琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】テンプル騎士団 ☆☆☆☆

テンプル騎士団 (集英社新書)

テンプル騎士団 (集英社新書)


Kindle版もあります。

テンプル騎士団 (集英社新書)

テンプル騎士団 (集英社新書)

内容紹介
スター・ウォーズ』、フリーメイソンとの関連は! ?
最強・最富・最大組織の全貌を明かす!


12世紀初頭に誕生した「テンプル騎士団」は、もともとエルサレム巡礼に向かう人々の保護のために設立された。しかしその後、彼らは、軍事力、政治力、経済力すべてを持ち合わせた超国家組織に変貌を遂げる――。後世に影響を与えた数々の画期的な制度(管区、支部といった巨大ネットワークを張り巡らせる組織作り、指揮命令系統の明確な自前の常備軍、銀行業の始まりともいわれる財務管理システムなど)を形成した。西洋歴史小説の第一人者が、その成立過程から悲劇的結末までの200年にわたる興亡を鮮やかに描き出す!


 「テンプル騎士団」という名前と、キリスト教世界がイスラム教世界と争った十字軍のなかで活躍した組織であることくらいは、世界史で習った記憶がある人も多いのではないでしょうか。
 僕もそのうちの一人で、直木賞作家の佐藤賢一さんがこの組織をテーマに書いたというのを書店で見かけて興味を持ち、読んでみたのです。
 
 この新書、そのテンプル騎士団が、フランス王フィリップ4世を中心とした謀計で、存亡の危機に立たされるところを冒頭に描いているのです。

 武装の一団が乗りこんできたのは、翌(1307年5月)13日の朝早くだった。10月のパリであれば、まだ暗かったに違いない。はびこる闇に何者とも知れなかったかと思いきや、そういうわけでもない。門番は城門で誰何(すいか)していて、フランス王家の国璽詔書(chancelier)ギョーム・ドゥ・ノガレとその配下だと返事を得たので、あっさり門を開けたのだ。
 フランス王家は敵ではない。前の日には総長が王族の葬儀に参列しており、つまりは身内の扱いだ。それくらいの気分だったのかもしれないが、兵団は「タンプル」のなかに雪崩こむと、まだ寝ていた騎士たちを次から次へと逮捕した。まさに一網打尽で、総長ジャック・ドゥ・モレー、キプロス総司令ランボー・ドゥ・カロン、フランス巡察使ユーグ・ドゥ・パイローら要人を含む、全部で138人のテンプル騎士が、一挙に捕縛されてしまった。
 十三日の金曜日には不吉なことが起きてる。キリストが処刑された日であれば、それまでも吉日とされてきたわけではないが、さらに進んで不吉なことが起きるといわれるようになったのは、この逮捕劇が始まりとされている。だから、解せない。まだ悪い予感を覚える習慣はない。怖気(おぞけ)に襲われ、あきらめる理由もない。


 これが「十三日の金曜日」のルーツだったのか……
 著者は、武名の高いテンプル騎士たちが、全くの無抵抗でフランス王家の手の者に捕らえられてしまったことに疑念を呈し、幹部たちは、このような事態を想定していた可能性もあると述べています。
 それは、覚悟、だったのか、すぐに容疑は晴れる、と楽観していたのか。


 この逮捕劇の直接のきっかけとなったのは、元テンプル騎士団の一員だった(と自称する)男の「告発」だったのです。

「騎士団に入団するとき、とりわけ誓願式において、騎士たちはキリストの像を手渡される。この話を口にしなければならないのは、不幸であり、悲しき怒りをもってようやくするのだが、騎士たちはキリストを三度否定し、恐るべき残忍さで、その御顔に唾を吐きかける。続いて俗世で身につけていた衣服を脱ぎ、巡察使もしくは誓願を認可するその代理の前で裸になると、人間の尊厳に恥辱を与える行いながら、騎士団の瀆神(とくしん)の定めにしたがい、その者から三度の接吻を受ける。最初に背中の脊椎、次に臍、最後に口である。忌まわしき試み、厭うべき振る舞いで神の法を犯してしまえば、あとの連中は誓願の文言として述べた通り、人間たる矩(のり)を超えることも恐れず、互いに身体を与え合い、恐るべくも忌むべき背徳が欲するかぎり、決して拒むことをしない」
 と、後日の逮捕命令に綴られているから、これに近い内容だったろう。

 
 いくらなんでもひどすぎるというか、荒唐無稽な感じがするのですが、これを信じたい、あるいは、信じたことにしてテンプル騎士団を滅ぼしたい、と考えた人たちがいて、拷問による「自白」が得られれば、これが「事実」となってしまう時代だったのです。
 内容があまりにもバカバカしく思えるからこそ、テンプル騎士団のほうにも油断があったのかもしれません。
 しかしながら、十字軍の遠征において、実戦経験と東方世界についての知識によってローマ教皇庁や諸国の君主から頼りにされていたはずの「武力を持つ宗教的な勢力」であったはずのテンプル騎士団が、なぜこんなふうに陥れられるほど、憎まれるようになってしまったのか?
 著者は、テンプル騎士団の歴史を概説するとともに、彼らがこんな目にあってしまった理由を解き明かしていきます。


