琥珀色の戯言

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【読書感想】地銀波乱 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

地銀波乱

地銀波乱

内容(「BOOK」データベースより)
2018年に発覚し世間を騒がしたスルガ銀行の不正融資―しかし、それは氷山の一角に過ぎない。全国にある106の地方銀行の多くは連続した赤字に苦しんでいる。暴走するアパートローン、「不良債券」という名の爆弾、人材の枯渇、モラトリアム法の負の遺産…行き詰まる地銀に活路はあるのか?日経記者が総力を挙げて取材する。


 僕の同世代が就職活動をしていた時代、1990年代の前半くらいは、「銀行」というのは、「みんなが行きたがる就職先」だったんですよね。
 地元の「地銀」でも、堅実な選択として、けっこう人気があったのです。
 あれから四半世紀、意気揚々と銀行に入った同級生たちはどうしているのだろうなあ、と思いながら読みました。
 僕も用事で銀行を訪れることがときどきあるのですが、以前に比べて、行内や窓口の混雑はかなり緩和されていて、というか、銀行によっては、あまりに閑散としているので、かえって居心地が悪く感じることさえあるのです。
 そもそも、ATMはコンビニにあるし、公共料金の支払いもコンビニやカード払いがほとんどですし、投資をしようという人だって、手数料が安いネット証券に流れてしまっています。なにか事業をしていたり、住宅ローンで融資を求める人でもないかぎり、銀行を頻繁に訪れることはないのです。あとは、ネットでの決済に慣れていない高齢者層が、これまでの習慣に沿って、通ってくるくらい。
 

「まだ新卒の学生を募集しているらしい」
 この年末年始にかけて就活戦線で話題になったのが地銀の採用難だ。新しい年度が始まる2019年4月を直前に控え、なお採用活動を続けている地銀は少なくない。
 新卒採用を募る就活サイトには2月でもない、福島銀行香川銀行北日本銀行など学生のエントリーを続けている地銀は枚挙にいとまがない。
 ある第二地銀の採用担当者は「将来、経営が成り立たなくなるとみて銀行業にマイナスのイメージを持つ学生が目立つ。かつてに比べて応募人数が半減した」という。内定者の辞退だけでなく、そもそも内定を出しても採用枠を満たせるだけの人材が集まらないというのだ。
 全国銀行協会によると地銀の行員数は2018年3月末時点で17万人あまり。入社から40年後を定年とすれば毎年、行員全体の2~3%を新たに補充する必要が出てくる。
 金融庁幹部は「満足する採用ができている地銀は皆無だ。特に第二地銀で厳しく、人材を選別できるのはせいぜい三大都市圏の一部にとどまる」と懸念している。
 北海道から沖縄まで全国に地銀は106行ある。金融庁のまとめによると、2017年度はおよそ半分の52行で2期以上も連続して本業損益が赤字になった。さらに23行は5期以上にわたり連続して赤字だ。

 ここ数年で銀行員の転職が活発になっている。リクルートキャリア(東京・千代田区)によると地銀を含めた銀行員の転職者数は、2008年9月のリーマン危機直後の09年度と比べて17年度は4.55倍に増えた。全職種の平均(2.64倍)を大幅に上回り、転職者は右肩上がりで増え続けている。
 問題はその中身だ。かつて転職者の5割は同じ金融業界の他社を転々とすることが多かったが、近年は3割にとどまる。
 代わりにコンサルティングや建設・不動産業界などが受け皿として存在感を増す。それだけ銀行業界から人材が流出していることを意味する。
 人材サービス会社のビズリーチ(東京・渋谷区)でも、地銀や信金からの採用に関する問い合わせがこの2年間で5倍に急増した。
 全国銀行協会によると、地銀の行員は2018年3月末時点で約17万4000人と統計で遡れる2001年と比べて17%減った。行員数の減少は人件費の抑制で経営のスリム化につながる一方、過度に不足してしまうと地銀の営業力そのものをそぎかねない問題をはらむ。


 これまでの地銀は、少なくとも日本国債を持っていれば、ある程度は安定した収入を得られていたのです。
 ところが、マイナス金利となり、国債では稼げなくなり、融資も低金利で収入が減り続けています。
 多くの行員を抱えていると人件費がかかり、実店舗があるとその分の経費もかかる。
 そうなると、手数料も高くなり、ネット銀行やネット証券に太刀打ちできなくなります。
 スマートフォン1台で好きなときに取引ができるという利便性でも負けていますし。
 いまの地銀は、以前「サラ金」がやっていたような高金利のカードローンの顧客獲得を前面に押し出し、行員に厳しいノルマを課していることが少なくないのです。

「数字ができないなら、ビルから飛び降りろ」「おまえの家族皆殺しにしてやる」「死ね」
 スルガ銀行の第三者委員会がまとめて報告書には、生々しいパワハラの実例が記されていた。
 営業は苛烈なノルマやパワハラが横行する異常な職場で、上司の暴力や脅迫が常態化。傷害などの犯罪行為にもなりかねない過酷な事例が並んだ。
「死んでも頑張りますと答えたら、それなら死んでみろと叱責された」。こんな証言を行員にさせるような異常な職場になぜなったか。
 営業ノルマを厳しいと感じたことはあるか――。第三者委員がスルガ銀行のすべての行員を対象にしたアンケート調査で「はい」と答えたのは約40%、投資用不動産への融資などの営業を担当した行員に絞ると、回答者は約87%に達した。およそ10人に9人が苛烈なノルマを感じていた計算になり、営業現場の異常さが浮かび上がる。

 2018年に問題となったスルガ銀行は、個人向けの不動産ローンで業績を伸ばしているようにみえていたのですが、内実は、契約数を増やすためのデータの改ざんや上司からのパワハラなど、とんでもない状態でした。
 「クリーンな銀行」に就職したつもりが、仕事をはじめてみたら、『ナニワ金融道』の世界だったら、辞めたり転職したりする人が多くなりますよね。金融業とうのは、昔から、そういう面はあるのだとしても。
 そんな状況下で契約された融資には、「返済が滞るリスクが高い」ものの割合も多いし、そこまでして取った契約も、のちに、他の銀行がより低金利での「借り換え」を顧客にすすめていき、どんどん失われていったのです。
 「銀行は、自分たちにとって儲かる『投資』を優先的に顧客にすすめる」と言われるのですが(僕もそれを実感したことがあります)、おそらく、不本意に感じている行員も大勢いるはずです。
 わかっていて、「顧客の得にならない商品」をすすめているわけですから。
 それでも、「いまを生き延びる」ために、地銀は、そういう営業をせざるをえなくなっているのです。
 もう、実店舗を基盤とする地銀というビジネスモデルそのものが厳しい時代になってきている、というのは、まぎれもない事実だと思うんですよ。 
 とはいえ、地元に密着し、地域の中小企業を支援する銀行が、全部なくなってしまっても良いものなのか。
 それは、地方の「切り捨て」につながるのではないか。
 
 それでも、地銀は必要なのか?
 もしなくなってしまったら、そこで働いている人たちの雇用は、どうなってしまうのか?
 お金を扱う仕事なのに、どんどん行員の質が低下していったら、とんでもないことが起こるのではないか?

 銀行に就職しようという人が減るのもわかるよなあ。
 四半世紀前は、あんなにみんなが憧れた職場だったのに。


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