琥珀色の戯言

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【読書感想】キャッシュレス覇権戦争 ☆☆☆☆

キャッシュレス覇権戦争 (NHK出版新書 574)

キャッシュレス覇権戦争 (NHK出版新書 574)


Kindle版もあります。

内容紹介
誰が300兆円決済市場を制するか?「信用格差社会」をいかに生き延びるか?

PayPay、LINE Pay、NTTドコモ……。政府の旗振りの下で吹き荒れるキャッシュレスの大嵐。米中巨大資本も虎視眈々と狙う、日本の300兆円消費市場を誰が制するのか? フィンテックの進化がもたらす「信用格差社会」をいかに生き抜けばよいか?──激動の業界と、私たちの暮らしの行方を読み解く。


 20年前くらいまで、「アメリカはカード社会で、現金はほとんど使えないらしい」なんて話を聞いて、「やっぱりアメリカはちがうなー」なんて思っていたのですが、スマートフォンの普及から、「キャッシュレス化」の波が、一気に世界中に押し寄せてきました。

 日本全体で見ればキャッシュレス決済の普及はまだまだ進んでおらず、いまだに現金決済が主流の先進国は日本くらいだと言ったら驚かれるだろうか。
 日本のキャッシュレス決済比率は、2015年の時点で18.4%に留まり、お隣韓国の89.1%、中国の60.0%、そしてアメリカの45.0%とは非常に大きな開きがある。日本は圧倒的にキャッシュレス後進国なのだ。


 その影響を大きく受けたのが、中国や韓国で、これらの国々は、国策として、あるいは、もともと現金の信用が乏しかったという事情もあり、アメリカやヨーロッパを飛び越えるスピードで「キャッシュレス社会」を実現してしまったのです。
 それに対して、日本での「現金信仰」は根強く、「カードでは無駄遣いしてしまう」という意識もあることから、いまだに現金でのお金のやりとりが全体の8割以上を占めているのです。

 「キャッシュレス化」というと、お金を持ち歩かなくて済むので便利、とか、レジで小銭のやりとりをしなくてすむのでスムーズに会計が終わる、というようなメリットが言われることが多いのです。
 ただし、日本が「国策」として、キャッシュレス化を推進しているのは、レジの混雑を緩和するのが目的であるというよりは、外国人観光客がお金を使いやすくするため、あるいは(おそらくこれが一番の理由だと思われます)、キャッシュレス化によって、お金の流れをクリアにして、税金の取りはぐれがないようにしたい、ということなのでしょう。キャッシュレスでの決算は、なんらかの形で記録に残るので、これとマイナンバー制度を組み合わせれは、「誰が何を買って、どのくらいお金を使ったか(あるいは、もらったか)」を可視化しやすくなるのです。

 そう言われると、「便利さ」に乗せられて、自分のプライバシーを売り渡すのはどうか、という気もするのですが、中国では、すでに、各人の「信頼度スコア」が高い人はさまざまな恩恵を受けられる、という社会になってきています。
 隠さなければならないお金のやりとりをしているわけではないし、便利になるなら、それはそれで良いんじゃない?
 それが「善意」で利用されているかぎりは、僕もそう思うのですけどね。

 キャッシュレス化の推進がどうしても進まないとなったら、最終的には国が強い指導力を発揮するしかないのかもしれない。それで思い出すのが韓国の例だ。
 韓国では1997年に起きたアジア通貨危機後の経済立て直しの中で、事業者の会計を透明化するため、つまり脱税を防ぐために、キャッシュレス化を進めてきた。その一環として作られたのが、カード利用に伴う税金控除の制度だ。これは個人のクレジットカード利用額が給与所得の一定割合を超えた場合、年間20%の所得税控除を受けられるようにして、年末調整や申告の際に上限30万円えの還付を受けることができるというもの。
 この政策は利益実感が高いと国民の間で人気になった。月1000円以上カードを利用すれば、その月の宝くじに参加できるという特典もあった。
 さらには年商240万円以上の商店に対しては、クレジットカードの取り扱いを義務づけた。これにより利用客が増えることがわかり、小さな店も進んでクレジットカードを入れたがるようになったという。
 これらの施策の結果として韓国は、先に述べたキャッシュレス決済比率89.1%という世界最高水準のキャッシュレス大国となったのだ。日本もこれくらい思い切った方法を採用すれば、一気にキャッシュレス化が進展するだろう。


