
「価格」を疑え - なぜビールは値上がり続けるのか (中公新書ラクレ)
- 作者: 吉川尚宏
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/05/08
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。

「価格」を疑え なぜビールは値上がり続けるのか (中公新書ラクレ)
- 作者: 吉川尚宏
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/07/13
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
ビールにバター、地下鉄運賃、携帯電話料金―。需要と供給の関係なく決められている価格が日本にはあり、消費者が「高い」と感じるその裏には大きな力が関与していると著者は主張する。それはつまり「官製価格」だ。総務省有識者会議の構成員である著者は、官製価格化こそが市場からダイナミズムを奪い、経済の停滞を招く元凶と警鐘を鳴らす。官製春闘、官製相場。官製化から脱却しないかぎり、この先日本に成長は無い!
書店でこの本のタイトルをみて、「面白そうだな」と思ったんんですよ。僕も、ビールって最近高くなったな、って感じていたし。
ただ、それは本当に値上がりしているのか、発泡酒やコンビニのプライベートブランドがかなり安くなっている影響なのか、僕にはわからなかったんですよね。そんなにスーパーや酒屋さんでビールを買うこともないし(というか、アルコールはたまにコンビニで買えば十分で、そんなに日常的に飲んでもいないので)。
いろんなものの「価格」の仕組みがわかりやすく説明されている新書なのだな、と思って、書店でパラパラとめくってみたのですが、そんな分厚い本でもないし、難しい言葉ばかりでもないはずなのに、なかなか頭に入ってこないのが気になりつつも、買って読んでみました。
うーむ、扱っている題材は興味深いのだけれど、著者はいかにも「切れ者っぽい雰囲気を醸し出しているコンサルタント」って感じで、法律とか経済用語とかが並んでいて、経済に疎い僕には、「読んでもあんまり内容が頭に入ってこなかった」のです。
この本の原型は、『日経ニューメディア』という情報通信分野の専門ニューズレターに掲載されていたコラムだったそうですが、もともとかなり専門性の強い媒体に書かれていたもので、タイトルの親しみやすさに比べて、内容はかなりハードというか、読みづらいんですよ、正直なところ。
第4章の「なぜ携帯電話代はもっと安くならないのか」より。
MNOとMVNOとの間には事業者間接続と卸電気通信役務という二種類の制度があり、いずれを採用するかは、一義的には当事者間の協議による。
事業者間接続とは、それぞれの事業者が、POI(Point of Interface:相互接続点)を責任分岐点として、利用者に対し、自らの電気通信設備にかかわる電気通信役務を提供する方法を言う。これはMNOとMNOとの間でも行われている方式である。
そもそも電気通信事業者は、他の電気通信事業者から、電気通信回線設備との接続の請求を受けたとき、原則としてこれに応じる義務を持つ。自社の携帯電話の加入者同士でしか通話ができない通信サービスは利用者からすると大変に不便なため、こうした制度が従来から存在している。
たぶん、こういう言い回しって、法律的には正しいというか、専門家が正しくものを言おうとすれば、こんな感じになるんだろうな、と思うんですよ。
著者は、この通信関係の専門家ということですし。
でも、この業界にも経済用語にも法律的な言い回しにも慣れていない僕にとっては、わざと小難しく書いているんじゃないか、これ……と思えてくるのです。
新書に求めるものって、もちろん、人それぞれなのでしょうけど、僕はもうちょっと間口が広いものを期待していました。
「国による規制によって、かえってものの値段が下がりにくい状況ができてしまっている」というのはなんとなくわかるのですが、個人的には、「ああ、著者は新自由主義の人なんだな」で、済ませてしまいたくなるのです。
ビールが2017年6月の改正酒税法を境に値上がりしたことに関して、著者はこう述べています。
この法律は酒類の販売に関して公正な取引を求めるもので、一般酒販店を大手スーパーらの安売り攻勢から守るものである。しかしながら、値上がりを招いたこの法律は消費者にとってはいい影響が全くなく、大手ビール会社の売り上げは減少。さらには守る対象だったはずの一般酒販店と大手スーパーらとの価格競争力の差異も未だ埋まっていない。リベートを規制した制度導入に問題は無かったのだろうか。そもそも、このような規制に意味はあるのだろうか。
国(あるいは政治家たち)のねらいとしては、リベートをなくすことによって、スーパーの安売り攻勢に脅かされている昔からの「酒屋さん」を守りたい、選挙対策にもなるし……という目論見があったようなのですが、実際は、リベートがなくなっても、大手
スーパーは大量仕入れによって「薄利多売」が可能だし、ビール
集客のための商品」と割り切って、安い価格で売り、他のもので儲ける、という戦略が可能だったのです。
中小の町の酒屋はそういうわけにはいかないので、「格差」はなくなりませんでした。
さらに、値上げによってビールの消費は落ちてしまったのです。
小売店も、ビール会社も、そしてもちろん、消費者も、誰も得をしなかった。
もちろん、「リベート」という仕組みは真っ当なものではないので、道義的には「改善」した、と言えるのかもしれませんが。
著者は、「制度設計の巧拙もさることながら、そもそも、この規制は必要だったのだろうか」と述べています。
消費者の観点からは、酒類販売における一般商店の位置づけは年々低下しており、存在感の低下は避けられないチャネルであったといえる。たとえ政治家の観点からは有用なチャネルであったとしても、である。
小売りチャネルをめぐる競争はあらゆる商品で起こっており、酒類だけがその例外ではない。大手流通業が中小の流通業を席巻しているのは衣食住のあらゆる商品分野で起こっている。牛丼チェーンの価格が安いからといって、街の食堂が政治家を使い、牛丼の値上げを促すような法改正をはたらきかけたりするだろうか。
そして大手流通業者も安泰ではない。インターネット販売との競争にさらされており、その地位が年々危うくなってきている。だからといって、インターネット販売をつぶすような法改正を政治家にはたらきかけるだろうか。彼らは彼らでインターネット販売を強化するなどし、インターネット販売専業会社に対抗しようとするはずだ。
市場を規制するよりも、なるべく自由な競争に任せたほうがいい、というのは考え方としては理解できるのですが、新自由主義を押し進めたアメリカでは、たしかにモノは安くなったけれど、「マックジョブ」と呼ばれるようなマニュアル通りの仕事をする労働者の賃金は下がっていって、「ウォルマートで働きながら、賃金が安いのでフードスタンプという公的扶助を自分が働いているウォルマートで利用する」という状況になっているのです。
単純に、モノが安くなれば、人が幸せになるとは限らない。
ごく一部の「勝ち組」大企業やネット企業が薄利多売で市場を支配する状況というのは、格差が広がっていくばかりです。
選挙に勝つためのバラマキ政治みたいなのは問題だけれど、なんでも「自由競争」にすることのリスクというのは、やっぱりあると思うんですよ。
そうはいっても、いまさら既存の町の酒屋さんがどんどん勢力を広げていくとは思えないけれど、それでも、その衰退はソフトランディングのほうが良いのではなかろうか。
モノを安く売るというのは、それを売る人たちの給料が安くなったり、労働時間が長くなったりすることにつながりがちでもあります。
著者の主張には、頷けることも多いのだけれど(東京の地下鉄の余計な壁はとっぱらってしまえ!とか)、「安すぎる価格」というのも、疑うべきだと僕は思っているのです。
多くの人は、消費者であるのと同時に、サービスを提供する仕事をして稼いでいるのだから。

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