琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

2022年に読んでよかった5冊の本


 恒例の「今年、このブログで紹介した本のベスト10」です。
 ……と言いたいところではあるのですが、去年は、更新頻度の低下もあり、「ベスト5」に減らし、今年はもう順番をつける必要もないかな、と思えてきたので、「2022年に印象に残った5冊の本」にしました。


(1)オリックスはなぜ優勝できたのか 苦闘と変革の25年

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 2022年のプロ野球開幕前に出ていた本で、2022年もオリックスは劇的なリーグ優勝を成し遂げ、昨年敗れたヤクルトスワローズとの日本シリーズで雪辱を果たしました。
 僕のイメージでは、他球団で活躍していたものの、旬を過ぎた選手を高額で獲得して損ばかりしているチームだったオリックスが、なぜ、こんなに強くなったのか。
 
 2023年から阪神タイガースの監督に復帰した岡田さんのオリックス監督時代のエピソードは興味深いものでした。

 岡田の「回想」は、こちらが疑問を挟む余地がないほどにクリアで、痛烈で、そして何よりも、驚きの要素がたっぷりと含まれた裏話ばかりだった。
「忘れもせんで」
 2010年(平成22年)の就任1年目。
 岡田オリックスは、7勝1敗と開幕ダッシュに成功した。
 本拠地・京セラドームに戻ってきての千葉ロッテ戦。ロッテも6勝2敗と好調なスタートを切っていた。
 4月2日からの首位攻防3連戦。その試合前のバッテリーミーティングでの出来事だった。
 部屋の最後尾にいた岡田は、スコアラーが行う報告に、思わず耳を疑った。

 ロッテが、よう打ってたんや。めちゃくちゃ調子よかったんや。
 その時、スコアラーが言うたんや。
「ロッテ打線は絶好調です。どこ投げても、今打ちます」って。
 で、ちょっと待って、って。
「どこ投げても」って、今までは、そんなミーティングやってたかも分からんけど、どこ投げても打たれます、って言ったら、これ、バッテリー、どないするんや、って言うたんや。
 やっぱり、そんな感覚でやってたんやな、と思ってな。
 すごい言葉を聞いたからな、俺は。ミーティングでな。これはアカンわ、と。
 緩さ、かな。負け慣れっていうのもあるかも分からんけどな。
 そういうのもあって、これは変えていかなアカンと。そういうのは、な。
 自信持って、ここへ投げて下さいと。
 責任は、自分がミーティングをやってきてるんやから、自分で責任持ちます。
 そういうくらいに、スコアラーももっと言わなアカンよと。
 経てないんよ、勝つための作業いうか、プロセスをな。
 選手も「そしたら、どこへ投げたらええんですか」って質問したらええやん。それも、何もせえへん。聞いてるだけなんよ。
 そんなん、いっぱいあったわ。
 当たり前のことよ。当たり前のことができなかったんやからな、結局。


 岡田監督も、選手、スタッフの意識を変えるための努力はしたのです。
 しかしながら、当時のオリックスは、岡田監督が求めていたレベルにはほど遠く、「このくらいは言わなくてもわかってほしい」という監督の態度は、周囲には「突き放されている、怖い」としか思われなかった。
 岡田監督は「勝負に対する厳しさ」で、チームのなかで浮いてしまったのです。
 今年から指揮を執る阪神タイガースで、岡田監督は「成功」できるのか、チームの雰囲気はどうなるのか、楽しみにしています。



(2)現代思想入門

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 「現代思想ブーム」を巻き起こした新書です。

 ここで言う「現代思想」とは、1960年代から90年代を中心に、主にフランスで展開された「ポスト構造主義」の哲学を指しています。フランスを中心としたものなのですが、日本ではしばしば、それが「現代思想」と呼ばれてきました。
 本書では、その代表者として三人を挙げたいと思います。
 ジャック・デリダジル・ドゥルーズミシェル・フーコーです。
 他にジャック・ラカンやカンタン・メイヤスーなどにも触れることになりますが、この本ではとにかくデリダドゥルーズフーコーという三つ巴をざっくり押さえます。この三人で現代思想のイメージがつかめる! それが本書の方針です。
 では、今なぜ現代思想を学ぶのか。
 どんなメリットがあるのか?
 現代思想を学ぶと、複雑なことを単純化しないで考えられるようになります。単純化できない現実の難しさを、以前より「高い解像度」で捉えられるようになるでしょう。


 これまで「名前は知っていたけれど、難しそうでなかなか手が出なかった有名思想家の「イメージ」がざっくりつかめたような気分になれる本なんですよね。
 しかし、今この感想を読み返してみると、内容をほとんど忘れていて、所詮、僕の能力・いまの記憶力では、付け焼刃の「効率化されたエッセンス」も右から左に抜けていくだけだな、と認めざるをえません。
 やはり、ちゃんと「わかる」ためには、興味を持って継続と反復することが必要みたいです。
 とはいえ、これまで「門前払い」されていたのが「とりあえず玄関までは入れてもらえた気分になれる」新書ではあります。



(3)オカルト編集王 月刊「ムー」編集長のあやしい仕事術

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 あの『ムー』という雑誌は、どのようにして生まれ、続けられてきたのか?
 1979年創刊の、いわゆる「オカルト雑誌」なのですが、宇宙人、UFO、超能力、ピラミッドパワーなど、世界中の超常現象を語り続けて43年。僕も中高生時代には、好事家の友人と書店でよく『ムー』の表紙を見つけて、「本当かな、これ?」などと話していたものです。

