琥珀色の戯言

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【読書感想】東大生はなぜコンサルを目指すのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

【仕事と成長に追い立てられる人たちへ】
東大生の就職人気ランキング上位をいつのまにか独占するようになった「コンサル」。この状況の背景にある時代の流れとは?
「転職でキャリアアップ」「ポータブルスキルを身につけろ」そんな勇ましい言葉の裏側に見えてきたのは、「仕事で成長」を課せられて不安を募らせるビジネスパーソンたちの姿だった。
時代の空気を鋭く切り取った『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』の著者が、我々が本当に向き合うべき成長とは何なのかを鮮やかに描き出す。


著者はこの本の冒頭で、新卒採用向け求人サイト大手の『ワンキャリア』の「東大・京大(2006年卒業予定者の就活人気企業)ランキングの上位10社のうち8社が、野村総合研究所、ボストン・コンサルティンググループ、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどのコンサルティング業界の企業(コンサルティングファーム)であることを紹介しています。

僕の同級生が就職活動をしていた1990年代の半ばくらいは、マスメディアや銀行、財閥系の商事会社などが人気だったのですが(『三菱商事』は2026年にもランクインしていました)、いまや、東大生、京大生は、コンサルティング・ファームを目指す時代になっているのです。

僕自身は、地方の病院に勤めているのですが、関わりのあるコンサルタントの話を聞くと、「そんなわかりきったことを……」「それができれば苦労しないよ」とうんざりすることが多いのです。
まあ、僕の勤務先を担当するのは、その程度の人材、ということなのかもしれませんが。

最近のビジネス書には、コンサルティング・ファーム出身者が書いたものが多くて、「意識高い系を煽って実態に欠ける『ビジネス』を生み出しているだけではないか」とも思うのです。

世の中に「相談されたい人」ばかりが増えて、「現場で身体を動かして働く人」が減ってきている。
「読まれたい人」ばかりで、「読みたい人」が減り続けているブログ界みたい。

 数多ある業界の中で、コンサル業界に人気が集中する。この状況は我々に何を示唆しているのだろうか。本書は、令和の日本の人気職種である「コンサル」に着目しながら、その人気の背景にある仕事や働き方にまつわる社会全体の価値観および諸問題を炙り出していく。

「とりコン(とりあえずコンサル業界に就職)」について掘り下げるにあたって、あるキーワードに注目したい。それが「成長」である。
 結論を端的に述べると、「コンサルファームに行けば成長できる」という言説が昨今のコンサル人気を支える要素の一つとなっている。たとえば、東大新聞とNewsPicksが東大生約300人を対象に行った調査によると、コンサル志望の東大生はそうでない層に比べて「自分の成長が期待できること」を企業選びのポイントとして挙げる人の割合が30ポイント近く高い(【イマドキ東大生のキャリア観】② 東大生はなぜコンサルへ?」東大新聞オンライン、2021年5月21日)。また、コンサル業界も入社してくる人たちの成長を後押しする体制を整えている。


(中略)


「コンサル」と「成長」は切っても切り離せない関係にある。そして、この「成長」という考え方は、コンサル業界のみならず、多くのビジネスパーソンにとっての重要なテーマとなっている。

くるま:はい、みんな聞いて! 筋トレ! サウナ! 成長!

ケムリ:めっちゃベンチャーじゃん……


 これは2024年のM-1グランプリ3回戦にて、この年に2連覇を果たした令和ロマンが披露したネタの冒頭のくだりである。「2027年にお笑い芸人が法律で禁止される」という突飛な設定の下、就職のために架空の企業を訪れたツッコミの松井ケムリに対して、ボケの高比良くるま扮する社長が出会い頭にこんなセリフを発する。
 ここで指摘したいのは、「筋トレ」「サウナ」という何を指しているか明確にイメージできる単語と、「成長」という抽象的な言葉が並列になっていることだ。このネタでは「社員の90%以上が義務教育終わってない」「子供じゃないですか(笑)。身体の成長ですよそれ」というやり取りがあるが、くるまの連呼する「成長」は背が伸びるといった類いの意味を示さないことをオーディエンスが理解しているからこそ、このボケは成立する。


令和ロマン、時事への感度が高いなあ、と思いながら読んでいました。
「最近の新人は定時で帰るし、飲み会にも付き合わない、休日出勤も平気で断るし、就職先も『自分の時間が持てるかどうか』を重視する」とされている一方で、社員を酷使しない「ホワイト企業」を「ここでは『成長』できない」という理由で辞めていく若者も少なからずいるのです。
 
年長者からすれば「どっちなんだよ!」という感じではあるのですが、「自分の成長」を重視する、という考え方は、意識が高い若者たちに広まっているようです。

その一方で、著者は、「成長」という言葉が便利で曖昧であるがゆえに、「成長」とは何なのか?どうなったら「成長した」と見なすのか?という定義があいまいなまま「成長しなければならないという強迫観念」にとらわれている人が多いことも指摘しています。

