- 作者: 若林正恭
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/08/30
- メディア: 単行本
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- 作者: 若林正恭
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- 発売日: 2018/08/30
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内容紹介
オードリー若林、待望の新エッセイ集!
『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』から3年。
雑誌「ダ・ヴィンチ」での連載に、大幅に書き下ろしエッセイを加えた、「自分探し」完結編!ゴルフに興じるおっさんなどクソだと決めつけていた。
恥ずかしくてスタバで「グランデ」が頼めない。
そんな自意識に振り回されて「生きてて全然楽しめない地獄」にいた若林だが、四十を手前にして変化が訪れる――。ゴルフが楽しくなり、気の合う異性と出会い、あまり悩まなくなる。
だがそれは、モチベーションの低下にもつながっていて……「おじさん」になった若林が、自分と、社会と向き合い、辿り着いた先は。
キューバへの旅行エッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』では第三回斎藤茂太賞を受賞。
「生き辛い」と感じている全ての人に送ります。
このエッセイ集を読んでいて、「大人になる」とか「成熟する」っていうのは、こういうことなんだろうな、という納得感と、若林さんも「そっち側」に巣立っていってしまったのだな、という寂寥感が交互にこみあげてきたのです。
若林さんの前作を読んで、「ああ、僕みたいにこじらせてしまった人が、そのこじらせっぷりや生きづらさを、こんなにわかりやすい言葉にしてくれている!」と、けっこう感動したんですよ。
しかしながら、この『ナナメの夕暮れ』では、こういうヒリヒリした部分があまり感じられなくなっているのです。
それは、いち読者としては「物足りない」ところではあるのだけれど、自分の経験と照らし合わせてみると、「ああ、若林さんも年齢とともに適応して、いろんなことがラクになってきたのかもしれないな」とも思うのです。
このエッセイは、2015年8月から2018年4月まで雑誌「ダ・ヴィンチ」に連載されたものと、この書籍用に加筆されたもので攻勢されています。
2018年7月の今、過去のエッセイを読み返してみると「何をごちゃごちゃ言ってんだよ」と我ながら呆れてしまうものもありました。
ぼくはずっと毎日を楽しんで生きている人に憧れてきた。
ずっと、周りの目を気にしないで自分を貫ける人に憧れてきた。
それは、一番身近な相方であったり、テレビで共演する明るくて前向きで失敗を引きずらず、頭が良くて劣等感を感じさせない人だったりした。
なんとか死ぬまでに、そういう人間になりたいと願ってきた。
だけど、結論から言うとそういう人間になることを諦めた。
諦めたし、飽きた。
それが不思議なことに、「自分探し」の答えと「日々を楽しむ」ってことをたぐり寄せた。
この本には、その軌跡が描かれています。
若林さんは、「諦めた」だけではなくて、「飽きた」という言葉も使っているんですよね。
そういう変化って、決意しなくても、来るべきときには、来るものなのでしょう。
そのタイミングには個人差が大きいのだとしても。
ただ、そういう若林さんの変化を前作から追っていくとすごく理解も共感もできるのだけれど、この本だけを読むと「なんだリア充かよ……」みたいな感じがするかもしれません。
6年前、ぼくはこの社会という場所に30歳で引っ越してきて、見るもの全てに驚いていた。打ち上げ、差し入れ、ガールズバー、しがらみ、強気な女、スターバックス、信じられないぐらいの才能、声も出ないほどの美貌、本当にいる選ばれた人間、信頼、その他諸々。無理も無い。それまでは、話し相手と言えばどきどきキャンプの佐藤満春しかいなかった。楽屋では一言も話さず、コンパにも行かず、バイト仲間とのバーベキューにも行かず、相方とのネタ作り以外は散歩をしているか家で本を読んでいた。その行動パターンを繰り返すことは、プライドが高く、その割に打たれ弱い、だが影響され易い、そんな自分の防衛策だったのだろう。
もしかしたら、そんな僕の世慣れていない部分はテレビに出始めた当初は初々しく映ったのかもしれない。しかし、ぼくは社会に6年住んで今や立派な住人となった。ラジオで「人見知りが治った」と言ったら、ファンレターに「人見知りの若林さんを信じてたのに残念です」と書いてあった。もちろん完治したわけではないが、人見知りのままでいようと努力する人間などいない。もし、言い訳として必要だという人は一生人見知りを大事に抱えていればいい。
