琥珀色の戯言

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【読書感想】ほぼ命がけサメ図鑑 ☆☆☆☆

ほぼ命がけサメ図鑑

ほぼ命がけサメ図鑑


Kindle版もあります。

ほぼ命がけサメ図鑑

ほぼ命がけサメ図鑑

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内容(「BOOK」データベースより)
巨大ザメも深海ザメも存在します。でも、人食いザメは、存在しません。世界でたったひとりの体験的シャークジャーナリストの本!


 正直、僕は『サメ』という生物に対して、そんなに興味があるわけではないのです。
 あのシャープな形態や冷徹な表情(?)には、心惹かれるところはあるのですが、ヘビと一緒で、「ガラスケース越しに見るのはやぶさかではないが、親密なおつきあいは遠慮したい生物」なんですよね。

 そんな僕が、この本をなぜ買って読んだかというと、『HONZ』のこの記事を読んだから。
honz.jp


「世界でただ一人のシャークジャーナリスト」が、6年かけて書いたというこの「サメ図鑑」、タイトルは「図鑑」なのですが、いかにも教科書的な説明ではなく、著者自身が体験した、そのサメとのさまざまなエピソードが紹介されていて、面白いエッセイを読んでいるようでした。

 著者は、「サメ」に対する人々の大きな誤解から、話をはじめています。

「人食いザメ」というイメージは、わたしたち人間がサメに対して勝手に抱いている誤解です。彼らが好んで人を食べるなんてことはありえません。
 データもそれを物語っています。アメリカ人の死因を調べた統計調査によれば、1959年から2010年までの約50年のあいだで、サメに襲われて死亡した人は26人。年間平均で0.5人ほどにしかなりません。ちなみに、同じ期間に落雷が原因で亡くなった人は1970人。年間平均で37.9人です。サメに襲われて死ぬ確率は、雷に撃たれて死ぬよりもはるかに低いのです。
 それでもサメが人に噛みつくことがあるのは事実ですが、その多くはサーフィン中のできごとです。人がサーフボードにまたがって座る、あるいはパドリングをする姿を海中から見上げると、サメの好物であるアザラシやウミガメそっくりに見えるようです。サーフィンのメッカであるハワイでは、アザラシやウミガメを好んで食べるイタチザメ(メジロザメ目メジロザメ科)に、サーファーがアタックされたというニュースがときおり報じられます。わたしが海に潜って出会ったことのあるイタチザメは、「なんだろう、これは?」といったような表情で遠くから近づいてきて、ぎょろりとわたしを観察したあとに、スッといなくなりました。好奇心旺盛な性格なのかもしれません。
 また、潜水漁で、潜水夫が持つ漁獲物のにおいがサメを引き寄せ、漁獲物もろとも噛みつかれることもあるようです。


 海に近づかなければ、サメに襲われることはありません。
 海水浴場で泳ぐにしても、サメよりも溺れるほうが、ずっとリスクは高いのです。
 それでも、人は、サメが怖い。
 映画『ジョーズ』の影響が大きいのではないか、と著者は述べています。
 たしかに、サメを観ると、『ジョーズ』のテーマが頭の中に流れてくるのは、僕だけではないはずです。
 実際は、サメの撮影をするためにスキューバダイビングで海に潜ると、たいていの場合、サメは人間を見るとすぐに逃げていくそうなのですが。


 著者は、もちろんサメが大好きなのですが、「サメってかわいい!」とか、「本当は心のやさしい生き物なんです!」というような、「擬人化して溺愛している」というわけではないのです。
 サメ料理を食べるし、解剖もします。
 ジャーナリスト、というか、研究者でもあるのです。
 サメという生き物が存在している、自然界の厳しさを受け入れたうえで、サメに魅力を感じているのです。