 ビジネス書のコーナーにはロジカルシンキングやデザイン思考といった考え方の話、マーケティングや会計・ファイナンスのような専門知識、さらには「レジリエンス」「グリット」などの精神面に関する話など、あらゆるタイプの書籍が並んでいる。それらはどれも「自分の本で示すスキルこそがビジネスパーソンの成長にとって一番大事だ」と迫ってくる(本が「商品」である以上当然である)。
 こんな状況の中で、「成長したい」人たちは自分の目指す成長のために何を学ぶべきか、自分なりにでも定義できているのだろうか。本書の論旨に関わってくるところだが、成長を目指すビジネスパーソンの多くはこの問いに対してはっきりした答えを持っていないのではないか?
 あらゆるタイプの情報が氾濫し、一方では「会社は自分を守ってくれない」という意識に引っ張られて、生き残るために成長しなくてはと思っている。しかし、その気持ちはとても漠然としたものである。なお、成長を目指すビジネスパーソンの選択肢の一つとして資格取得が浮上することがあるが、これはテスト勉強をして点数をとれば資格というゴールに辿り着けるわかりやすさが自分の曖昧な成長欲求にはっきりした形を与えてくれるからに他ならないだろう。それゆえ、「では、あなたは本当にその資格を取得することが必要なのか?」と踏み込まれると途端に雲行きが怪しくなる人が一定数以上存在する。読者の皆さまの周りに心当たりはないだろうか。
「できるようになる」ことを目指すが、「何ができるようになればいいか」はよくわかっていない。にもかかわらず「成長したい」と口にせずにはいられない2020年代ビジネスパーソン。客観的に見ればとてもバカバカしい状況である。しかし、少なくとも筆者はその端くれとしてこれを笑うことはできない。そうやって自分を奮い立たせていかないとやっていられないしんどさが今の時代には蔓延している。


これを読みながら「何が成長なのかわからないまま『成長』を口にし続ける」というのは、研修医時代の僕もそうだったなあ、と思い出さずにはいられませんでした。
「とりあえずしんどいので休みが欲しい、夕方の勤務時間が終わってから書類作成にカンファレンスに学会の準備や研究とか、教授になりたいわけでもないのに」とうんざりしつつも、同僚や上司に蔑まれたくはないし、自分で選択した仕事なんだから、「成長」しないと、置いていかれて、自分の居場所がなくなってしまう、と焦りつづけていたのです。

結局のところ、モチベーションの低さもあって偉くはなれなかったのですが、あの頃、無理やりにでも詰め込んだ知識や技術のおかげで、いまもなんとか食べていけている、というのも事実なんですよね。


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ニトリ』の創業者の似鳥昭雄会長は、こんな話をされています。

 ニトリがまだ2店舗だった1972年、私は第1期「30ヵ年経営計画」を作り、「2002年までに100店舗に増やし、年間売上高を1000億円にする」という目標を社内外に宣言しました。これがニトリが最初に設定したビジョンです。
 当時の売上高は1億6000万円ほどでした、実現不可能だと誰もが思ったことでしょう。しかし31年後の2003年に、1年遅れではありますが、これを達成しました。そのために私たちが行ってきたのが、「未来から逆算し、今日一日、すべきことを実行する」ということでした。
 まずはビジョンを「30年、10年、3年、1年」という形に分解していきます。たとえば、ニトリであれば、2002年までの30年を10年ごとに大きく分け、最初に店づくり、次に人づくり、最後に商品と仕組みづくりと定めました。それを3年、1年、さらに年間計画は週ごとに分け、「その週に何をするのか」という具体的な行動計画にする。そして、行動計画をもとに、今日一日、すべきことを、徹底実行していく。計画通りにいかないなど問題があれば、その根本原因が何か、事実を調査したうえで対策を決め、即座に行動に移しました。このように、ビジョンから逆算して行動するということを、30年以上、ひたむきに積み重ねていったからこそ、当時は不可能としか思えなかった大きなビジョンを達成できたのです。


しかしながら、実際にこんなふうに「逆算して自分の人生を組み立てられる」人って、ほとんどいないと思うのです。
子どもの頃に憧れた職業に就けている人は少ないだろうし、社会人になった時点で想定していたものとはまったく違った「仕事」で収入を得て生活している人のほうが、多いのではないでしょうか。

 分類の仕方にこだわりを持つことを求められるコンサル業界は、コミュニケーションスタイルについても独特の特徴がある。特に叩き込まれるのは「結論から話せ」。「結論は〇〇です。なぜなら……」という話し方こそ正義で、時間を有効に使うためにはこの構文以外は認められない(と言い切っても過言ではなさそうなくらい、このスタイルが一般化している)。同様に、何かを説明する際には冒頭で「3つあります」などとトピックの数を宣言することも好まれる。
 コンサルファームが顧客として向き合うクライアントの経営層は、日々様々なテーマについて考えている。その状況において自分たちが手がけたプロジェクトの内容を短時間でわかりやすく、かつ印象深く伝えるためには、最初に「3つあります」ということで先方の頭の中に枠を作り、その枠に沿ってコンパクトな結論を流し込むのが効率的な説明の流れとなる。そのようなコミュニケーションを実現するためには、この行動様式についてのファーム全体での日ごろからの鍛錬、所属するコンサルタントの底上げが必要になる。


将来を期待される若者が、みんな「3つあります」の人になってしまうというのは、「なんだかなあ」とは思うのです。
コンサルティングファームも一般化してきて、「ビジネス書の猿真似っぽいフォーマット」にはまってしまっている人の言葉に、もうこちら側としては慣れ切ってしまってもいます。

とはいえ、就活生にとっては、いまの世の中は、IT化や価値観の変化で、マスメディアは業績も信頼性も凋落し、銀行は人がどんどん不要になってきて、メーカーの開発もAI依存が強くなり、官公庁や商社はいまだ年功序列で雑用ばかりが多く年功序列、という状況です。

コンサルティングファーム出身のビジネス書の著者が多く、コンサルから転職したり、起業したりと、コンサルは「コンサル出身者として、コンサル経由でいろんな仕事ができる」ということで、就活生にとっては、「世の中がどう動いても、まずコンサルで問題解決能力を身に着けておけばなんとかなるだろう」という「安全策」でもあるのです。

「とりあえず生活には困らないだろうし、人に蔑まれることもないだろう」と考えて仕事選びをした人間としては、身につまされるというか、「やりたいことなんて、自分でも(あるいは、自分では)よくわからないんだよな……」と30年も前のことを思い出しながら読まずにはいられませんでした。


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