琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018 USA語録 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
暴言王の治世でテロ・暴動・デモに揺れるアメリカを、今度はセクハラ・スキャンダルが直撃! いったいどうなるの? 北朝鮮のリトルロケットマンとの危ない舌戦もあり、内憂外患おびただしい大国アメリカのいまを笑いとともに現地から紹介する人気シリーズ2018年版。
もちろん澤井健画伯のイラストも完全収録!(表紙が何のパロディかすぐにわかったあなたは映画ファン? 裏表紙は本書を手にとってどうぞ)


 毎年読んでいる、町山智浩さんの『言霊USA』。この1年は(この1年「も」と言うべきでしょうか)トランプ大統領の話題が尽きない年でした。
 トランプ大統領が就任したときには、あんな無茶な人が大統領になったら、アメリカが大混乱するか、すぐに辞任することになるのではないか、と思っていたのですが、その後のアメリカをみていると、アメリカの政治システムというのはけっこう強力で、大統領が暴走しようとしても、いろんなところでそれを抑制できるようになっているのだな、と感じました。
 ここまでトランプ大統領の話題ばかりになると、辞めてしまったら、みんなネタがなくなって困るのではなかろうか。
 なんのかんの言っても、トランプ大統領の出現というのは、多くの人が政治にあらためて注目するきっかけにもなっているようです。

 (2017年)5月31日午前0時過ぎ、トランプはあるツイートを発信した。
「常時ネガティヴなマスコミのcovfefeにもかかわらず」
 ?????
 Covfefeって何? コヴフェフェって読むの?
 まあ、明らかにタイポ(打ち間違え)なのだが、トランプはそのまま寝落ちしたのか、しばらくツイートは放置された。たちまちコヴフェフェはツイッターのトレンド・ワードの1位にランクアップし、ネット民のコヴフェフェ遊びが始まった。『市民ケーン』でオーソン・ウェルズが謎の言葉「ローズバッド」と呟く映像に「コヴフェフェ」と字幕を入れたミームが拡散された。商売人はすぐにコヴフェフェTシャツを作って売り出した。
 朝6時、トランプは目が覚めたのか、テレ隠しのようにこうツイートした。
「誰がコヴフェフェの意味を解明するかな? 楽しんでね!」
 楽しんでね、じゃないよ!
 今回のコヴフェフェで明らかになったのは、トランプのツイートやはり野放しだということだ。トランプは選挙期間中にヒラリー・クリントンが自分のサーバーでメールを管理していたことについて「それでは機密が守れない!」と騒いでいたが、それどころじゃない。既にトランプはロシアにISについての機密を漏らしたことで批難されたが、英マンチェスター自爆テロについての情報も流出させてしまったので、メイ英首相はトランプと情報を共有しないことに決めた。ヒラリーは、「コヴフェフェってロシアと連絡するための暗号じゃないの?」とジョークを飛ばした。日本の総理大臣の「でんでん」もすごいけどなー。それって『冷たい熱帯魚』の連続殺人鬼だろ!


 あらためて考えてみると、これって、アメリカの大統領のツイートが、内部でのチェックなしに行われているということですよね。
 脇が甘いといえばその通りなんだけれども、トランプ大統領のそういう裏表のなさ(?)みたいなものを面白いと感じる人も多いのではないでしょうか。
 まあ、大統領としては問題があるのは確かなのですが。

 憲法修正25条には、大統領が職務遂行不可能である場合の手続きが定められている。民主党は大統領に精神鑑定を求める署名を集めており、去年12月には精神科医を集めて連邦議員向けの説明会も行われた。
ロシア疑惑に続き、民主党とその腰巾着、フェイク・ニュースの主流メディアどもが、精神的安定と知性についてギャアギャア叫んでやがる」
 トランプは1月6日の朝4時にツイートした。「マジで私の生涯を通して、2つの才能は精神的安定と、なんつーか(Like)マジ利口ってことだ」
 利口そうな文章だなー(棒読み)。
「ビジネスマンとしてすげえ(VERY)成功して、テレビのスターからアメリカの大統領になった(最初の出馬で)。それってもう利口どころか、天才……すげえ安定した天才だと思うよ!」
「天才」の後の「……」から、こみあげる自己愛に感無量で(朝4時のベッドで)顎をなでるトランプの姿が目に浮かぶ。これだけ短い文章で2回も「すげえ」を使う小学生並みのボキャブラリーもすげえ天才的だ。
 その翌7日、ゴールデングローブ賞授賞式で生涯功労賞を受けたテレビ司会者オプラ・ウィンフリーがセクハラ男たちに「もう終わりよ!(Time's up!)」と演説した。それに感動したイヴァンカ・トランプは「みんなで言いましょう。もう終わりよ!」とツイート。たちまち「終わりなのは、あんたのオヤジだ!」とボコボコに叩かれた。反セクハラのMeToo運動でもある女優アリッサ・ミラノは意地悪くこうツイート。「素敵! Time's Up基金に寄付してね! あんたのパパのセクハラ被害者を支援できるわよ!」
 そんなん叩かれるに決まってるのに……。娘も天才、ってか天然?


