琥珀色の戯言

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【読書感想】損保の闇 生保の裏──ドキュメント保険業界 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

ビッグモーター問題、カルテル疑惑、悪質勧誘、レジェンド生保レディの不正、公平性を装った代理店の手数料稼ぎ……。
噴出する保険業界の問題に金融庁はどう向き合うのか。
当局と業界の暗闘の舞台裏、生損保の内実に迫った渾身のドキュメント。

「保険」という言葉に安心感や信頼感を抱く国民性は根強いが、商品が顧客にとって適切か判断する材料は少なく、顧客との「情報の非対称性」が強い保険業界。
顧客の利益を犠牲にして「うまみ」を得ようとしかねない業界に、金融庁はどう対峙しているのか。
この一冊で今の保険業界の実情がわかる。


 何のため、誰のための「保険」なのか?

 株取引をやっていると、業績の良し悪しで、企業やその経営陣を評価してしまいがちなのです。
 株式会社は株主のものであり、より稼いで、より株主に還元すべき、とは言うけれど、業績を追い求めるあまり、不正を働いたり、顧客を騙したりするような話を読んでいると、そこまでして「成長」する必要があるのだろうか、という疑問もわいてくるのです。

 金融庁は2023年9月19日、損保ジャパンに立ち入り検査に入ると、その後、HD(親会社のSOMPOホールディングス)にも検査を拡大。清水ら検査部隊は東京・新宿にある両社の本社ビル38階に常駐し、年をまたいで両社を調べ上げてきた。


(中略)


 日本で最初の火災保険会社をルーツに持つ名門損保、損保ジャパンの名声はどん底に落ちていた。
 ゴルフボールを靴下に入れて振り回し人の愛車をぶっ壊す、ロウソクや紙ヤスリでボディにこすったような痕跡をつける……。中古車販売大手のビッグモーター(BM)による保険金の水増し請求の手口が次々と明るみになる中、同社と損保ジャパンとの「蜜月」関係が世間に衝撃を与えた。
 損保ジャパンは「お得意さま」であるBMへの配慮から、大手4損保のなかで唯一、「オススメ工場」としてBMを契約者に紹介し続けた。「組織的な不正はなかった」としたBMの調査報告書が改ざんされたものだと知りながら目をつむった。
「損保ジャパンの看板を恥ずかしくて出せない」「保険金請求者からBMには甘いクセに、と怒鳴られる」。現場からは悲痛の声があふれた。


 ビッグモーターの不祥事は、あまりにもひどすぎて、ちょっと信じがたいレベルのものでした。車の修理をするはずの工場で、修理費を水増しするために、さらにその車を壊していた、なんて。
 僕はもうビッグモーターに行くことはないと思います。
 今でも、ビッグモーターの近くを通るたびに、「まだ営業しているんだ……」と思ってしまうのです。
 失われた信頼は、そう簡単には取り戻せない。

 そのビッグモーターの不正の情報を掴んでいながら、これまでの密接な関係と、ライバルの保険会社に契約を奪われてしまう、という不安から、顧客への「オススメ」をすぐに再開した損保ジャパン。
 結局のところ、ビッグモーターも損保ジャパンも「自分たちの成績」が大事で、顧客のことは二の次なんだろうな、と考えずにはいられません。
 現場では、自分の営業成績を上げるため、あるいは、上司からの叱責を逃れるために不正が横行し、経営陣は、問題が明るみに出ると「把握していなかった」「現場が勝手にやっていたこと」だと言い逃れをする。

 ああいう事件が起こると、「本当に、中古車業界のなかで、ビッグモーターだけがやっていたのだろうか? 損保ジャパンだけが顧客よりも業績を取る保険会社だったのだろうか?」と業界全体にも不信感がつのってきます。
 
 僕自身のことであれば、「医療ミスや不法行為をした医者や病院があったからって、全部の医者がそんなことしているわけないだろ!」と思うのですが。


 著者は関係者への取材やこれまでの保険業界の歴史を踏まえて、「企業と癒着(という言葉を使うと怒られるのかもしれませんが)して保険を契約してもらう保険会社の体質」を紹介しています。
 

 程度の差はあれ、各社が見返りのため、BMにすり寄っていた。内部告発の前に不正の予兆はなかったのか。
 損保ジャパンでは出向者が危険信号を何度か送っていた。
「入庫誘導(事故車などの修理先としてBMを紹介すること)はもう限界。見積額を高くする方法ばかり聞いてくる。出向者の引き揚げをお願いしたい」
 2015年12月、出向者の一人は、こうした報告書を本社に送った。この頃、宏之(BMの元社長)の長男である宏一が取締役に就任したことでBMの重点戦略が売上アップにシフトした。修理代金をいかに引き上げるかについて策を巡らしていたという。
 保険会社からすれば、不必要な支払いはもちろん望まない。「利益優先の企業文化が修理協定に影響を与えている」とし、付き合いを見直すべきだとまで進言した。
 だが、損保ジャパンはむしろ出向者を増やしている。
 2020年には出向していたアジャスターが「修理項目を水増ししようとする会話も聞こえてきた。不正に関与するのは嫌だ」とBM幹部に直談判し、担当を外れている。同じ年、出向している別のアジャスターが「修理項目を水増ししようとする会話も聞こえてきた。不正に関与するのは嫌だ」とBM幹部に直談判し、担当を外れている。
 同じ年、出向している別のアジャスターから詳細な情報がもたらされる。BM幹部が、全員が閲覧するグループLINEで成績の悪い工場長を叱責しているとし、「何とか売り上げを捻出しようとし、それが不正につながりかねない」という内容だった。工場の質が低いのにランク「S」で簡易査定とするから、歪みが生じている、とも警告していた。
 他社も異変を感じ取っていた。
 BMシェア2位の三井住友海上は2017年4月以降、BMにアジャスターを3人出向させている。彼らもグループLINEの投稿内容などから、実際はリサイクル部品を修理に使ったのに新品として保険金請求した事案など複数の不適切な事案を把握している。工場のフロントが、損傷のない箇所に付箋をはり撮影する姿も目撃していた。
 全国の損害査定部門を本社で統括する損害サポート業務部は遅くとも2019年までにこうした情報を把握した。同年9月、同部の技術部長が東京・港区の六本木ヒルズに入るBM本社を訪問し、改善を求めている。


