琥珀色の戯言

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【読書感想】知らないと恥をかく世界の大問題9 分断を生み出す1強政治 ☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
“自分ファースト”に振り回される世界を「池上解説」。人気シリーズ第9弾


世界の指導者の独裁化が分断、対立を引き起こす?


アメリカ・ファースト」ならぬ「トランプ・ファースト」が世界を混乱に陥れている。緊迫化する中東、東アジア情勢。その裏で世界の指導者の独裁化が進む。分断、対立、そして民主主義の危機……。この流れにどう立ち向かえばいいのか?
世界のいまを池上彰がズバリ解説する。
シリーズ累計180万部突破・人気の「ニュース入門」第9弾の登場!


 この池上彰さんの「世界の大問題」シリーズ、前作「8」が出たのが2017年7月なので、ほぼ1年ぶりの新刊です。
 ちなみに「8」のサブタイトルは「自国ファーストの行き着く先」でした。
 
 この1年の情勢の変化をみていると、トランプ大統領の「自国ファースト」に世界が振り回されているのと同時に、これだけいろんな人がトランプ大統領を批判しているにもかかわらず、致命的な危機を迎えることもなく、政権が運営されているようにもみえるんですよね。
 トランプ大統領は、ある意味、批判する側にとっては、格好の「ネタ供給元」になっている面もあるのです。

 トランプ大統領の、ホワイトハウスでの暮らしぶりも明らかになりました。ホワイトハウスの1階、2階は仕事場になっており、3階にプライベートな部屋があります。メラニア夫人と寝室は別々。夕方6時ごろになるとさっさと執務室から3階の自分の部屋にこもり、内側から鍵をかけるのだそうです。
 大統領が寝室の内側から鍵をかけるのはタブーとされています。かつてジョージ・W・ブッシュが、ホワイトハウスの寝室でプレッツェルを食べていたら、咽(のど)に引っかかって窒息死しそうになったことがありました。シークレットサービスが駆け込んだので命を取り留めたのですが、鍵をかけるとこうした事故を防ぐことができません。トランプはセキュリティーの忠告を無視して、寝室に鍵を取り付けさせました。
 さらに、部屋には1台しかテレビがなかったため、2台追加し3台に。彼の情報源はすべてテレビなのだそうです。ベッドでテレビを見ながらマクドナルドのチーズバーガーを2個食べるのだそうです。なぜか。大統領専用の食事には毒が盛られる危険性があるけれど、不特定多数に向けて売っているハンバーガーを買えば毒は入っていない。彼は毒殺を恐れているのです。そして、ダイエットコークを1日12本飲む。
 お世辞にもすばらしい食生活とは言えません。
 朝は比較的早い早い6時ごろに起きて30分くらいツイッター。その後、昼までは執務室にはいかず、午後になるとようやく執務室に現れ、しばらく仕事をしたら昼寝タイム。そういう生活ペースを崩さないようです。
 驚くべきことですが、アメリカはこういう人物を大統領に選んだのです。


 世界でいちばんの権力を持つ人が、こんな生活で良いのだろうか、とは思うけれど、正直なところ、僕はこれを読んで、トランプさんに親しみを感じてしまった面もあるのです。
 アメリカの人々も、「ダメなところがあるから、トランプ大統領を憎めない」ような気がします。
 もちろん、大統領がそれでいいのか、という人のほうが多いのでしょうけど。


 イギリスのEU離脱に伴う、さまざまな問題についても、詳しく解説されているんですよね。
 北アイルランド問題が再燃するリスクがあることや、ロンドンの金融街「シティ」から、世界中の金融機関がヨーロッパでの拠点とドイツのデュッセルドルフやフランクフルト、フランスのパリに移しつつあることも紹介されているのです。

 徴兵制を復活させる動きはヨーロッパ各地に広がっています。
 フランスのマクロン大統領は2018年に入り、2001年に廃止されていた徴兵制を復活させる考えを示しました。フランスでは1996年に当時のジャック・シラク大統領が徴兵制の段階的廃止を決定しました。兵士をすべて志願兵に切り替えるというもので、2001年に完了しました。兵器の近代化が進み、素人を徴兵しても役に立たないと考えられるようになったからです。
 しかし2015年に起きたパリ同時多発テロ以降、一般国民の中からも徴兵制復活を求める声が出始め、マクロン大統領は大統領選挙の公約に徴兵制の復活を盛り込んでいました。
 18歳から21歳の男女全員(毎年約60万人)が対象ですが、期間は1ヵ月間、兵士になっても武装はさせず、正規軍兵士の補助的な業務にあたるというものです。1ヵ月だけ徴兵制を復活してもあまり意味はないように思いますが、若い人に危機感を持ってもらおうという狙いがあるのでしょう。
 一方、ドイツでは、総選挙で野党第1党に躍り出た「ドイツのための選択肢」(AfD)が、徴兵制を復活させることを公約に掲げています。
 現在、徴兵制がある国は193の国と地域のうち65。軍隊を保有しているのは177です。
 日本の場合は、徴兵制復活は考えにくいでしょうが、ヨーロッパではこういう動きが出てきていることを知っておきましょう。


