
- 作者: 椎名誠
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2018/06/05
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
「旅の多い人生だ。世界各国、日本各地。ホテルや旅館などの恵まれた寝場所だけでなく、原野やジャングルなどでも寝なければならない」(本文より)
真冬のロシアのホテルで遭遇した信じられないホラー体験、モンゴルのゲルにやってきた深夜の来訪者、ラオスでカビと虫の死骸に囲まれた一夜、一瞬で身体ごと蚊に包まれるツンドラのテント生活など、旅の達人・椎名誠がこれまでに泊ってきた「宿」を振り返り、驚き・発見・恐怖・感動のエピソードをまとめたエッセイ集。
地球を股にかけた、オドロキのエピソードが満載!
椎名誠さんは1944年生まれ。
僕の親と同世代なのですが、まだ現役でいろんなところに行き、書き続けておられるのをみると(読むと)、長年の読者としてはありがたいかぎりです。
あらためて考えてみると、宿泊した先のバリエーションでは、椎名さんを上回る人は、日本にはいないのではなかろうか。
本当に、世界中いろんなところを旅してきた人だから。
それも、観光ツアーでは絶対に行かないような場所ばかり。
この本では、椎名さんが実際に体験した、世界各地での怖い、あるいは珍しい宿泊先の話が紹介されています。
1997年に奄美諸島の硫黄島に行った際、人口140人の島のあちこちに「野良孔雀」がいたそうです。
野良犬や野良猫ならわかるけど、野良孔雀?
椎名さんも疑問に思い、地元の人に尋ねたそうです。
「しかしなんでこんなに孔雀がいるんですか?」
さっきから一番知りたかったことを聞いた。
真相は単純なことだった。20年ぐらい前に、ある観光資本がこの島に大きなリゾートホテルを建設したらしい。しかし野趣満点の自然温泉だけでなくここをある種の野鳥の王国にしてさらに魅力的なところにしよう、と考えたらしい。先乗りした調査員が孔雀とホロホロ鳥をそれぞれ25つがい持ってきた。そうやってホテルオープンまでに沢山繁殖させておこうという作戦である。
けれどなんらかの理由でそのホテルは営業を中止した。そういうコトとは関係なしに孔雀やホロホロ鳥はどんどん野生化し、繁殖していった。天敵のいない生物の繁殖力というのはものすごいのだ。
ところで親父の話を聞いて気になったことがある。孔雀は本当にたくさん見るのだがホロホロ鳥のほうはまったく目にしていない。
そのことを質問すると親父は少し笑ったようだった。
「おいしい鳥はこういう島では絶滅してしまうんですよ」
うーむ。理由は単純明瞭だった。
逆にいうと孔雀はでかいくせいにきっとまずいのだ。そうしてこの島はいつのまにか他の野生生物を駆逐した孔雀の王国になっていったらしい。
理由を聞くと、そういうことだったのか、という話なのですが、人間の手で生態系が変わってしまうのは、そんなに珍しいことではないのですよね。
一昔前までは、外来種の持ち込みとか生態系の破壊についての意識も低かったし。
生物が繁殖するには「おいしくない」というのも重要な要素なのかもしれません。
ホテルも日本式の宿にもいろんな人が泊まる。古いホテルや宿になるとひとつひとつの部屋にそれまでどのくらいの人が泊まったのかはかりしれない数になるだろう。そうしてそこではいろいろなことが起きていた筈である。
ここではてっとり早く、自殺とか殺人などの出来事が起きた場合のことを考える。
これはある知り合いのホテル関係者に聞いた話だが、そういう事件が起きると、そのホテル経営者なりの「御祓い」とか「お清め」などを行い、ホテルなどだと部屋の内装を全部変えてしまうらしい。壁から天井、床まですべて引っばがし、部屋の内側をすっかりあたらしいものに変えてしまう。
その上でいままで通りの客室のひとつとして使う、というのだ。
これもレベルがあって、経営的に苦しいホテルなどはそのような全取り替えの予算がないから「御祓い」や「お清め」をしたあと、通常より丁寧な清掃をして、また普通の客室として再生するという。いちじき、そういういわくつきの部屋は壁に掛かっている絵画の裏板の中などに意味ありげな「おふだ」が隠すように貼ってある、などという話を聞いた。本当かどうかわからないけれど。
しかし、ぼくの体力や精神が弱っているときに、たまたまそういう経緯をもつ部屋に泊まり、夜更けに目がさめてカナシバリみたいなものになる、ということがあるのかもしれない。これは誰にも正解はわからないだろうが。
こういう話を聞くと、ホテルの部屋に絵がかかっていたら、その裏側を確認してみたくなります。たぶん、確認しないほうが幸せなのだろうとも思うけれど。
アパートであれば、「事故物件」というのがありますよね。
ホテルや旅館でも、そういうことは一定の割合で起こっていると思われますが、そのたびに「開かずの間」にするわけにもいきません。
僕もそういう部屋に、何度か泊まったことがあるのかもしれないなあ。
幸運なことに、金縛りにあったことはないし、霊感みたいなものもないのです。
そういうのとは関係なしに「なんだか眠れない」ということはあるとしても。
椎名さんと縁が深いモンゴル人の動物への態度も紹介されています。
一応役に立つノラ犬でもこれだけの扱いであるから日本の二大ペットであるネコなど遊牧民は大嫌いである。みかけるとはっきり悪意を持ってサッカーボールキックのように蹴りとばす。それで死ぬネコもいるようだから、モンゴルのネコは人間を見ると直ぐニゲル。世界で一番セコセコした動物になっているのだ。
モンゴル人はどうしてそのようにネコが大嫌いなのか聞いてみたら「まったく働かない動物だから」という明確な回答があった。なるほどこの国の遊牧民は殆どの動物を家畜としているがネコほどなにか働かせよう、と考えたことがない動物はいないだろう。そう言われるとわかる。
言われてみると、確かにそうなんですよ。
ネコ好きの人は多いけれど、ネコって、番犬になるわけでも、乗り物になるわけでも、食べておいしいわけでもありません。にもかかわらず、こんなにも人間に愛され、飼育されているのです。
その役に立たないところが良いのだ、という意見もあるのかもしれないけれど。
椎名さんの話に出てくる「外国」は、今から数十年くらい前のことが多いのです。
以前のロシアでは、飛行機で座席が取れなかった人がトイレの前に座り乗りしている、というのを読んで驚きました。さすがに危ないんじゃないかそれは。
いまの、ワールドカップが開催されていたロシアでは、そんなことはないのだと思いますが。
その一方で、LCC(ローコストキャリア)で、「最低限のサービスで格安の移動手段となった飛行機」が当たり前のものになっているんですよね。
どんどん文明化されている世界の、ちょっと昔の姿、僕が若い頃に椎名さんの本を読んで知った「辺境」のことを、懐かしく思いながら読みました。

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