琥珀色の戯言

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【読書感想】地雷グリコ ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説!

射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5篇。


 ミステリ、というか、既存のゲームをアレンジした頭脳ゲームに巻き込まれていく主人公(女子高生)のバトルを描いた短編〜中編小説集。

 読んでいて、『カイジ』シリーズや『賭ケグルイ』を思い出さずにはいられないというか、「ギャンブル(賭け事)における心理戦」をエンターテインメント漫画に持ち込み、大ヒットさせた『カイジ』って、本当にすごいなあ、とあらためて考えずにはいられませんでした。

 ジャンケン。階段。誰でも知っているシンプルなゲーム。
 小学校の記憶がよみがえる。帰り道、休み時間。公園や学校で友達と遊んだ、あのゲーム。
「それって、もしかして……」
「グリコか」真兎が嬉しそうに言った。「なつかしいね」
「くだらないな」と、椚先輩。「子どもの遊びじゃないか」
「いいんじゃないか?」と江角先輩。「もともとくだらない勝負だし」
 私たちの反応を予想していたように、塗辺くんは階段を見上げる。
「ただのグリコではありません。この階段、危険極まりない”地雷原”でもあります。踏んでしまえば重いペナルティが。勝つためには互いに読み合い、敵が仕掛けた地雷の位置を察知しなければなりません」
「地雷?」
 審判はうなずいて、私たちを振り返り、
「いかに罠を見極めつつ、いかに素早く階段を上るか──。ゲーム名」口元を陰気に綻ばせた。
「《地雷グリコ》です」


 えっ、何その「地雷グリコ」って?と、身を乗り出してきた人(僕もそうでした)は、この本を楽しく読めると思います。
 地雷を踏んで人がバラバラになる、とかそういう残酷なシーンはないのですが、これはもう「ネーミング勝ち」だよなあ、と。

 主人公・射守矢真兎(いもりや・まと)のつかみどころの無い、不思議なキャラクターを、「普通っぽくてしっかり者の友達」がしっかり支えていますし(構図的には、2024年の本屋大賞を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』に近い)。

 リアリティ云々ではなくて、「ゲームをゲームとして楽しめる世界観」が出来上がっていて、ゲーム好き、頭脳戦好きにはたまらない本だと思います。
 
 ただ、後半の作品になるにつれて、ゲームのルールがややこしくなってくるのと、心理戦というよりは、ルールの隙の突き合いになってきて、「よくこんなこと考えつくなあ」という感心・興奮と「これはさすがに強引な解釈すぎるのでは」「そもそもこんな複雑なルールで『初見』どうしの勝負なんて成り立つのか?」とという疑問が入り乱れてくるのです。

 最後の『フォールーム・ポーカー』とか、読んでいて、頭がこんがらがってきました。クライマックスだし、すごいどんでん返しを見せたい、という気持ちは伝わってくるのだけれど、頭脳戦というより、屁理屈合戦みたいな感じもしてきました。「小説だから、文字情報だけだから表現できる意外な展開」も散りばめられていて、「これ書いた人、すごく頭良いんだろうな」とも思います。


 著者の青崎有吾さんの作品、最近、『11文字の檻』を読んだのですが、頭脳戦と女子の友情が印象に残る短編集で、この『地雷グリコ』は、青崎さんの現時点での集大成というか、決め球みたいな作品です。

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 既存のゲームをアレンジする、というのを「新しいゲームの創造」として楽しめるか、「なんかめんどくさくなっているなあ」と嫌うか。

 とりあえず、「頭脳戦好き」にはおすすめです。
 逆に、万人にわかりやすくて、ヒリつきもきっちり伝えている『カイジ』って、やっぱりすごいな、とも思いました。

 この『地雷グリコ』も映像化されそうだよねえ。
イニシエーション・ラブ』だって映画化されたのだし。

 これを読みながらもうひとつ、考えていたことがあって、僕は半世紀くらいずっと「ゲーム」が大好きなのですが、ゲームの「ルール」について、これまであまりも無頓着だったなあ、と。
 大概の場合、ゲームの対戦相手も「契約書を隅々まで読む」タイプではないし、勝ち負けよりも楽しむことが目的ではあったのです。

 でも、大事なものがかかった真剣勝負では、その場での賢さや運よりも「前提になっている、ルールをしっかり把握する、あるいはルールを自分に都合よく利用する」ことが勝利への近道です。

 究極的には、勝つためには「ルールを決める側」に回るのが最短距離なんですよね。
 大概の「本当に重要なゲーム」は、誰かが最初のサイコロを振る前に、もう勝負がついている。

 そんな重苦しい話は抜きにして(人生的には、抜きにしないほうが良いのだけれど)、ちょっと頭が良くなった気分になれる頭脳戦小説としても、十分すぎる良作だと思います。


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