 日本でも、2014年に消費税が引き上げられた際に、クレジットカードの利用金額に応じて政府がポイントを付与する消費刺激策が検討されたことがあったそうです(実現には至らず)。
 韓国の場合、国民性、というよりは、ここまで政府が特典を用意して、「キャッシュレス化」を推進していったのです。逆にいえば、日本でも、このくらいやれば、一気に「キャッシュレス化」する可能性も十分ある、ということなのでしょう。
 僕自身は、コンビニでのnanaco決済は便利だなあ、とは思うのですが、やはり、カードだと使いすぎる不安があって、カードはなるべく財布から出さないようにはしているのですが。


 最近の「キャッシュレス覇権戦争」に関する大きな「事件」のひとつとして、『ペイペイ』の「『100億円あげちゃう』キャンペーン」の様子が詳しく紹介されています。
 著者は、墨田区の商店街の「昭和の雰囲気が残っている」パン屋さんで、ペイペイを使ってみたそうです。
 このキャンペーンは、予想をはるかに上回る大盛況で、100億円をわずか10日間で使い切って終了したのですが、著者は「キャッシュレス時代の橋頭保を築いたのは確か」と評価しています。

 また、今回のキャンペーンでは、もっぱら大型家電など高額商品購買行動がクローズアップされた。だからといって、家電量販店などではすでにクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済が導入されているから、そこにペイペイが加わったとしても決済手段が一つ増えたにすぎない。
 私は、真に注力すべきなのは、中小の個人商店開拓だと考えている。まだまだ厚い現金の壁に閉ざされた個人商店。その壁をどう突き崩していくのか。それこそが、今後のキャッシュレス決済普及の課題だ。
 サービス開始にあたってペイペイは、ユーザースキャンを導入する店に対しては、手数料の3年間無料を約束しているという。私が入った「おしなり商店街」のパン屋さんも、「新しい端末を入れる必要はなく、手数料も払わなくていいから店としては楽です」と言っていた。見たところ、旧型のiPhone1台でペイペイを導入することができるようだ。
 また、利用した翌日に入金があるのがとてもうれしいという。これも導入の大きな決め手になる。
 導入コストと手数料の低さに、入金の速さ。こうくれば、小規模の個人商店にこそQRコード決済がよくなじむはずだ。
 ペイペイにとってみればどうであろうか? 小規模商店へ導入したところで、儲けはたかがしれているかもしれないとしても、決済ビスはいつでもどこでも使えるというのが大事だ。
 もちろんこのことはペイペイもわかっているはずだ。キャンペーンの発表会で流された動画は、ペイペイを歓迎する小規模店主の声が多数収められていた。ぜひ目先の収益狙いではなく、長期的な視点に立って小規模商店の加盟店化を進めていくべきだ。


 利用する側からすれば、「ちょっとした買い物」に使えたほうが、やっぱり便利ではありますよね。
 中国では、「物乞いもQRコード掲示している」なんていう話もあり、海外からの観光客にとっても、日本での買い物の幅が広がるのは間違いないでしょう。

 売る側、買う側、政府と、それぞれの思惑が入り乱れつつ進んでいる日本の「キャッシュレス化」なのですが、それでクリアになるのは「お金の流れ」だけではないのです。

 キャッシュレス決済の道具となるスマホには、私たちの日々の活動のほとんどすべてが記録されている。総務省によれば、日常の
中でスマホに蓄積されていく利用者の情報には、主に次のものがあるという。
 通話履歴、位置情報、契約者・端末固有ID、電話帳データ、電子メール、映像・写真情報、ネット閲覧履歴、SNSの利用履歴、アプリ利用情報、ゲーム利用情報、店舗検索情報、商品購入履歴。
 加えてスマホ上でサービスを提供する各事業者が、氏名・住所・生年月日・年齢といった契約者の個人情報を有している。
 また日付がわかれば、その日が晴れていたか、雨が降っていたのかという気象情報も造作なくわかるだろう。
 つまりキャッシュレス社会とは、消費者にも企業の間にも、そして国にとっても便利というだけでは終わらない。
「誰が・いつ・どこで・何を・いくらで・どれだけ買ったか」という情報が、私たちの知らないところで集められ、分析されてしまう社会のことでもあるのだ。
 今は規制によって歯止めがかけられているが、契約者名による名寄せが可能になったら、個人は「丸裸」にされるに等しい。


 なんでもスマートフォン1台で済む時代は、たしかに便利ではあるけれど、スマートフォンから、その人の情報が筒抜けになる、というのもまた事実なのです。
 とはいえ、世の中全体が「キャッシュレス化」していく流れに、個人で逆らっていくのは難しいですよね。
 もう、「悪いことさえしなければ大丈夫」な社会であることを祈るしかないのかもしれません。


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