 兵器や戦術がどんどん高度なものになっていて、一般市民を徴兵しても役に立たなくなっている(だから、徴兵制は意味がなくなってきている)、という話を聞いていたんですよね。
 僕はもう、最優先で徴兵される年齢ではなくなってしまいましたが、子どもたちのことを考えると、徴兵されないほうが良いので、ひと安心……だったはずなのですが、ここへきて、世界各国で「徴兵制の復活」がみられてきているのです。
 ただし、フランスの例のように、実際に前線で戦うというよりは、「軍務に関わることによって、危機意識を共有することや愛国心を育てること」を目的としているものもあるのです。
 1ヵ月くらい、しかも補助的な業務となると、かえってコストのほうが高くつきそうな気がするのですが、それでも、あえて、徴兵制を復活させようという国が出てきています。
 実際、大国が本気で相手を絶滅させるための戦争をはじめて、核兵器の撃ち合いみたいなことになれば、兵数とかは関係ないような気もするのですが。
 こういう「徴兵体験」のような形でなら、日本でも実現する可能性はあるかもしれませんね。僕は反対ですけど。

 
 中国では習近平国家主席、ロシアではプーチン大統領による独裁が続いており、対外的な野心もうかがわれるのです。
 「世界征服」みたいなことは、現代の世界では難しそうだけれど、ヒトラーの時代の人たちも、そう思っていたかもしれないんだよなあ。

 世界への中国の影響力を広げていく一方で、国内において習近平が力を入れているのがPM2.5対策です。
 中国国内で多くの人が不満に思っていたのが大気汚染でした。北京や上海の大気汚染は深刻な状態になっていました。
 香港のすぐ隣に”アジアのシリコンバレー”と呼ばれる深圳という都市があります。巨大な電気街が広がり、中国人の欲望が溢れる街。中国で資本主義を代表するような街で、経済が大発展しています。その結果、大気汚染が進み、すぐ風下にある香港に大気汚染物質が流れ込んで香港の環境が悪化していました。
 香港には世界のさまざまな企業が進出していますが、その企業の駐在員の家族が健康を考えて本国へ渡り、父親だけが単身赴任などという状態が続いていたのです。
 いまその深圳の空気が劇的にきれいになっています。なぜか。
 街を走るバスやタクシーを、ガソリン車から電気自動車に変えてしまったのです。これは独裁国家ならではですね。”鶴の一声”ですべてを変えてしまうことができます。さらには、一般の自動車も電気自動車を推奨することにより、次々に電気自動車に変わりつつあります。


 電気自動車は、充電に時間がかかって不便、という問題点を、深圳では「充電スタンドで、充電済みのバッテリーと、バッテリー丸ごと交換する」という方法で解決したのです。
 日本で同じことをしようとしても、ガソリン車を作っているメーカーやら、石油会社やら、街のスタンドの人たちやら、さまざまな人たちの思惑が入り乱れて、そう簡単に実現できそうにはありません。
 「独裁国家であるがゆえの、スピード感」というのは、たしかに競争力を高めるのに有効ではあるのです。


 ただ、これらの動きへの反動なのか、「自国ファースト」「分断」「右傾化」がキーワードとなっていた世界情勢に、少しずつその反動があらわれてきているようにもみえるのです。
 ヨーロッパ各国では、どんどん勢力を伸ばすと思われていた極右政党が、選挙で足踏みをしたり、かえって後退したりしていますし、ドイツやフランスでは(離脱しようとしているイギリス国内でも)、西欧を平和にしてきたEUというシステムを再評価し、EUを守ろう、という動きが出てきています。
 これだけ経済がグローバル化してしまうと、アメリカのような大国でさえ、「孤立主義」では、さまざまな弊害も出てくるのです。

 近年、世界は自分の国さえよければいいという”バラバラになるベクトル”が働いていましたが、むしろ「それではいけない」という動きがこれからは出てくるのではないかと思っています。


 結局、歴史は繰り返す、ということなのかもしれません。
 今回は、大きな犠牲を払う前に、進路を修正できれば良いのですが。
 
 とりあえず、「2時間くらいで読める、いまの世界情勢」として、有益な本だと思います。


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