 これもまた、すごい話というか、ツッコミ待ち?って感じなのですが、イヴァンカさんは世の中の都合の悪いことをすべて他人事にしてしまうタイプの人なのか、それとも、父親は父親として、自分自身の意見を発信しただけなのか。
 こういうときに「親は親、子供は子供」と普段は言いながらも、やっぱり、「親の罪」を子供に向けてしまうのも人情ではあるのでしょう。
 僕はこのトランプ大統領のツイートを読んで、あらためて考えてみると、本当にすごい人生だよなあ、と思ったんですよ。お金、人気、地位のすべてを手に入れた人生だものなあ。それも、アメリカの大統領!
 自分で言わなきゃいいのにねえ……


 町山さんの話を読んでいると、アメリカと日本は違うのだな、と思うのと同時に、アメリカと日本で同じようなことをやっているのだなあ、というのもわかるのです。

 ハーヴァードやスタンフォードなど世界のトップ大学でもヘイジング(新人いじめ)問題は起こっている。「最近の若者は……」と時代のせいにもできない。今から140年前の1873年、やはり名門のコーネル大学でヘイジングのために死んだ学生は35人に及ぶ。1961年から今年までヘイジングで一人も死ななかった年はない。
 今年9月、ルイジアナ州立大学フラタニティ友愛会の寮)で18歳のマックスウェル・グルーヴァ―君が先輩にギリシャ語のアルファベットを書くよう言われて、間違うためにウォッカを飲まされ、急性アルコール中毒で死亡した。警察はフラタニティの学生10人を過失致死罪で逮捕した。だが、有罪になるかどうか。ペン・ステート大学の学生も起訴されたが裁判では事故死とされ、無罪になった。 名門フラタニティはレイプ事件でも頻繁に訴えられているが、裁判ではなかなか負けない。なぜなら、彼らは金持ちの有力者の息子が多く、裁判に強い弁護士を雇える。またエリートだから法曹界や政財界にはOBが大勢いて、卒業後も結束固く自分のフラタニティをサポートする。アメリカの支配階級にはフラタニティ出身者のネットワークが存在する。それは日本の学閥どころの騒ぎではない。ここ100年ほどの歴代最高裁判事の85%、上院議員の76%、経済誌フォーチュンのトップ500企業の経営者の85%が、そして歴代大統領の6割がフラタニティ出身者なのだ。だから学生は名門フラタニティに入るために命をかける。
 しかし大事に育てて、せっかくいい大学に入った息子を殺されて誰も裁かれないのでは親としてはたまったもんじゃない。


 日本でも、新入生歓迎会の一気飲みで、急性アルコール中毒になって亡くなった学生が何人もいたんですよね。
 ただ、最近は、それらの事件を受けて、学生に対しても、未成年の飲酒には厳しい処分がくだるようになり、僕の母校では、学園祭がアルコール禁止(成人している学生も含む)になった、という話も聞きました。
 学生だけでなく、社会人でも、「俺の酒が飲めないのか!」と絡まれる機会はだいぶ減ったのではないのでしょうか。もちろん、職場環境に依存するのだとしても。
 留学していた先輩から、アメリカ(の東海岸)では、泥酔者が街を歩いていたら警察に通報されても文句は言えない、という話を聞いたことがあります。
 それほど、酔っ払いに対して厳しい社会のはずのアメリカで、密室では「通過儀礼」としてこんなことが行われていて、多くの人が「伝統だから、しかたがない」と思っているのです。
 新しくメジャーリーグにやってきた選手が、通過儀礼として変な恰好をさせられる、なんていうのが微笑ましく語られているけれど、あれも、「ヘイジング」ですよね。人は「自分が若いころにされたこと」、とくに嫌だったことを、伝統として、次の世代に押し付けたがる。
 そういう意味では、時間はだいぶかかったけれど、日本は悪しき伝統から、少しずつ離れることができているだけマシなのかもしれません。
 アメリカ人は、物理的な「歴史」の期間が短い分だけ、「歴史」や「伝統」へのこだわりが強いとは言うけれど。


 それにしても、こんなにトランプ大統領の話ばかりだと、「トランプ後」に、みんな寂しくなってしまうのではないか、と心配になってきますね。


fujipon.hatenadiary.com

町山智浩の「アメリカ流れ者」

町山智浩の「アメリカ流れ者」

アクセスカウンター