほんの数例をあげる。
 1945年8月31日、新宿で17歳の高校生が2台のジープに連れこまれ、多摩川河原で強姦される。9月1日、厚木の民家に8人の米兵が侵入、19歳、16歳、13歳の姉妹が輪姦された。9月3日、横須賀で海兵隊に43歳の母と18歳の娘が強姦された。9月4日、また厚木で6人の米兵が民家に侵入、主人に機関銃をつきつけて妻と長女を輪姦。9月19日、港区で通行していた二十すぎの女性二名がトラックに引きずりこまれて輪姦され、裸体で道に放り出された。
 もうやめよう。関東地方で、二日に一件というのが届けられた数字だが、この十倍はあったといわれている。GHQは厳重なプレスコードを敷いて、新聞やラジオでの報道を禁じた。日本の警察に捜査逮捕の権限はなく、真相ははかりがたい。


 アメリカ軍による日本の占領は、比較的「穏健」であった、というイメージを僕は持っていました。
 でも、けっして、そんな甘いものではなかった。
 戦争に負けるというのは、こういうことなのか。
 勝者に「人間としてのモラル」を求めるのが間違っているのか。
 多くの米兵は、そんなにひどいことはしていないとしても、ひとりの人間が徹底的に損なわれるには、「一度」で十分すぎるくらいなのです。


 著者は、この本のなかでのいちおうの定義として、「戦後」を1945年から1950年の5年間としています。
 戦闘が終わってからも、日本人は、苦闘してきたのです。
 いやほんと、「戦争がもたらすもの」について、もう少しいまの日本人は知っておいたほうが良いのではなかろうか。
 いや、「だからこそ、やるなら勝たないと意味がない。負けたら、何をされても逆らえないのだから」と思う人がいるのも、わかるんですけどね……
 

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