琥珀色の戯言

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【読書感想】新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと ☆☆☆☆☆


Kindle版もあります。

共同通信社が配信するウェブ「47NEWS」でオンライン記事を作成し、これまで300万以上のPVを数々叩き出してきた著者が、アナログの紙面とはまったく異なるデジタル時代の文章術を指南する。
これは報道記者だけではなく、オンラインで文章を発表するあらゆる書き手にとって有用なノウハウであり、記事事例をふんだんに使って解説する。
また、これまでの試行錯誤と結果を出していくプロセスを伝えながら、ネット時代における新聞をはじめとしたジャーナリズムの生き残り方までを考察していく一冊。


 著者は、共同通信で長年記者として活躍されてきた方です。
 この本には、新聞が読まれなくなり、発行部数も右肩下がりのなか、オンラインで配信している記事を「バズらせる(話題になり、多くの人に注目される)」ために、著者が試行錯誤し、これまでに得たノウハウが詰まっているのです。

 新聞記者やネットライターだけではなく、ネットに何かを書いて、「多くの人に読んでもらいたい」と考えている人(僕もそのうちの一人です)にとっては、すごく役に立つと思いますし、僕自身が25年くらいネットで書いてきた経験から、納得するところが多い内容でした。


 「最近の子供や若者は、長い文章が読めなくなっている」「読解力が落ちている」
 それを嘆く「文化人」や「言論人」「メディアの人」は多いのです。
 でも、伝えようとする側が、これまでの自分の経験や常識にとらわれて、「伝えようとしている相手」のことを知ろうとせず、工夫して読んでもらおう、という努力や研究を怠っていたのです。
 ずっと「昔はこれでよかった」「このくらいは読めて当たり前」と甘えていたことを、これを読んで思い知らされました。

 さて、最初に言いたいのは、「新聞記事の書き方には、一つのパターンがある」ということだ。
「初めに」でも述べたが、このパターンは、私が勤める共同新聞社内では「逆三角形」と呼ばれている。一言で言えば、読者に伝えるべき最も大切なニュースの内容を、記事のできるだけ前に持ってくるというもの。段落単位で考えると、前にあればあるほど重要な内容で、段落が後ろにいくほど重要度が下がるということになる。当然、最も重要な要素は第1段落に置かれる。この第1段落は、新聞では「リード」と呼ばれている。
 リードには、記事が伝えるニュースの結論が書かれている、と言い換えることもできる。新聞記事は一般に、1行が11字〜12字詰めになっており、リードは平均10行〜20行ぐらいという感覚。
 つまりリードは100字程度、長くても200字程度ということになり、この中にニュースのエッセンスを詰め込むことになる。


 著者は、実際に共同通信の記事で使われるようなリードの具体例を出して、この「逆三角形」について説明しています。
 新聞記事は掲載できる文字数が限られているため、なるべく簡潔に、文字数を削理、大事なことから書いていく、という形式になっており、新人記者たちは、「なるべく少ない文字数で要点を効率的に伝える」トレーニングを受けるのです。

 文字数を減らすためには、繰り返しを省くために「同」を多用するなどの「省略」が使われます。

 具体的に例示してみる。まず、
「神奈川県警は◯日、傷害容疑で神奈川県鎌倉市の会社員◯容疑者を逮捕した。神奈川県警によると〜」
 という記事を書こうとしている場合、「同」を使えばこうなる。
「神奈川県警は◯日、傷害容疑で同県鎌倉市の会社員◯容疑者を逮捕した。同県警によると〜」
 合計4字も削れた。
 「同」は、ほかにもさまざまな場面で使われている。同日、同市、同省、同社、同国……。結果的に、新聞に「同」が使われていない紙面はほぼなくなっていく。


 そのほかにも、地方裁判所が「地裁」、教育委員会が「教委」と略されたり、「だから」「よって」のような順接の接続詞が省略されたりすることが多いそうです。「アメリカ合衆国」は「米国」、「オリンピック」は「五輪」と記載されやすいのです。

 文字数に制限があり、なるべく簡潔に要点を伝えるため、という理由ではありますが、文字数制限が新聞よりもゆるやかで、ほとんどの人が偶然目についた記事を気楽に読もうとするネットのニュースでは、こういう「新聞記者が書く記事の常識」で書かれたものは、「敷居が高く感じられ、読まれなくなってしまう」のではないか、と著者は指摘しています。


 『47NEWS』というサイト内で「記者が広く伝えたいことをデジタルコンテンツとして配信する」という試みをはじめたときには、まったく記事が読まれなかったことに打ちのめされたそうです。

 記者たちがきちんと取材してつくりあげた記事が、数千回しか読まれず、ランキングをみると、「芸能人のテレビでの発言がSNSで話題になっている」という記事が、100万PV(ページビュー)を超えて、Yahoo!ニュースのアクセスランキングで1位になっている。
 なぜこんな「どうでもいい」記事ばかりが読まれるのか?
 そのモヤモヤは、現在でも完全に解消してはいない、と著者は述べています。
 でも、著者はそこで「ネットユーザーはレベルが低い」と見下すのではなく、「そんなネットで読んでもらうには、どうすればいいか」を考えたのです。

