0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方 (講談社現代新書)
- 作者: 本橋麻里
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/01/17
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方 (講談社現代新書)
- 作者: 本橋麻里
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/01/17
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内容(「BOOK」データベースより)
カーリング女子五輪メダリストが初めて明かす、コミュニケーション術、組織マネジメント術、リーダー論…。
僕は長年、九州の地方都市に住んできて、満員電車や大行列に出くわすことがほとんどなく、車で自由に移動できる便利さを享受してきたのです。
その一方で、日本の中心は「東京」なんだよなあ、と思うことも少なからずありました。
ネットの発達で、「東京じゃなければ手に入れられないもの」は、ほとんどなくなったような気がするけれど、実際は、地方在住者が「旅行」しなければならないイベントや舞台、展覧会が、東京では毎日のように行われていて、多くの人が仕事帰りに、電車1本でそこにアプローチしているのです。
東京で生活するのも、地方住まいにも、それぞれメリット、デメリットがあって、たぶん、僕には地方在住が合っている。けれど、ときどき、「やっぱり、東京=日本なんだよなあ」と、ほんのり悔しくなることがあるんですよね。
1年くらい実際に東京で生活したことがあれば、こんなことは思わないのだろうか。
この本、2018年の平昌オリンピックの女子カーリングで銅メダルに輝いた、ロコ・ソラーレの本橋麻里さんによって書かれたものです。
最初にオリンピックに出場したときには「マリリン」の愛称でアイドル的な人気があった本橋さんは、地元の北海道・常呂町にロコ・ソラーレというチームを立ち上げ、試行錯誤を続けていきました。
平昌オリンピックでの本橋さんをみて、僕は「ああ、大人になったなあ」と思ったんですよね。それは結婚・出産を経てきた、ということもあるだろうし、カーリングのチームを0からつくりあげて、オリンピックにまでたどり着いた、という経験が、彼女をそう見せていたのかもしれません。
この本を読んで、僕は、競技者としてだけではなく、ひとりの人間として、本橋さんが大きくなっていったプロセスがわかったような気がしました。
チーム青森はトリノ五輪を経て飛躍的に知名度が上がりました。CMにも出演させていただきましたし、「カー娘。」の呼称で定着しつつ、メディア露出は多かったです。
カーリングを多くの人に知ってもらえるのは本当に嬉しかった。結果には選手は誰も満足していなかったけれど、カーリングという競技に興味を持つきっかけとしては機能していたのかな、とは思います。
でも、その一方で、私たちのプライベートな空間がとても狭くなってしまった。有名税、ないものねだり、と言われればその通りなにかもしれないですけど、20歳になったばかりの小娘には初めての経験でしたから。
たとえば、知らない電話番号から着信があって、
「何々のゼミで一緒だった、××だけど……」
とまくし立てられたので、正直に「ごめんなさい。ちょっと記憶にありません」と言うと、「偉そうにして!」と電話を切られる。そんなこともあれば、通う学校にテレビの取材が来て、まるで面識のない人が私についてコメントしていることもよくありました。
向こうだけが私を知っているという一方通行は、ものすごく怖いことだと身をもって体験したんです。通りを歩いていても、練習の買えりにコンビニに立ち寄っても、向こうに悪意はないんでしょうけれど、「マリリン、どこどこのコンビニにいたらしいね」と囁かれる。
今考えると、そんな大したことではないんですけど、一つ一つの出来事に対して、自分の中で大きくリアクションしすぎていた気がします。自分に対しても、「ああ、私はこんなにも環境に適応できない人間なんだ。無力だな」という失望にも似た感情があったのかもしれません。
こういうことが実際にあったら、そりゃイヤになりますよね。
莫大な収入が伴うプロスポーツ選手であれば、有名税として受け入れなければならないとしても、カーリングという競技では、大きな見返りもないのに。
カーリングという競技は、4年に一度、オリンピックのときだけ盛り上がって、あとはほとんど話題になることもない。
それでも、「チーム青森」以前に比べると、マシになってはいるのだけれど。
本橋さんは、そんな「4年に一度しか思い出してくれない、オリンピックの結果だけを求められる」カーリングの現状について、ずっといろんなことを考えてきたのです。
