- 作者: 佐藤優
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2018/11/13
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 佐藤 優
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内容(「BOOK」データベースより)
自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務。かつてそう呼ばれ、今も特殊な「独自文化」に生息する官僚たち。難関試験を突破したひとにぎりの超エリートが、政策を作り、政治を動かし、実質、国家を「統治」している。どんなに不祥事を起こそうと変わることのない「全体の奉仕者」の実態とは何か?官僚の裏も表も知り尽くした著者の実体験にもとづく究極の官僚論!
自らも外務省での勤務経験があり、そこで鈴木宗男事件に連座し、512日間の勾留も経験した著者による「官僚論」。
佐藤さんは、さまざまな形で、国家や官僚のありかたについて、国民に警鐘を鳴らし続けているのですが、けっして、官僚や外務省を恨んでいるわけではない、と仰っています。
職業作家になってから、『国家の罠』『インテリジェンス人間論』『外務省に告ぐ』(いずれも新潮文庫)、『交渉術』(文春文庫)、『官僚階級論』(にんげん出版)などで外務官僚について、さまざまなことを書いてきたが、私は官僚は現代社会において不可欠な存在であるし、官僚の能力と士気が、国民と国家に与える影響は極めて大きいと考えている。
外務省と私は、依然として緊張関係にあるが、一部の外務省幹部とは、非公式に接触し、誤解からトラブルが生じないようにする安全保障の仕組みは作っていた。現役を離れた外務事務次官や大使を経験した人たちとは、親しい付き合いを続けている。東京地検特捜部が扱った刑事事件に連座して役所を去った人で、出身官庁とこのような関係を継続している事例は少ないと思う。
高校時代の友人で、外務省以外で勤務する官僚とは今も親しく付き合っている。各省の幹部になるような官僚には、能力が高く、人格も円満で、国民と国家のために全力を尽くして働いている人が多い。この人たちは、行政官としてどのようにすれば、激しく変動する国際社会の中で日本が生き残っていくことができるかについて真剣に悩み、考えている。
それだから、霞が関(官界)や永田町(政界)の内在的論理に通じているとともに、現在は作家として官僚とは異なる角度から社会を見ている私と意見交換をして、それを国家政策に生かそうとしているのだ。
僕にも官僚になった高校時代の同級生がいるのですが、僕の知り合いは、穏やかで勤勉でモラルも高い、立派な人ばかりなんですよ。
マスメディアでは、どうしても、「おかしな官僚」「個性が強すぎる官僚」ばかりがクローズアップされがちなのですが、その大部分は、僕の知り合いのような「良心的な官僚」なのではないかと思うのです。
ただ、「競争が少ない世界」「個性を発揮することを求められない環境」であり、一般常識よりも、官僚の世界での「狭い常識」が優先されるのも事実なようです。
官僚社会では、身分保障がしっかりしています、ぬるま湯で、コップの中の嵐はしょっちゅうあるけれど、総じて守られている世界です。あのソ連が1991年に崩壊するまで持ちこたえられたのもまさに官僚制によって支えられていたからです。どういうことかというと、ソ連の官僚はモラルが高くて、あの共産主義体制を実現することが、人生の目的だと本気で考えている人が多かったのです。それだから、給与はぜんぜん上がらなくても、出世できなくても、「エリートというものは人民や社会のために働かないといけない」と鉄のようなモラルがあり、それが強かったのです。その意味においては、聖書の中の「使徒言行録」20章35節にある「受けるよりは与えるほうが幸いである」というイエスの言葉をまさに地で行く人たちが多かった。言い方を変えれば、共産主義というのは、世俗化された形でのキリスト教だったのです。
遠藤周作が小説『沈黙』で描いてみせたように、江戸時代の鎖国という状況の中でも殉教を恐れずやって来たカトリック教会の宣教師たちと同じだけのモラルがあったと言えます。私がつきあったソ連の官僚も、とくに選び抜かれたエリートたちは、滅私奉公型の人たちが多かったと思います。深夜の1時、2時まで仕事をするのは普通のことだと考えていたし、それでも文句一つ言わずに働いていました。
だからこそ、ソビエトという体制が破綻してボロボロになっても、崩壊する寸前まで、あの国はもっていたのです。「この体制の中で何とかしないといけない」と必死で考えながら、しかし、エリート官僚たちにも「大局」は見えなかったわけです。この体制にはもう発展可能性がない、ということが見えずに、なんとかこの中で生き残ろうという弥縫策(びほうさく)をいろいろ考えていたのです。
