琥珀色の戯言

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【読書感想】貧困と地域 - あいりん地区から見る高齢化と孤立死 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
日雇労働者の町」と呼ばれ、多くの暴動などで注目を集めた大阪のあいりん地区(釜ヶ崎)。しかし、高齢化が進み、単身者が多いため孤立死の問題が顕在化した今は、「福祉の町」として知られる。
本書はこの地域の問題と取り組みを論じるものだ。高齢化、再開発、社会的孤立、弔いのあり方などは、日本が抱える課題にも通じている。あいりん地区の試行錯誤は、今後の地域社会を考えるうえでも資するはずだ。


 僕は、あいりん地区(釜ヶ崎)には一度も行ったことがなくて、『あしたのジョー』で丹下ボクシングジムがある泪橋みたいな感じのところなのかな、と思っていたのです。
 いまちょっと検索してみたら、泪橋は、東京の山谷がモデルなんですね。

 本書の主な舞台となる「あいりん地区」は大阪市西成区の北東部に位置する人口密集地域で、一般的には東京の山谷、横浜の寿町とならぶ「日雇労働者の町」として知られている。あいりん地区は、1960年代に繰り返し生じた暴動をきっかけに誕生した。1966年に大阪市大阪府大阪府警本部から成る「愛隣対策三者連絡協議会」によって地区指定されたのだ。そして、今日にいたるまで、主に日雇労働者を対象にした治安、労働、福祉、医療などの対策が講じられてきた。
 近年のあいりん地区は長期不況や高齢化が背景となって失業および生活保護受給が進み、「日雇労働者の町」から「福祉の町」と形容されることが増えた。住民の大半は中高年の単身男性であり、地縁・血縁と切れている人も多いため、社会的孤立が深刻化している。さらに再開発が進み、景観も変わってきた。
 このように地区指定から半世紀以上が経過し、地域の様相は大きく変化してきている。しかし、貧困が集中している現実は変わっていない。


 著者は、大学院に進学した2003年から、あいりん地区にずっと関わりながら、フィールドワークを行ってきたそうです。

 この地区に初めて足を運んだときの記憶は鮮明に残っている。筆者の目に飛び込んでくるのは中高年男性ばかり。路上に佇む人々。ブルーシートで覆われた小屋が林立する公園。鼻をつく小便の異臭。町を闊歩する野良犬たち……。見慣れぬ光景に圧倒されつつ、あいりん地区を深く知りたいという感情が芽生えた。
 研究をはじめた当初は、ホームレス支援に従事する民間団体との関わりが中心で、筆者自身、夜まわりなどの活動を続けてきた。そのなかで野宿を余儀なくされる人々の厳しい現実を目の当たりにしてきた。2007年から2012年にかけて勤めた地域福祉施設「西成市民館」で相談援助の仕事に従事して以降は、古くから定住している地域住民や行政との関わりも増えた。大学に職を得てからは、まちづくりの動きにも関わるようになった。


(中略)


 あいりん地区の指定から50年以上が経過したが、貧困は一貫して続いている。行政による一連の対策は、必ずしも貧困の解消を目的にしておらず、むしろ、貧困を特定地域に囲い込んできた。そして囲い込まれた貧困層は、日雇労働市場に吸収されることで、不十分ながらも経済システムに組み込まれてきた。しかし、バブル崩壊以降、あいりん地区の日雇労働市場が停滞するなか、貧困層の囲い込みは行政にとって大きな負担となっている。
 つまり、半世紀で大きく変化したのは、あいりん地区の機能だ。日雇労働力の供給地としての機能が小さくなる一方、行き場を失った人々のセーフティネットとしての機能だけが極大化している。こうした文脈のなかで西成特区構想が進められており、今日のあいりん地区のあり方が根本的に見直されはじめている。このことは、ひるがえって各々の地域がどのように貧困に向き合うのか、という難題を突きつけている。本書を通じてもっとも読者に伝えたかったことは、貧困の地域集中の影響である。


 僕は、なんでドヤ街のような、治安が悪そうな場所にわざわざ住むのだろう、と思っていたんですよ。手配師が来て日雇いの仕事を得やすいとか、物価が安くて、簡単に泊まれる場所があるとか、いろんな要素はあるのだとしても。
 この新書を読むと、あいりん地区は、行き場を失った人々が集まる場所であるがゆえに、さまざまなセーフティネットが備えられていたり、民間の宗教団体やボランティアによる無料の給食などのサービスが充実していたり、という「福祉の最前線」になってきた、という面があるのです。
 「サポートする側」にとっても、よく知られた貧困地域だけに、「自分たちの活動を世の中にアピールしやすい場所」だったのです。
 あそこに行けば、公的扶助が充実していて、タダで食べられるし、日雇でも仕事がある、そして、過去をいちいち周りに問われない、ということで、さらに人が集まってきた。
 そして、「あいりん地区」も、ずっと同じような性格を持っていたわけではなくて、大阪万博を含む日本の高度成長期の、景気が良くて、肉体労働者への需要が高かった時代には、その供給のための場所としての活気がありました。
 それが、バブル崩壊をきっかけに、日雇労働への需要が減り、仕事を求めて流入してくる人も少なくなり、それまでの住人はどんどん高齢化して、「福祉の街」になっていったのです。
 結局は経済が重要で、景気が良ければ、いろんな問題というのはウヤムヤにできるのかな、とも思うんですよね。