 著者は、『スター・ウォーズ』の「ジェダイ」という組織は、テンプル騎士団を下敷きにしているのではないか、と考えているそうです。
 

 言葉からよく似ている。ジェダイ評議会の長は「グランドマスター」だが、テンプル騎士団の総長も英語では「グランドマスター」と言う。十二人いる評議会のメンバーが「マスター」と呼ばれるからだが、同じような諮問機関がテンプル騎士団にもあった。「マスター」もいて、これはテンプル騎士団では管区長の意になる。ジェダイ評議会が置かれているのが、惑星コルサントの「ジェダイ・テンプル」だったりもする。
 アナキン・スカイウォーカーがフォースの暗黒面に落ちて、ダース・ベイダーになったという件など、異端の罪を告発されたテンプル騎士団を彷彿とさせる。悪意を隠していたフィリップ4世こそ、パルパティーン最高議長ことダース・シディアス、つまりは悪の皇帝のモデルでないかとも……。皇帝という割に修道士めいた黒服で登場するが、フィリップ4世も王でありながら召し物は僧服を好んだと伝えられ……。


 このあと、著者は「いや、暴走は控えよう」と慎重に述べているのですが、全くの偶然、とは考えられませんよね。
 もちろん、いろんな要素が含まれて、「ジェダイ」という概念はつくられているのでしょうけど。

 1096年にはじまった十字軍の遠征後、エルサレムへの巡礼を望むキリスト教徒たちは多かったのですが、その巡礼路は必ずしも安全なものではなく、巡礼者は危険にさらされていたのです。
 そんな状況をみかねた少数の貴族や騎士たちが、巡礼の安全確保のために創設したのが「テンプル騎士団」でした。
 キリスト教世界とイスラム教世界は、聖地エルサレム、あるいはお互いの面子や利権をめぐって争いを続けており、そんななかで、「テンプル騎士団」は、当初の「巡礼者の安全確保」を超えて、武力を持つ組織となり、十字軍の際には現地の事情に詳しいことで重宝されたのです。多くの寄進も受けて経済的な力もあり、当時としては珍しい「常備軍」でもあったのです。
 戦意も旺盛で、この本で紹介されている騎士団の戦いぶりは、「死ぬことを恐れない(というか、神のために殉死することを望んでいる)」ようにさえ見えるんですよね。

 重い貨幣を苦労して東方に運んでも、二束三文の価値に下げられてはたまらない。どうすればよいかといえば、やはり答えはテンプル騎士団だった。東方の支部には東方の現物貨幣があり、妥当な手数料できちんと両替してくれるのだ。いや、テンプル騎士団なら手形一枚で足りる。西方の支部に預けた金額を計算貨幣に直してもらい、それを東方の現物貨幣に戻してもらうだけだ。もちろん手数料の分だけ、いくらかは目減りする。それでも大損はしない。借金も然りであり、東方の必要は東方の貨幣で満たすが、それを西方で返すときは、当然ながら西方の貨幣で返してよいのである。

 なんと便利な輩がいてくれたことか。時代の要請といおうか、十字軍という不便きわまりない営みの必要から、テンプル騎士団は金を預かり、また運び、あるいは払い戻し、さらに送金、貸し金、両替と行うようになっていった。ふと気づけば、まるで銀行だ。


 「テンプル騎士団」は、ヨーロッパ諸国から東方にまで広範なネットワークを持ち、武力もあったことから、のちには銀行としての役割を果たすことになったのです。
 
 しかしながら、こうして、武力も経済力もあり、国王の財布のヒモすら握っているような組織というのは、権力者側からすれば「煙たい存在」になってきます。
 そこで、冒頭に描かれていたような陰謀が生まれたのです。
 ローマ教皇も、フィリップ4世の顔色をうかがい、彼らに積極的に手を差し伸べようとしませんでした。
 当時の勢力を考えると、テンプル騎士団が本気で抵抗していたら、そう簡単に事は収まらなかったのではないかとも思うのですが、結局のところ、あくまでも教会あっての騎士団であり、国王を利用することはあっても、国王に取って代わるような野心を持っていたわけではない、ということなのでしょう。
 ある意味、身の丈に合わない影響力を持ってしまったことが、テンプル騎士団の悲劇を生んだのかもしれません。

 さて、この捕縛されたテンプル騎士団の人々は、そして、騎士団はどうなったのか?

 気になる方は、ぜひ、書店で確かめてみてください。


英仏百年戦争 (集英社新書)

英仏百年戦争 (集英社新書)

王妃の離婚 (集英社文庫)

王妃の離婚 (集英社文庫)

テンプル騎士団 (講談社学術文庫)

テンプル騎士団 (講談社学術文庫)

 

アクセスカウンター