 『ムー』読んでるヤツは、だいたい友達。

 ……そんな「青春時代」を送ってきました。

 新しい「T」なる番組を制作するにあたって、もっとも重要なのはネタである。月刊「ムー」の記事を参考にしたいので、ご協力を仰ぎたいという内容であったが、そのとき、ひとつアドバイスしたことがある。
 記事は筆者や研究者のものなので、それらの出典などを明記すればいいが、もっと大切なことがある。超常現象を調査したとしても、これで完全に解明できたと結論づけてはならない。けっして決めつけてはならない。決めつければ、必ず反感を買う。とくに超常現象に興味を持っている視聴者は月刊「ムー」の読者のように一家言をもっている。自説と異なる結果を最終結論だと断定されれば、おもしろくないのだ。
 調査の結果を出すのはいい。番組として結論を出してもいいが、それが100パーセント正しいというスタンスはとるな。どこかに1パーセント、他の可能性を認める余裕をもて。これで、すべてが解明できたわけではない。引き続き、調査を続行する。そう、最後にひと言あれば、一家言をもっている視聴者の溜飲は下がる。と同時に、続編を期待することになるのだ、と。
 幸いにして、進言は受け入れられたようで、実際の番組では「真相がわかり次第、追って報告する」というナレーションでしめくくる形で放映された。結果、視聴率も好評で、続編が作られた。

 嘘をついたり、捏造したりするのではなく、「可能性」を追求するのが『ムー』のスタンスなのです。
 超常現象を妄信するわけではないけれど、「そういうものは絶対にない」という先入観にもとらわれない。
 43年続いてきたのは、それだけの期間、一定以上の読者がいた、ということでもありますよね。



(4)人生はそれでも続く


 『典子は、今』(1981年公開)の辻典子さん(現在は白井のり子さん)から、「生協の白石さん」まで。
 メディアで大きな話題になり、一躍「時の人」になった人たちは、その後、どんな人生を送っているのか。
 マスメディアは、その人が話題になっている時には一挙手一投足まで伝えてくれますし、多くの人が、彼ら、彼女らの動静に注目するのですが、波が去ってしまった後にも、「人生」は続いていくわけです。
 有名芸能人であれば「あの人は今」のような形式で伝えられたり、本人が現状をアピールしたりすることもあるのですが、何かのきっかけで世間に名前が知られてしまった一般人の「その後」を知る機会って、あまりないですよね。
 この新書は「その後」を追った連載企画をまとめたものです。


 1998年に「飛び入学」制度ができ、高校2年生からいきなり大学に入った3人の高校生は、その後、どうなったのか?

 飛び入学で入った3人は、いわば「特別待遇」だった。専用の自習室が用意され、担当の大学院生がついて、個別に学業や生活の相談に乗ってくれた。夏には米国の大学で1か月間の研修も。世間の関心は高く、海外研修ではメディアの同行取材も受けた。
 それでも、浮かれた気持ちは起きなかった。「存分に勉強できて、ただうれしかった」と佐藤さんは言う。
 大学院にも進み、光の伝わり方を制御できる「フォトニック結晶」を研究テーマに論文を書いて、修士号を得た。


 やりすぎじゃないか、と思うほどの大学側からの手厚いサポートを受けて、佐藤さんは、研究者として成功の階段を登っていった、と言いたいところなのですが……

 あれから22年。佐藤さんは今、大型トレーラーの運転手となって、夜明けの街を疾走している。

 佐藤さん自身にとっては、決して「不本意な選択」ではないようですが、どういう経緯で現在に至ったのか、興味がある方はこの本を読んでみていただきたいのです。人生って、ままならないよね、本当に。



(5)君のクイズ

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 僕自身クイズが大好き、ということもあり、主人公に感情移入して解答者席に座っているような気持ちで一気読みしてしまいました。
 190ページくらいで、最近は長い本を読むのがつらくなってきた僕でも息切れせずに読み切れる長さでありながら、ものすごく密度が濃くて、「小川哲さん天才かよ!」と感心せずにはいられなかったのです。現役のクイズプレイヤーたちへのかなり綿密な取材もされたのだと思います。


 高額賞金がかかった、実力勝負のクイズ大会の最終問題。
 そこで起こった、信じられないような出来事。
 司会者が問題の最初の一文字を発するその前に、早押しボタンを押し、正解を言い当てたひとりのプレイヤー。
 彼は、なぜそんなことができたのか?

 ……人生って、どんなに負けていても「退場」することができないクイズ番組みたいなものだな、と、これを書きながら考えていました。「最終問題で一発逆転」とか、クイズ番組を観ていたら「何それ」と思うけれど、そういうのが存在しない現実の人生の閉塞感とは。




 というわけで、5冊挙げてみましたが、ああ、こんな本あったな、と思っていただき、もし気になるものがあれば、手にとってもらえれば嬉しいです。
 僕自身、このブログで感想を毎日更新していた時期に比べれば、時間の余裕はあるはずなのに、読書量は減っているし、読みやすい本を選びがちになっています。
 更新頻度はこれ以上になることはないでしょうし、それを期待されてもいないとは思うのですが、細々とでも、僕の生存記録として書き続けていくつもりです。


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