 また、あいりん地区では、「訳あり」の人が多くて、酒場では見知らぬ若者に気軽に酒をすすめ、身の上話をしてくれる人がいる一方で、こちらからあれこれ詮索してはいけない、という不文律があるそうです。
 家族とは縁が切れてしまった、独居男性の割合も高い。
 お金だけでなくて、「孤立」が、いまのあいりん地区の大きな課題でもあるのですが、その孤立は、彼ら自身が求めていたものだという面もある。
 

 すでに述べたように、バブル崩壊以降の労働市場の縮小を高齢化によって、あいりん地区に暮らす日雇労働者の多くが長期失業状態に陥った。この事態に公的セクターが迅速に対応できなかったことから、野宿を余儀なくされた日雇労働者が地区内外に溢れ出た。
 この危機に対応するために大阪市は「あいりん臨時夜間緊急避難所」や「ホームレス自立支援センター」を開設し、ホームレス対策を進めた。そして厚生労働省の社会・援護局保護課長通知「ホームレスに対する生活保護の適用について」が出た2003年以降、あいりん地区に暮らす住所不定者への生活保護の適用が進み、月払いの賃貸住宅で定住する者が増えた。以上のような取り組みの結果、大阪市の野宿者数は1998年の約8700人をピークに減少し続け、2015年には約1500人になった。
 野宿者が減る一方で、顕著に増えたのは生活保護受給者である。2016年1月時点の大阪市の被保護世帯数は11万7079世帯、被保護人員は14万6835人。大阪市生活保護受給率は5.4%で政令指定都市のなかでもっとも高い(全国平均は1.7%)。また、西成区の被保護世帯数は約2万4856世帯、被保護人員は2万7220人となっている。西成区生活保護受給率は大阪市24区でもっとも高く24.4%にも及ぶ。そして西成区内でも突出して高い生活保護受給率となっているのがあいりん地区だ。同地区の被保護人員は約9000人。住民の約40%が生活保護を受けている。


 こういう数字を示されると、行政も大変だなあ、と思いますし、ホームレスや生活困窮者へのサポートも頑張ってやっているんですよね。
 足りない面ばかりが指摘されがちではあるけれど。
 住民の40%が生活保護となると、その地区だけでは、経済的にやっていけるとは思えません。ビル・ゲイツさんが同じところに住んで税金をどんどん納めてくれる、というわけでもないでしょうし。
 そうなると、「あそこでは生活保護が受けやすい」と、さらに人が集まってくるのも事実です。

 筆者が大阪府警に請求して入手した統計データによると、あいりん地区を管轄する西成警察署が取り扱う異状死体数は2002年から2014年にかけて年間600人前後で推移している。近年、路上死するケースが激減していることから、異状死体の大半は在宅死(自殺を含む)だと考えてよいだろう。なお、大阪府には65の警察署があるが、この十数年のデータを見る限り、一貫して西成警察署の取り扱う異状死体数が最多となっており、その数は他署を圧倒している。
 西成警察署が取り扱う異状死体で注目すべきは、そのなかに占める高齢者割合(65歳以上)である。2002年に49.0%(275件)だったものが、2006年には63.8%(363件)、2010年には67.1%(456件)、2014年には69.0%(390件)に上昇している。このことは高齢者の在宅死の急増を示している。西成警察署が取り扱う異状死体のうち、あいりん地区での発生件数を特定できないが、相当の割合を占めることは間違いないだろう。


 あらためて考えてみると、「孤立死」や「高齢者の経済的困窮」というのは、これからの日本でさらに顕在化してくるであろう問題なんですよね。
 生涯未婚率が増加し、家族や地域との縁も薄くなっていく社会では、必然的に起こることなのです。
 なんでも「自己責任」というのはおかしい。
 しかしながら、すべてをサポートできるほどの経済力も人的資源もない。
 そんな中で、何をやって、何を諦めるのか。
 あいりん地区というのは、「日本の未来を先取りしている場所」だと言えるのかもしれません。


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