以前読んだ本に、鬱の治療をしていた女性アイドルに、ファンが「精神的に不安定だったときのほうが魅力的だった」という言葉を投げかけていたことが書いてありました。
人の「ネガティブな魅力」みたいなものは確かにあるし、それにひきつけられる人もいるのだけれど、本人にとっては、「苦しいし、克服できるものならしたい」のですよね。
この本を読んでいると、「若林さん、あなたは僕ですか?」と言いたくなるところがたくさんあるのです。
なぜ一人で出掛けることが多いのか考えてみた。まず、周りの友達がほとんど結婚して子どもがいるので誘いづらい。そして、休みが平日に多いので大概の人が空いてない。あと、自分の行きたい所に行きたくて、他人の行きたい所に付き合うということに耐えられない。そして、自分の行きたい場所に他人を付き合わせることには後ろめたさがある。
このあいだ京都へ一人旅に行って龍安寺の石庭を見ている時に、もう一つの理由に気づいた。石庭を見ながら考えていた。
「これ本当に、虎の子渡しとか宇宙とかそんなテーマがあるのかな?」
「やっぱりあるんじゃない?」
「うーん、これ意外と無いんじゃないかな?」
「無い?」
「無いというか『何かありそうに見せている』ことに凄さがあるんじゃないかな?」
「ああ、余白が想像力をかき立てるってこと?」
「そうそう! 例の『答えはそれぞれ見た人の中にある』っていうやつ」
「う〜ん、でも何か意味があるような気がするけどな」
「そう?」
「だって、そうじゃなきゃこんなに何百年も人を惹き付けられないんじゃない?」
こんな会話を頭の中でずっとしていた。
一人で居てもずっと寂しくないのは、自分と話しているからなのだ。
思えば子どもの頃からそうだった。駐車場で蟻の行列を見ながらかなりのテンポの早さで自分と会話していた。高校生の頃はといえば、授業中にぼーっと外を見ながら自分と話していた。大人になってからも飲み会でずっと自分と話していて、先輩に「何一人で黙りこくってんだ。つまらないなら帰れ!」と怒られていた。
ほーっとしている人は何も考えていないんじゃない、猛烈に自分と会話しているのだ。「私の話聞いてる?」と付き合っている女の子によく言われていた。それが積み重なって振られることが多かった。話している時は、彼女と話しているようで自分と話していたのだろう。それは「自分のことしか考えていない器の小さい男」となるのだろう。反論は、ない。
ああ、僕も「自分と話している人」だったのだ、と、これを読んでようやく理解できたのです。
少なくとも子どもの頃の僕には、自分自身以上に話していて楽しい話し相手が、ほとんどいなかった。
外部からみると「黙りこくってつまらなそうにしている」のかもしれないけれど。
こういうことを言葉にしてくれてありがとう、と若林さんに伝えたい。
ここのところ、映画も見られないし小説も読めないし他の芸人さんのネタも見られない。
インプットしなきゃと自分に言い聞かせて見始めても、途端に気が重たくなってテレビを消してしまうのだ。
今年の頭にプレステ4を買ってぼくは急激にゲームにハマった。
最初、こんなにも面白いゲームがあるのか! と驚いていた。
没頭していると、あっという間に時間が経ち、寝る時間になる。
悶々とする時間が、ゲームへの没頭で埋まるので気持ち的にはずいぶん楽になった。
悶々は首の後ろの方に日々蓄積されて重くなっていくけど、毎晩ゲームをするようになってからそれは軽減された。
アルコール依存症の人が帰宅してすぐ酒の瓶を開けるように、ゲームの電源を入れていた。
ゲームの達成感や、失敗して悔しいという感情は脳の刺激となってその日の仕事のストレスを中和した。
「なんだよ。20代の時からゲームやってりゃよかったな」
そうすれば、何年も毎日毎日夜の公園のベンチでああでもないこうでもないと消耗することもなかったのに。
そう思った時、悩むって体力なんだなということに気づいた。
「おじさんになって体力がなくなると、悩むことができなくなるんだ」
近頃番組でスベっても気にしないのは、どうやらメンタルが強くなったのではなくて体力がなくなったからなのかもしれない。
20代の頃、今の自分ぐらい失敗したことを気にしなければもっと楽しく過ごせていたかもしれないなと悔しくなった。
ネガティブは、あり余る体力だ。
僕も年齢を重ねるにつれて、悩むことは少なくなったような気がします。
20代のころから、こういう心持ちでいられば、もっと生きるのがラクだったし、モテたのではないか、と思うくらいに。
「年齢とともに生まれてくる、病気や家族の問題」というのもあるので、問題そのものが無くなったわけではなく、「問題を抱えている状況が常態になってしまっただけ」なのかもしれませんが。
このエッセイは、こんな文で締められています。
自意識過剰な人間は、歳を重ねると楽になって若返る。
僕もそう感じているのです。
ひたすらめんどくらい、自意識過剰な人生にも、このくらいの「良い面」があっても許されるんじゃないかな。
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