官僚の世界に浸かっていると、ものすごく優秀な人たちでも、自分が属している世界のなかでの最良の選択をする、というのが当たり前になってしまっていて、世界そのものを疑う力が失われてしまうようなのです。
かれらは仕事熱心で、「世の中のために」「この秩序を保つために」全力を尽くすのだけれど、その能力は、ときに、時代遅れだったり、多くの人にとって間違いだったりする体制を維持することに発揮されてきました。
佐藤さんは、安倍政権での、官僚と官邸とのパワーバランスの変化の理由として、こう述べておられます。
安倍政権の強引なまでの強さとは、何に由来するのでしょうか。
官僚と政権のあり方を決定的に変えたと言われるのが、内閣人事局の設置です。安倍政権は、2014年、内閣人事局を設置しました。中央官庁で働く約4万人の国家公務員のうち、事務次官や局長など、約600人の人事に首相や官房長官が直接かかわるようになりました。これによって、首相官邸が官僚の人事権を握ったわけです。
<官邸の主である安倍晋三首相や菅官房長官の秘書官経験者など近しい官僚が抜擢されるように見える人事が多くなる。/そして一方で、官邸の意に沿わない高級官僚には人事の面で厳しい処遇が次々となされるようになる>と解説するのは、「ゆとり教育」の旗振り役を務めた寺脇研・元文科省大臣官房審議官です。<ふるさと納税の拡大について反対した総務省の局長がこの制度を推進してきた菅官房長官から昇格取りやめの憂き目に遭った話、農水省で農協改革への積極的取り組みを評価されて官邸から任用された奥原正明事務次官に反対する次期次官候補たちが退任させられた話などがある。外部のわたしにも伝わるこうした件以外にも、おそらく「官邸のご意向」人事がいくつもあるのだろう>(「ジャーナリズム」2018年6月号、寺脇研「甚だしい政治家の劣化 憂う官僚 忖度や萎縮」)
もう一つ、高級官僚ならではの特典としての「天下り」という問題にもそれがかかわってきたといいます。
<内閣人事局が官僚たちに与えるプレッシャーは、より高位のポストに就くためだけでなく、排除されないため、また、あまり知られていないが定年の壁をクリアしたり定年延長を可能にしたりできるかどうかにもかかわってくる。首相や官邸幹部に関係がありそうな案件に配慮する忖度や、失策を恐れる萎縮、さらにはそこに取り入ろうとする「ご機嫌取り」が目に余るようになってしまう>(同前)
もっとも以前から局長以上の人事は官邸の了解を得て行うというのが不文律でしたから、内閣人事局の設置を過大評価してはなりません。
官僚の側としては、人事権を握られてしまっては、どうしようもない。
以前から官邸の「暗黙の了解」はあったそうなのですが、こうして内閣人事局が設置されると、その実力以上に、官僚の側が「忖度」してしまうのかもしれません。実際に「官邸のご意向人事」もあったみたいですし。
国民の支持や野党の不甲斐なさとともに、こうして、官僚も逆らえないようにしてしまったのが、安倍政権の強さの源泉なのでしょう。
また、佐藤さんは、安倍政権での「新しい官僚」についても言及しています。
官僚は「全体の奉仕者」です。採用にあたっては、情実を排し公正さを保つため、競争試験を導入した成績主義を原則としています。しかし各省庁に採用されて、官僚に入ったとたん、官邸官僚は他省庁の官僚の上に立つ特別な存在になってしまいます。しかもそこには「人を大事にする」安倍総理がリーダーでいて、しっかり働けば、官邸からも本省からも評価される、居心地のいい場所でもあるようです。ここでようやく、この章で私が伝えたかったことのまとめができます。すなわち、私はここに「第二官僚」の誕生をみているのです。
法の下の平等という原則のもとで働く官僚とは異なる働き方をする官僚たちです。原型は小泉政権で政治任用された竹中平蔵氏に求められると思います。その場合と同じように、安倍総理に近い現役官僚に加え、総理にさまざまな肩書で起用された、官僚OBや学者、財界人も「第二官僚」だといえます。つまり民間人による「新官僚」です。そこでは、専門性も実務能力も高い官僚によって成り立つ既存の府省の頭越しに、政策が作られているように見えます。第二次安倍政権から5年9ヵ月、「第二官僚」は、誰かが設計図を引いたわけでもないのに、それで完結した一つの「制度」になりつつあるようです。
安倍政権が長期になるにつれ、「安倍首相に忠誠を誓う官僚」が増え、その権力はさらに強化されているようにみえます。
これまで、あまりにも短命な政権が続いて、政策の一貫性が失われていることを危惧していたのだけれど、やはり、長期になると権力はどうしても腐敗しやすい。
安倍さんが、どこまで計算して、これをやってきたのかはわからないのですが、長期政権によって、官僚のかたちまで変わってきた、ということなのですね。
「官僚」というのが何を考えて仕事をしているのか、そして、いまの日本の官僚制度のメリット・デメリットは何なのか、それがわかりやすく、著者自身の体験もまじえて書かれている新書です。
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