 ビッグモーターの不祥事が大きく取り上げられたのは2023年だったのですが、付き合いが深かった保険会社には、その10年近く前から、その不正行為の実態が伝わってきていたのです。
 でも、誰もビッグモーターを止めることができなかった。

 僕はインターネットの普及で、保険の手数料も下がり、選択の幅も広がって、以前のような「生保レディによるしつこい勧誘」は無くなってきた、と思っていました。
 でも、保険業界はずっと古い体質や企業との関係を引きずっていて、取引先の企業の株をたくさん持って、経営の安定に「協力」していたり、高齢者をターゲットに手数料が高い保険に入らせたりし続けていることが、この本を読んでいるとわかります。

 金融庁損害保険ジャパンSOMPOホールディングス(HD)への業務改善命令で、(1)顧客の利益より営業成績に価値を置く (2)社長等の上司に異議を唱えない (3)不芳情報が経営陣や親会社に適切に報告されない、という三つの「企業文化」を指摘し、これらが「歴代社長を含む経営陣の下で醸成されてきた」と断罪した。

 日本の企業なんて、みんなこんな感じじゃない?
 いや日本に限らず、「最大利益と持続的かつ高い成長」が市場で評価され続ける限り、こうなっていくのは致し方ないのかな、と。
 僕はゲーム会社の株を持っているのですが、その会社の株のYahoo!掲示板には「もっと新しいガチャを出して、どんどん課金しろよ!」という株主(?)の声があふれています。

 男性が働いていた地域のディーラーはテリトリー制を導入していた。男性は8〜10店舗ほどを担当。日替わりで店舗に通い、社員らに勉強会を開いたり、契約手続きの手伝いをしたり店舗をサポートしたりするのが業務だった。
「本業支援」は生活の至るところに浸透している。
 ディーラーが新店をオープンする際には、開店イベントにかり出される。店舗内の接客は当然、ディーラーの社員の役割。男性ら損保に任されるのは駐車場の整理係だ。
 夏は暑く、冬は寒い。冬の雨の日にあったイベントの際には、カッパを着て誘導した。イベントは土日が多く、もちろん休日返上だった。
 ディーラーでの自家用車の購入は当たりまえ、近年の自動車の平均使用年数が10年を超えるなか、次の車検がこないうちに買い替える。
 営業部門では、家族、親戚、友人、取引先にいたるまで自動車を購入してくれる人を探し出し、ディーラーに紹介する。紹介の目標が使者の表彰制度の基準にもなっており、未達は許されない。ディーラーの取引先への支援まで引き受ける。
「自爆」は当然。携帯を新規購入してはある程度経った後に解約。また購入を繰り返す。VISA、JCBマスターカード……。クレジットカードを複数枚持たされた。
 テリトリー制では店舗内で扱う保険会社が決まっているのになぜそこまでするのか。
 大きな要因は「損保レース」だという。
 このディーラーでは年に一度、店舗の担当損保を見直す。新車特約や代車費用特約などディーラーにとって手数料が高くなるオプションの付帯率や、本業支援の貢献度が変更の要素になる。
 テリトリーを奪われれば、担当部署の収入保険料は大きく落ち込む。上司や自分の人事評価に影響し、次の異動にも直結する。毎年、1〜2月頃には当年度の達成率がディーラーから示される。その頃には営業部門が一丸となって、本業支援に心血を注ぐ。


 長期政権でイエスマンばかりを周りに置くようになってしまった経営者、成績を上げるために、身銭を切って「自爆営業」を続ける社員たち、「お客に必要とされる保険」よりも、「より手数料が高い保険」を薦め、その解約と新規契約を繰り返し、さらに稼ごうとする「ファイナンシャル・プランナー」。

 もちろん、そういう身内からの搾取や不誠実な行為は、昔よりは減っているのでしょう、そう思いたい。
 ネットの影響で若い人たちの保険に対するリテラリー(情報収集・活用能力)が上がってきて、簡単に薦める保険には入ってくれなくなった。
 でも、営業成績は落とせないから、自分や親族に保険に入ってもらったり、認知機能が低下した高齢者を狙い撃ちにする。

 世の中にはいろんな予期せぬ大きなリスクがあるし、保険というのは、必要なものだとは思います。
 とはいえ、保険業界の現状は、顧客側にとっては、地雷原を歩かされているようなもののようにさえ感じるのです。
 著者も高額医療について言及しているのですが、調べてみると、日本の場合、公的なサポートもけっこうあるんですよね。

 経営や会社での労働というのは一筋縄ではいかないものだな、と考えずにはいられません。
 ゴルフボールで車を壊すためにビッグモーターに入った人も、高齢者を言いくるめて手数料が高い保険の契約書に判子を押させるために保険会社に勤めた人もいないはずなのに、どうして、こうなってしまうのか……


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