 記事が読まれない、というショックを初めて受けた日から、デジタル記事が並ぶプラットフォームを日々、眺めるようになった。毎日読んでいた新聞を後回しにし、スマホに並ぶ無料のデジタル記事を暇さえあれば読むようになっていた。そのうちに気付いたのは、まじめなテーマを扱う長文記事も少なからずあることだ、ランキングの上位に入っているものも、それほど多くないものの確かにある。では、これらの記事はなぜ人気があるのか、私たちが配信する記事との違いはどこにあるのか、読んで考えるのがいつの間にか日課になった。
 その中で、参考になるかもしれない書き方をしているな、と感じる記事もいくつか出てきた。どこが出しているものだろうと見てみると、その多くは週刊誌発だった。特に「週刊文春」の記事が目に付いた。書き方は新聞と大きく違う。どう違うのかは、その時点ではうまく言語化できなかったものの、まずはとにかく「手本にしてみよう」「まねてみよう」と考えた。


週刊文春』の記事がネットで「バズる」のは、人々のゲスな好奇心を満足させるスキャンダルが多いから、なのだと僕も考えていたのですが、著者はそこに、内容だけではなく「書き方の工夫」を見出したのです。
 たしかに、スキャンダルを発信しているのは『週刊文春』だけではないはずなのに、『文春』発の記事は、頭ひとつ抜けて読まれ、話題にされやすい印象があります。

 著者は、週刊誌の書き方も参考にしながら、「内容があって、読んでもらえる記事」を生み出そうと試行錯誤を続け、少しずつPVも上がってきました。

 47リポーターズの編集担当になって悪戦苦闘を続けながら4ヵ月ほどたった2022年春、幹部からこんな指示を受けた。
「どういうデジタル記事が読まれているのか、分析し、説明してほしい」
 ちょうどいい機会だと思い、すでに配信されていた200本ほどの記事を、内容、ジャンル、PV数、コメント数やその内容などに分け、なぜ読まれたのか、あるいはなぜ読まれなかったのかを考察してみた。200本の中には、私が着任する前に配信されていた記事も含めた。
 分析というと難しそうに聞こえるが、特別なことをしたわけではない。たくさん読まれた記事一本一本について、読まれたと考えられる理由を列挙していき、似たような特徴を持つ記事をグルーピングして浮かび上がった特徴を考えてみた。
 その結果、記事がバズった理由を次の五つの要素に分類することができた。ヒットした記事は、おおむねこのどれかに当てはまる。しかも一つだけでなく、複数にあてはまるものが多い。

(1)「共感」や「感動」
(2)ストーリー性
(3)最新ニュースの関連記事
(4)見出しとサムネイルの結びつきの強さ
(5)コメントの盛り上がり


 このあと、五つの要素について詳述されているのですが、このなかでも特に重要なのは(1)と(2)だと著者は述べています。
「つまり、共感や感動を呼び起こす内容がストーリー仕立てで書かれている記事はとにかくよく読まれている」

 そう簡単に共感や感動を呼び起こせる文章を書ければ苦労しないよ、と言いたいところではありますが、とにかく簡潔に、中立で、という新聞記事よりも、ネットで見かけて気軽に読むのであれば、こちらのほうが読みやすいし、親しみがわきやすいのは事実でしょう。

 物事を評論家的に上から目線で語るのではなく、自分の経験をもとに書いたほうが読んでもらいやすいというのは、僕もこれまでネットで書いて実感してきました。
 自分の経験談は、批判を受けることも多いのですが、ネガティブな感情を引き出すことも含めて、読んだ人の心を動かしやすいのです。


 僕もこれまでに、こんな文章を書いてきました。
 みんなが「これは自分にも起こりうることだよな」と思ってくれるような体験談をベースにしたものは、読まれやすい気がしています。


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 ただ、著者は、「あまりにもお涙頂戴に向かいすぎると、かえって読者からはそっぽを向かれてしまう」と感じているのです。
 「同じ記事でも、それを出すタイミングによって、全然読まれたり、ものすごくバズったりする」とも。
 僕自身も昔書いて、全然反応がなかった記事を関連した事件が話題になったときにリライトして出したら、ものすごい反響があった経験があるのです。

 正直なところ、ある程度「打率を上げる」ことは可能なのではないか、と思うのですが、やっぱり、「記事を世に出してみないとわからない」のだよなあ。
 まったく予想していなかったところから突っ込まれ、炎上したことだってありましたし。
 読む側からすれば「そんなの炎上するのが当然だろう」という感覚なのかもしれませんが、発信する側は、自分が書いたものへの欲目もあって、「なんで……」と驚いてしまいます。
 多く読んでもらえると、好意的ではない反応の絶対数も増えますし。

 僕は読むことが好きだし、「現代人の読解力の低下」を懸念して、分かったようなつもりになっていました。
 でも、この本を読んで、「ブログなんて、もう流行らないから」と思考停止する前に、「読んでもらうには、どう自分の書きかたを変えればいいのか」をもう一度考えてみようと思います。伝わらないのを相手のせいにばかりしていても、前には進まない。

 この本、すごく面白かったし、発信する側のひとりとして、すごく参考になりました。
 ブログとか書いている人だけじゃなくて、SNSにアカウントを持っている人は、ぜひ読んでみてほしい。
 ネット社会では、「何かを書いて面識のない他者に伝える」というのは誰にとっても避けられないハードルだから。


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