「チーム青森」の一員として、2006年にトリノ、2010年にバンクーバーと、2つのオリンピックに出場した本橋さんは、この2つオリンピックを連破したスウェーデン代表チームに大きな影響を受けたそうです。
同じチームで連覇する、ということそのものがすごいのですが、彼女たちは、トリノで既婚者が1人だったのが、バンクーバーでは、5人全員が出産を経て母親になっていました。
私たちも、特に五輪シーズンは一年を通しての調整力を「ピーキング」という言葉で表現し、シーズンを通してウェーブを意図して生む作業をよくします。
でも彼女らの調整力はそのような、シーズンごと4年単位の次元ではなく、女性としての人生を通してのものでした。正直、トリノ五輪からの4年間の練習量・時間で言えば、私たちのほうが圧倒的に多いはずです。だからこそ衝撃的でした。
金メダル獲得後のインタビューでノルベリさんが言った、
「私たちは辛い時間を乗り越える力があった」
というスピーチが忘れられません。そのコメントを受けて、スタンドにいた選手の家族らは大きな拍手を送っていました。私がそれまでカーリングを続けてきて、最も美しく感じた瞬間の一つだったかもしれません。
そのときふと、阿部周司さんの「女性としての人生を大切にしながら、カーリングに真剣に取り組みなさい」という言葉が浮かびました。
ああ、こういうことなのか――。
競技も、恋愛や結婚や出産といった女性としての喜びも、どちらも真剣に追うからこそ、どちらにも良い影響を与えていて、カーリングに左右されない人生が楽しく、豊かなものになっているのだ――そう自分なりに解釈しました。
カーリングが人生なのではなく、人生のなかにカーリングがある。
たしかに選手村での彼女らは、とてもリラックスしているように見えました。もちろんゲームには真剣に挑んで好ショットを決め、試合が終わればスタンドの家族とハグを交わす。五輪の楽しさすら完全にコントロールしているように、私の目には映りました。
そして、「ああ、このチームにはまだ勝てないな」と脱帽したんです。
メンタルの部分は、カーリングだけをやっていれば強くなるものでもなく、人生経験がどうしても必要なんだという確信は今でも私の心に強く残っています。
こういう選手に、こういう女性になりたい。そして、つくるなら理想はスウェーデンのようなチームだ。そう思えた2度目の五輪、スウェーデン代表の連覇でした。
メンタルを強くするには「人生経験」がどうしても必要、か……
たしかに、カーリングのために人生があるわけではなくて、人生をよりよくするために、カーリングがあるのです。
人生で、いろんなことを体験することによって相乗効果も得られるはず。
ただ、今の世の中というのは、「仕事に家庭に趣味に、すべてを充実させている人」というロールモデルが溢れていて、多くの人が、自分の足りないところばかりを突きつけられて苦しんでいるようにも僕には見えるのです。
これはもう、どちらかが正しい、という話ではなくて、人それぞれというか、向き・不向きの違いなのかもしれません。
この本のなかで僕の印象に残ったのは、ロコ・ソラーレのカナダ人コーチ、JD(ジェームス・ダグラス・リンド)さんのこんなエピソードでした。
また、2017~2018シーズンは夕梨花や夕湖のコンディションが万全でない時期も多かったのですが、JDはそれを知ると、「OK、休もう」とあっさり提案してくれたのも興味深かったです。日本の指導者の多くは「大変だけど頑張れ」と言いそうなところだけれど、JDは簡単にストップをかける。どこにピークとゴールを持っていくのかが明確だから、そんな結論を出せるんです。
「カナダではシーズン途中で家族のためにチームを離れることだってあるし、カーリングは人生の中の1パートでしかない。それは普通のことだと思うよ」
そんなことをさらっと言える、優しくて働き者のJDですが、時々、怒ることがあります。
それは、考えずになんとなくプレーした時。それと、選手同士でフォローし合わない時。そういう時は、しっかり怒ってくれる。彼の存在のおかげで、ロコ・ソラーレのコミュニケーションの引き出しは日々、増え続けています。
この「考えずになんとなくプレーした時」「選手同士でフォローし合わないとき」には怒るというのは、「考えながらプレーすること」と「チーム内でフォローし合うこと」を、JDさんが大切にしている、ということなのでしょう。
あらためて考えてみると、チームで何かをやろうとするときに、この2つは、必要不可欠なことなのです。
シンプルだけれど、とても大事なことだと僕も感じました。
本橋さんのバイタリティに圧倒されるのと同時に、まだ、自分にもできることが少なからずあるのではないかと、背筋が伸びた気がします。
自分はリーダーには向いていない、と思っている人にこそ、読んでみていただきたい本です。
- 作者: 北海道新聞社
- 出版社/メーカー: 北海道新聞社
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