 シロワニの属するネズミザメの仲間は、子ザメが子宮内にいる間、母ザメの排卵した卵を食べて育つ(これを「卵食」という)。
 だが、ネズミザメの仲間のなかでもシロワニは例外だ。妊娠初期段階の子ザメにはすでに鋭い歯が生えており、子宮内に発生した子ザメたちがお互いに共食いをはじめるのだ。これは「子宮内共食い」と呼ばれる。兄弟姉妹である子ザメ、あるいはあとから子宮内に排卵される卵を食べて栄養に変え、最後にはひとつの子宮内に1尾の子ザメしか残らない(サメのメスは子宮を2つ持つため、1尾のシロワニの母ザメからは最大2尾の子ザメが産まれる)。
 サメが一度に産む子(もしくは卵)の数は、数尾(あるいは数個)から数十程度だ。「数撃ちゃ当たる」で多くの卵を産む「硬骨魚類」と対照的に、少数精鋭の生存戦略をとっている(一部のサメは、例外的に100〜300尾以上を産むが、数千万個もの卵を産む硬骨魚類と比べれば、圧倒的に少ないといえるだろう)が、シロワニの少数精鋭主義は際立っている。
 シロワニの出生サイズは1m前後。成体の大きさは2m前後だから、母ザメの体の中で、その半分ぐらいの大きさまで成長してから海に放たれる。大海原にはシロワニよりも体の大きなサメも生息し、彼らに食べられることなく、日々の食べものを確保し続けなければ生きていけない。つまり、弱い個体をどれだけたくさん産み落としても、生存戦略のうえではあまり意味をなさない。それよりは、母体の中に弱肉強食の世界をつくり、強い個体だけを世に送り出し、その個体が生き延びることに賭ける。それがシロワニの繁殖行動で、まさに少数精鋭の鑑のような生態だ。
 わたしが観察したことのある妊娠中のシロワニは、左右の子宮内にいる子ザメがほぼ同じ発育状態だった。すなわち、2尾の最強子ザメが、ほぼ同時期にこの世に放たれると推測される。誕生前に兄弟姉妹を殺めて成長するシロワニ。その非情なまでの強さが、厳しい大自然を生き抜く力になっているのだろう。


 このシロワニ、表情はいかついけれど、性格はおとなしく、飼育しやすいため全国の水族館で展示されているそうです。
 大自然で生き抜くための知恵とはいえ、こういう話を読むと、シロワニを見るたびに、「お前も兄弟姉妹を殺めてきたのか……」と考え込んでしまうよなあ。
 それこそ、「自然界の生物に対する、過剰な擬人化」でしかないのかもしれませんが。

 サメの水揚げ量は、日本全体で年間3万tほど。マグロ(約300万t)やカツオ(約30万t)には及ばないが、わたしはむしろ、マグロの100分の1、カツオの10分の1も水揚げされていることに驚いた。日本の人口で単純に割ると、一人あたり毎年250gほどのサメを消費している計算になる。
 フカヒレだけでなく、サメ肉は日本各地でローカルフードになっているし、コラーゲンも豊富だ。サメの皮は牛革のように強く、財布やハンドバッグ、靴の材料になっている。
 また、サメの肝臓から取れる「肝油」は、第二次世界大戦では戦闘機の潤滑油として利用され、今は健康食品、栄養補助食品や化粧品にも使われている。
 かつては、かまぼこやはんぺん、魚肉ソーセージなどの練り物の原材料にも主役級で使われていた。


 肝油の材料には、サメだけではなくて、タラやエイなども使われているそうです。
 僕も幼稚園の頃、肝油を毎日一粒食べていた記憶があるんですよね。甘味のある肝油は、当時の僕にはけっこう美味しくて、もっと食べたいなあ、あれをひと缶丸ごと食べてみたいなあ、と思っていたものです。サメの肝臓からつくられていたとは、つゆ知らず。
 

 サメにあまり興味がない僕でも本当に楽しく読めましたし、サメという生き物を通じて、生き物の多様性とか自然の厳しさ、面白さが伝わってくる本だと思います。
 子供たちの目に触れそうなところに、さりげなく置いておきたくなる、そんな一冊です。


アニアAL-05 ジンベエザメ

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老人と海(新潮文庫)

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