琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

【読書感想】ファンベース ☆☆☆☆

ファンベース (ちくま新書)

ファンベース (ちくま新書)


Kindle版もあります。

内容(「BOOK」データベースより)
人口急減やウルトラ高齢化、超成熟市場、情報過多などで、新規顧客獲得がどんどん困難になっているこの時代。生活者の消費行動を促すためには「ファンベース」が絶対に必要だ。それは、ファンを大切にし、ファンをベースにして中長期的に売上や価値を上げていく考え方であり、その重要性と効果的な運用の方法を、豊富なデータや事例を挙げて具体的に紹介する。『明日のプランニング』に続く、さとなおの最新マーケティングの必読書。


 こうしてブログを書き続けていると「どうしたら、新しい読者を増やすことができるだろうか?」と考えることがあるのです。
 頭打ちどころか、どんどん読んでもらえなくなっていくし。
 いやしかし、読者が減っているというのは、少なくとも「新規読者<読むのをやめた人」ということですよね。

 商売とか仕事の契約においては「新規顧客を増やす」のが最優先にされることが多いのですが、あらためて考えてみると、「新規顧客をひとり増やす」ことができても、「今までの顧客がひとり離れてしまう」ことになれば、差し引きゼロになります。
 にもかかわらず、「新規顧客を増やす努力」に比べて、「これまで顧客であった人に、ずっと顧客でいてもらうための配慮」は、けっこう手薄な印象があるんですよ。
 費用対効果を考えれば、後者のほうが、よほど効率が良いかもしれないのに。

 「減らさない」ことには「増やす」のと同じ効果があるのに、「増やす」ことに目が向きやすいのは、お金も同じですよね。

 いま「ですよね」って書きましたけど、僕自身もこのブログで「新しい人にアピールする方法」を考えることはあっても、「既存の読んでくれている人を引き留めること」を意識したことはほとんどありませんでした。

 ブログという媒体がブームになった2000年代の前半くらいであれば、ブログに興味を持つ人の全体数が右肩上がりでしたから、結果的に、どんどん読んでくれる人は増えていきました。相手が「何か面白い『ブログ』というものはないか」と積極的に探してくれる時代でもあったのです。

 ところが、今はツイッターやインスタグラムのようなSNSがネットでの情報流通の主役となっており、ブログは斜陽といっていい状態です。参加している人数や興味を持ってくれる人の全体数が減れば、新規顧客の獲得は難しくなります。

 この「ブログ」に起こっていることは、いま、人口減少や高齢化、趣味や価値観の多様化がすすんでいる、日本社会全体にもあてはまるのだと思います。


 著者は「ファンベース」という考え方について、最初にこう述べています。

 企業やブランド、商品が大切にしている価値にグッとくる人、その価値にワクワクし喜ぶ人、その価値を支持し友人に薦める人。それが「ファン」である。
 もちろん「なんとなくしっくり来る」とか「なんか自分に合ってる」みたいな無意識かつ感覚的な支持でもいい。それらはすべて「大切にしている価値」に共鳴して発生した感覚だからである。
 ファンベースでは、そういう「支持者」を大切にしていく。
「いや、そういう支持者=ファンが大切なのはわかっている。というか当たり前だ」と思う方も多いだろう。昔から顧客第一主義とかよく言われてきたことだ。
 ただ、そうは言いつつ、心の中でこんな疑問を持つ人も多いのではないだろうか。

「でも、ファンって、黙っていても買ってくれる人たちだよね。それよりも『今買ってくれてない新規顧客』に売らないと、売上増えないんじゃないの? 貴重な予算を使ってまで、そういう人たちにアプローチするのは抵抗がある」

「ファンって言われても、そんな人いるかどうかもわからないし、いてもパイが小さいでしょう? そんな少数を大切にしたって対前年比に影響出ないのでは? 業績反映までに時間がかかりすぎる気がする」

「え? そもそもファンってお客様センターとかの専門部門の仕事じゃないの? マーケティングの仕事は新規顧客を増やすことでしょう?」

 これらの疑問はよくわかる。
 ボクも広告コミュニケーション業界で30年以上やってきて、新規顧客を狙ったプランニングを数多くやってきたし、大きなパイを意識することも長かった。ファンの存在もずっと目に入っていなかったし、それはどこか別の部署が担当することだと思っていた。マス広告全盛時代はもちろん、ネット時代に入ってもそういうアプローチで良かったし、実際、売上アップや業績反映にも貢献できたと思う。
 でも、明らかに状況が変わった。
 時代的にも社会的にも、新規顧客を狙うアプローチだけでは売上を増やすのは難しくなってきており、その解決法としてファンベースという考え方が必要で、今や早急に実施すべきフェーズにあるのである。


