琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】その本は ☆☆☆☆

本の好きな王様がいました。王様はもう年寄りで、目がほとんど見えません。王様は二人の男を城に呼び、言いました。 「わしは本が好きだ。今までたくさんの本を読んだ。たいていの本は読んだつもりだ。しかし、目が悪くなり、もう本を読むことができない。でもわしは、本が好きだ。だから、本の話を聞きたいのだ。 お前たち、世界中をまわって『めずらしい本』について知っている者を探し出し、その者から、その本についての話を聞いてきてくれ。 そしてその本の話をわしに教えてほしいのだ」 旅に出たふたりの男は、たくさんの本の話を持ち帰り、王様のために夜ごと語り出した―。 お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹と、大人気の絵本作家ヨシタケシンスケによる、抱腹絶倒・感涙必至の本の旅!


 芸人・芥川賞作家の又吉直樹さんと、絵本作家・ヨシタケシンスケさん。
 お二人が「本」「物語」を題材にして、笑いあり涙ありのさまざまなネタを披露しあう真剣勝負、そんな本でした。
 この本がベストセラーになっていると聞いて、書店でページをめくってみたのですが、ヨシタケさんの絵と全体的にあまり密度が濃くない文章量をみて、子供向けに読書を薦める絵本みたいなものなのかな、と思ったんですよ。
 実際、1時間くらいで読み終わりましたし。
 でも、内容は、けっして薄っぺらいものではなかったのです。

 子どもから大人までが楽しめる、というか、又吉さんとヨシタケさんの芸達者ぶりと本や物語への愛情が伝わってきて、本が好きな人は、もっと好きになり、本が苦手だった人も(たぶん)「他の本も読んでみようかな」という気持ちになる一冊だと思います。

 又吉さんとヨシタケさんのパートが切り替わることで、読むほうの気分も替わって、飽きさせません。

 ものすごく読みやすくて、これまでけっこう本を読んできた僕には既視感がある記述もみられるのですが、本とか創作というのは基本的にそういう存在であって、「巨人の肩に乗る(先人が積み重ねてきた業績を基盤として成り立っている)」ものなのです。

 その本は、花畑に置くとかわいらしく見える。コンクリートのうえに置くと孤独に見える。ジャングルに置くと野生の生き物みたいに見える。
 嫌な人が持つとおもしろくなさそう。笑顔の人が持つとなんだかおもしろそう。
 でもその本を本棚に置くと特には目立たない。
 すべて内容はおなじなのに。

 
 僕も長年、本を読んできて、本との出会いって、読み手の側のコンディションやタイミングが大きく影響するのだと感じています。
 学生時代の頃は、不倫をする話や国家のためにと冷酷な決断をする政治家の話は「それは人間として正しいことではない」と受け入れられなかったけれど、今は(自分が同じことをするかは別として)、人間というのは、そういう選択をする、せざるをえない生き物なのだな、と登場人物に共感するようになりました。
 以前は恋愛小説とか、ライトノベルの主人公がモテまくる作品なんて、「世の中そんなに甘くない」と毛嫌いしていたのですが、今は「ま、自分には縁がない話だけれど、こういう物語でフワフワした気分を束の間味わってみるのも悪くないか」と思っています。自分の人生には起こらなかった幸福や不幸、波乱万丈を、本や物語からインストールしている感じです。

 前述の引用部などを読んでいると、本というのは、ものすごく「人間的」なものなんですよね。
 同じ人でも、地位や肩書きを知るとイメージが変わったり、出会うタイミングによって良い関係を築けたり、存在すら意識せずにすれ違ったりする。
 だから、こんなに人間に愛され続けているのかもしれません。

 
 この本を読んでいて、先日亡くなられた藤子不二雄A先生が、長年の盟友であった藤子・F・不二雄先生について語っていた言葉を思い出しました。

fujipon.hatenablog.com

漫画は頭で考える部分と、自分の実体験をふくらませる部分とがあります。もちろん、最初から最後まで空想で描く場合もありますが、ある程度現実が基になっていると、読者もリアルに感じて納得してくれるわけです。


「途中下車」の主人公のおじさんなんて、僕が現実に見た顔を絵にして描いたから、何ともいえないリアルな感じが出てると思うんですよ。読者も、ああ、本当にこういうことがあるかも知れないと。漫画に気持ちが入るというか。


 藤本氏はおそらく、全部、彼の想像力で考えていた。これは天才にしかできないことなんです。僕も最初はそうでしたが、だんだんと体験の部分が大きくなっていきました。最初はまったく同じスタートで出発した二人でしたが、次第に路線が分かれていった。トシをとるにつれ、経験をつむにつれ、二人の個性がはっきりしてきて別々の”まんが道”を進むようになっていったのです。


 本や物語というのは、本当とウソ、経験と想像が入り混じっていているから面白い。
 実際に経験したことだけを書いていたらリアリティがあるか、というと、そうとも限らない。
 フィクションが、人を救うこともあれば、とんでもない勘違いをさせることもある。

 「プチ『千夜一夜物語』」みたいな本なのですが、又吉さんとヨシタケさんの「芸」の幅広さと「本や物語への愛情」が「面白く読ませること」に妥協せずに発揮されていて(中には「笑えない、泣かせる話」もあるのですが)、本棚に置いておきたくなる一冊です。それを自分の子どもが、話題の本だからと何気なく手にとってくれることを願いつつ。


アクセスカウンター