琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【映画感想】はたらく細胞 ☆☆☆☆

あらすじ
酸素を運ぶ赤血球(永野芽郁)や細菌と戦う白血球(佐藤健)など、37兆個もの細胞が人間の体内で休むことなく働き、その健康と命を守っている。だが、不規則で不摂生な日々を過ごす漆崎茂(阿部サダヲ)の体内では、劣悪な体内環境に疲弊した細胞たちが文句を言いながら働き、規則正しい生活習慣を身につけて高校生活を送る茂の娘・日胡(芦田愛菜)の体内にいる細胞たちは楽しく働いていた。
清水茜のコミック「はたらく細胞」に加えて、清水と原田重光、初嘉屋一生による同作品のスピンオフ「はたらく細胞BLACK」を実写化したドラマ。生活習慣や体内環境が正反対の親子と、それぞれの体内で病原体の侵入を防ごうとする細胞たちの姿を描く。


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あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。


2025年映画館での鑑賞1作目。観客は200人くらい。
日頃は平日の夕方などに行くことが多いので、お正月の映画館の人の多さに驚きました。
なんのかんの言っても、お客さんがいるタイミングではけっこういる、ということを思い知らされました。
なかでも、この『はたらく細胞』は人気があったみたいです。

僕は原作漫画未読で、アニメも一話も観たことがなく、まったく予備知識なしだったので、原作の再現度などについては何も言えないのですが、映画のあと書店で見たコミック1巻の表紙の赤血球と白血球の絵からは、ビジュアル的にはかなり原作に寄せていそうでした。

映画の冒頭の部分を見ながら、日本の漫画・アニメの実写映画化の主人公を演じる俳優は、佐藤健と山﨑賢人しかいないのか……とは思いましたし、戦闘シーンでは、「いっそのこと、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)とか出しちゃえ!」と言いたくなりました。
アクション監督が『るろうに剣心』と同じ人らしいです。パロディ(あるいはオマージュ)的に、似たようなアクションをやっているのかどうかはわかりませんが。

率直なところ、物語としてはものすごくありきたりというか、『宇宙戦艦ヤマト』(いや、最近の若い人にとっては、『ヤマト』はもう「話には聞いたことがある、くらいの古典なのか?)と『難病もの』の合わせ技で、クールでかっこいい佐藤健さん、健気な永野芽郁さん、真面目で目立たないけれど好感度が高い芦田愛菜さんに、ちょっといいかげんだけど、不器用ないい人役の阿部サダヲさんと、いかにも、というキャスティングの「ベタな」映画だったんですよ。

とはいえ、白血球や赤血球、マクロファージなどの血球の成分を擬人化して、激混みのアウトレットモールみたいな雰囲気の「人体」を力技でそれっぽく映像にしてみせた、そのアイディアと手間には圧倒されました。

50年以上生きてきて、医療の仕事をしていてあらためて感じるのは「人間の体って、こんなに複雑なつくりなのに、平均80年とか生き続けられるのはすごいよなあ」ということなのです。
先日、家でずっと使っていたシャワーがヘッドの部分から水漏れして、接着剤などで修理してみたものの、今度は接着剤で仲が塞がってしまい、結局ダメになってしまいました。あんなシンプルな器具でさえ、10年使い続けていると、劣化もするし、ヒビも入るのです。
車だって、10年乗っていれば、定期的にメンテナンスしていてもあちこちガタがきます。

ところが、人間の身体というのは、さまざまな異なる環境にさらされ、心身ともにかなりの無理を強いられることもあり、そんなに毎日丁寧にメンテナンスしているわけでもないのに、平均すれば80年くらい、活動し続けられる。
あらためて、すごいシステム、メカニズムだし、一度病気をしてみたら、「健康なのが当たり前なわけじゃない」と思い知らされます。
思い知らされたら、その後はキチンとした生活を送る、というわけでもないんですけどね。

人間の身体のなかでは、「普段と変わらない生活」をしていくために、絶え間なくさまざまな機能が動き続けていて、見た目は変わらなくても、細胞は常に新しいものに入れ替わっている。細胞も、人間も、本当にすごい。

そして、病気というのも、「悪」というよりは、一種のイレギュラーというか、工場の生産ラインで結果的にできてしまった規格外の製品みたいなものでしかないのです。
がん細胞だって、宿主を殺そうとしているだけではなくて、自分が生きようとしているだけ、でもあります。
とはいえ、それを野放しにしていてば、宿主の身体が機能不全に陥ってしまう。
だから、「治療」という「排除」を行わなければならない。

ひとりの人間の身体の中だけですら、そういうふうにできているのだから、「みんな仲良く」「異物を排除するのはやめよう」なんていうのは、なかなか難しいというか、人間、人類というのは「生き延びるために戦わなければならない存在」なのかな……と感じていました。
あと、池江瑠璃子さんごめんなさい。池江さんは、報じられていることだけしか知らない僕が思っているよりも、ずっとずっと大変な思いと体験をして、ああして競技を続けておられるのですね。

もうひとつ、研修医時代に血液内科で担当していた若い患者さんのことを思い出しました。
今の医学だったら、あの人を助けることはできただろうか、と、この映画を観ながらずっと考えていたのです。
この映画では、病気とその治療に関しては、かなり壮絶な描写があるのですが、そこまでやるようになったから、克服できたり、生還できたりするようになった病気もたくさんある、というのも事実なのです。

ストーリーがありきたりだとか、言うのは簡単だけれど、2時間足らずで、観客に「人間の身体ってすごいんだな」「こうして生きているっていうのは、あたりまえのことじゃないんだな」と考えさせることができた時点で、この映画の目的は達せられているのだと思います。
理科や生物、保健体育の教科書ではうまく伝わらないことも、この映画なら伝わる人も少なからずいるはず。

子どもの頃に読んでいた『ひみつシリーズ』の『人体のひみつ』のような映画、ちょっと説教くさくはあるけれど、子どもに見せたい映画、ではありました。「医学部に行かせたい親御用達」になりそうな気もしますが。


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