 著者は、ある企業の売上げに関するデータを示しています。

 これはある飲料メーカーにお借りした生データである(数字などを多少加工して載せさせていただく)。誰でも知っている「有名飲料ブランド」だ。グラフの左側が人数比。「ファン度」別に示している。一番上がコアファンに当たる。
 この本におけるコアファンとは、「はじめに」で説明した「ファン」の上位概念で、「企業やブランド、商品が大切にしている価値を強く支持する人」だ。いわゆるロイヤルティ(忠誠)が高い人々である。ロイヤルユーザーとかロイヤルカスタマー、エバンジェリスト(伝道者)などと呼ばれる層でもあるが、忠誠とか伝道とか、ちょっと企業からの上から目線っぽいので、この本ではシンプルに「コアファン」と呼ぶことにする。
 で、図からわかるように、この飲料ブランドは、たった8%のコアファンが、46%の消費量(≒売上)を支えているのである。また、コアファンの下の「ファン」も加えると、なんと、売上の約90%を支えているのだ。
 そう、企業はとにかく新規顧客の認知を得てなんとか一回買ってもらおうとライバル他社としのぎを削るわけだが、すでにファンになっている人たちが、実は売上の大半を支えているのである。ファンは売上を支える大黒柱なのだ。ファンを大切にして「ファンであり続けてもらうこと」が、収益の安定に直結するのである。

パレートの法則」とか「20:80の法則」、「ニハチの法則」と呼ばれている法則をご存じだろうか。
 自然現象や社会現象など様々な事例に当てはめて語られる法則であるが、ビジネス的には「全顧客の上位20%が売上の80%を生み出している」みたいに使われる。

「新規顧客の開拓」のほうに目を向けがちだけれど、実際の売上の大部分は「長年のファン」によるものなのです。
 「釣った魚に、エサはあげない」方式では、これからの「縮小している日本」では、ジリ貧になっていくしかない。
 そういう意味では、既存のファン向けに(新型コロナ蔓延前には)握手会や劇場でのイベントなどを継続していたAKBグループのやりかたは、いまの時代に合っていた、ということなのでしょう。
 
 もちろん、新規顧客の開拓を全くやらない、というわけにはいかないでしょうけど、その優先順位は下がってきているし、新規顧客へのアピールの方法も、テレビCMや大規模なイベントよりも、コアファンによるSNSなどでの「口コミ」を重視する必要があるのです。
 ただし、東京と地方では異なる部分もあって、地方ではまだテレビCMにもそれなりの効果がある、ということのようです。

 例えば、新聞の売り込みでは、新規に購読すればビールや洗剤などのオマケをくれるのに、何十年も購読しているファンは何ももらえないみたいなことが慣習的に行われ、あまり疑問を持たれていない。そういう発想からいち早く抜け出さないとファンの気持ちは掴めない。「新規顧客ではなくファンを優先すること」を意識的に習慣化する必要があるだろう。
 また、いわゆる「囲い込んで刈り取ろう」みたいな失礼なマーケティング的発想も変えたほうがいい。「ファン・コミュニティを作ってファンを囲い込みましょう」みたいな発想だ。それは新規顧客を獲得するための方法論だ。ちょっと考えればわかるが、商品を愛してくれる20%のファンを「囲い込み」する必要はないし、発信力あるファンほど「囲い込み」を嫌う。
 常連さんの例をとればわかりやすい。
 あなたの店の価値をわかって支持してくれている常連さんを、他の店に行かないように囲い込もうとしたら、今までの共感や愛着や信頼を裏切るだろう。そのうえ「こいつから稼いでやろう」と刈り取ったら、もう二度と来てくれない。それどころか、今までの支持を裏切られた悔しさから、悪口を常連仲間や周囲に語りまくるであろう。
 顔がわからない新規顧客を相手にするのとは違って、ファンを相手にすることは、顔が見える者同士の「人間のつきあい」なのである。そこをよくよく意識しないと、すぐ見透かされるし、ファンを喜ばすことはできないだろう。

 ちなみに『グランズウェル』(シャーリーン・リー/ジョシュ・バーノフ著・翔泳社)という、ボクが教科書的に何度も読んでいる本があるのだが、その第七章204ページにさらりととても大切なことが書いてある。
 「レゴのような特殊なケースを除けば、商品を軸にコミュニティが生まれることはない」
 レゴやアップルなやクルマのミニのようなマニアックな人気を博しているような特別な例を除くと、商品そのものを中心にファン・コミュニティはできない、ということである。
 何度も書いているが、ファンとは商品そのものではなく、商品が「大切にしている価値」を支持している人である。ということは「価値」にファンがつく、ということだ。その価値を軸にファン・コミュニティを作るべきだし、そのほうが活気づくだろう。


 ファンは、というか、ファンだからこそ甘くない、というのも事実なのです。
 ファンを囲い込んで言いなりにさせようとしたり、ただの「集金対象」として扱ったりすれば、彼らはそれをすぐに悟ってしまう。
 そして、二度と戻ってはこない。

 逆に、ファンを丁重に扱い、ファンであることに自信が持てるようにしていけば、頼まなくても、周囲の人に宣伝までしてくれるのです。

 まあでも、実際のところ、ネットではオンラインサロンとかで、ファンからお金を集めたり、自分の価値観に染めたりする人が多いですよね。
 そういうのは、たぶん、長続きしないんじゃないかな。
 ファンは、そんなにバカじゃないから。


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