あらすじ
トラックの脱輪事故で主婦が亡くなり、整備不良を疑われた運送会社社長・赤松徳郎(長瀬智也)は、警察の執拗(しつよう)な追及を受ける。赤松はトラックの欠陥に気付き製造元のホープ自動車に再調査を要求するが、調査は進展せず自ら調査を開始。やがて大企業のリコール隠しを知った赤松は、会社や家族を守るため、そして自身の正義のため、巨大企業に立ち向かっていく。
『空飛ぶタイヤ』の原作小説の感想はこちらです。
fujipon.hatenadiary.com
2018年、映画館での20作目。
平日の午前中の上映で観ました。
観客は20人くらい。
この映画、文庫本で800ページをこえる原作小説をどうやって2時間の映画にするのだろう、と気になっていたんですよね。
WOWOWの連続ドラマは好評だったみたいですが、映画でかなり省略するとしても、前後編くらいにしないと無理じゃないか、と思っていたのです。
実際に観てみると、2時間でこれ以上うまくまとめるのは難しいだろうな、という良作に仕上がっていたのです。
ただし、僕が最近原作を読んだばかりだったので、端折っているところは脳内で補填しやすかった、というのも大きいのではないかと。
原作未読、あるいは、ずっと前に原作を読んだきり、の人にも伝わるかどうかはわかりません。
主要キャストにしても、長瀬智也さん演じる赤松社長とディーン・フジオカさん演じるホープ自動車の沢田については、けっこうしっかりと描かれていたのですが、高橋一生さんのホープ銀行の井崎はあまり存在感がありませんでした。
原作では、この三者がそれぞれの思惑で動いているところが読みどころだったのですが、さすがに時間的制約があって、銀行を描く部分を省略した、ということなのでしょう。
あと、原作でけっこうインパクトがあった、旧財閥系大企業の腐り果てたエリート意識を描いた部分は映画ではほとんどみられませんでした。あの「単なる大企業病」をはるかに上回る不快感あふれる企業風土を映像化するのは、モデルが明らかなだけに憚られたのかもしれませんね。
銀行の「晴れている日にむりやり傘を貸そうとし、雨が降ったら傘を取りあげる」という場面とか、「たいへん勉強になる」のだけどなあ。
2時間の上映時間、という制約では、赤松社長の家庭や学校のことや銀行関連のやりとり、隠蔽の手掛かりを得るまでのプロセスなどを描くことは難しかったのはよくわかるし、赤松社長 vs 沢田課長、という構図にしたほうが、映画としても見やすいと判断したのでしょう。
この映画の監督って、『超高速!参勤交代』も撮っているそうで、物事をテンポ良く切り取るのが上手い人なのだろうな。
沢田の立派な奥さんもカットされていたのは、ちょっとかわいそうだったけど。
もしかしたら、前後編のつもりでキャスティングしていて、結局、2時間で1本の映画にまとめることになったため、出番が少ない豪華キャストが大勢出てしまったのだろうか。
個人的には、沢田がちょっと良い奴すぎるのではないか、というのと、原作にあった、ホープ自動車からの保証金の申し出の内容の重要なところが言及されていなかったのは気になりました
この2点は、原作のなかでは、けっこう大事なところだと思います。
登場人物を「善人」として描いたほうが、あるいは、組織のなかでの人間の打算や駆け引きみたいなものを少し隠したほうが、映画としてはわかりやすい、という判断なのだろうけど。
でもなあ、この映画のような申し出だったら、赤松社長はもらったと思うぞ、保証金。
ラストまでみて、僕はふと思ったんですよ。
とりあえず、正義が勝ってよかったなあ!
……あれ?
赤松社長にとって、赤松運送にとって、あの事故車に乗っていたドライバーにとって、そして、被害者とその家族にとって、これは「ハッピーエンド」なのだろうか?
赤松運送は、これだけ身を粉にして自分たちの責任ではないことを証明しようとしたのに、ようやくたどり着いた場所は「じゃあ、あなたたちのせいじゃない、っていうことで」というスタートラインというか、それ以下の状況でしかないのです。勝ったって、何かをもらえるわけじゃない。
汚名を返上できたかもしれないけれど、あくまでも「身に降りかかった災難を振り払った」だけでしかありません。もちろん、汚名をきせられたままよりははるかにマシなのだけれど。
「冤罪で疑われ、社会的に非難される」ということは、なんて割に合わないことなのだろう。
赤松運送を責めた人たちは、疑いが晴れたからといって、何も「お返し」はしてくれません。心の奥で、ちょっとだけ「ごめんね」くらいは思うかもしれないけれど。
事故を起こしたドライバーは、自分の責任ではない、ということになっても、やっぱり自分が運転していた車が起こした事故であれば、ずっと後悔するでしょうし。誰のせいであろうが、被害者は還ってこない。
世の中って、「偶然、それに遭遇してしまっただけで、どうしようもなくなってしまうこと」があるのです。
だからこそ、事故が起こらないようにできることをやらなくてはならない。
それでも、事故は「起こる」ものなのだとしても。
良い映画だと思います。
後味が少し苦いのは、現実というものの苦みが描かれているからなのでしょうね。
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