琥珀色の戯言

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【読書感想】なぜハーバードは虎屋に学ぶのか ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

世界最高の知性が集まるハーバード大学経営大学院で
いちばん人気のある研修旅行先は、日本。
参加者に希望者を含めると1学年の全学生の40%、
全教員の20%以上が日本への研修に興味を持ったという。
なぜ、いま日本はこれほど研修旅行先として人気があるのか。
ハーバード大学経営大学院の授業や研修をもとに
「ハーバードの教員や学生は日本から何を学んでいるのか」を解き明かす。


また「日本すごい!本」か……『ハーバード』という世界的名門大学をダシにして持ち上げても、すごいのは「日本」じゃなくて「虎屋」だろうよ……と、冷めた気分で読み始めたのです。

自分が属している国を誇りに思うのは、悪いことじゃないんだろうけどさ……
これだけ内輪では「日本はダメだ」と言い合っているのに、外国からけなされると不快だし、褒められるといい気分になってしまう。
家族というのは、そういうものなのかもしれないけれど。

ちなみに「ハーバード」というのは「ハーバード経営大学院」のことで、ハーバード大学のなかでも「経営」について学んでいる大学院の人たちが「日本の伝統的な企業推し」だということのようです。

 2024年は、ハーバード大学経営大学院の教員や学生が続々と来日した1年でした。1月に教員と学生、あわせて約50人が日本にやってきたのを皮切りに、5月には学生約120人、6月には教員約30人が研修旅行で日本を訪れました。教員の研修が日本で実施されたのは何と10年ぶりのことです。
来日した人数だけでも十分多いと感じますが、さらに驚くのは参加希望者数です。5月の研修旅行の希望者は約360人、6月の教員研修の希望者は約70人。これは全学生(1学年)の40%、全教員の20%以上にもあたります。
 2024年の日本ツアーに参加した人たちからの評判は上々で、2025年にも多くの教員・学生の来日が予定されています。
 それにしても、なぜ、いま日本はこれほど研修旅行先として人気があるのでしょうか。
 教員研修旅行の幹事をつとめたカール・ケスター名誉教授は、日本が人気を集めている理由は主に3つあると言います。
 1つめは、ここ数年の日本経済の復活ぶりを見て、多くの教員が研究対象として日本に興味をもちはじめていること。
 2つめは、アジアの大国、中国の企業を研究するのが難しくなってきていること。かつては「中国で研修したい」という教員もいましたが、現在は、中国の企業を現地でリサーチすることそのものが困難になってきており、その分、アジアのもう1つの重要国である日本への関心が高まっているのかもしれないと言います。
 そして3つめが、何と言っても「ドル高円安」。現在の魅力的な為替レートが日本人気を押し上げているのは間違いないようです。


この説明を読むと「いま、ハーバード経営大学院」の人たちが日本に注目しているのも納得できます。
学生たちは、アニメやゲームで日本に興味を持ったり、日本食が好きだったり、日本の歴史に興味があったり(配信されているドラマの影響もあるのかもしれません)、といったさまざまな動機で、「日本に行ってみたい」と望んでいたそうです。

最近の日本の都市や観光地には、この10年くらいで、外国人観光客がすごく増えていますよね。
いつのまにか、日本は「モノや良質のサービスが安く買える国」として、人気になっているのです。


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それにしても、なぜ『虎屋』なのか?
日本には、トヨタ任天堂のような、世界的な企業もたくさんあるのに。
虎屋は和菓子の老舗として、約500年、18代も続いているのですが、規模としては、トヨタ任天堂ほど大きくはないし、世界的に知られてもいません。


ファミリービジネスやファミリーオフィスを専門としている、ハーバードのローレンス・コーエン教授は、研究対象としての『虎屋』の魅力をこう述べています。

──教材の冒頭、(『虎屋』の)17代店主黒川光博氏の「虎屋の究極の目的は、ビジネスを継続させることではない。お客様においしい和菓子を喜んで召し上がって頂くことだ」という言葉が引用されています。なぜこの言葉を選んだのでしょうか。


コーエン教授:その理由は「ビジネスは何のためにあるのか」という根本的な問題を深く考えさせる言葉だったからです。
 虎屋がおよそ500年間も存続できたのはあくまでも結果であって、存続そのものを目的にしていたわけではない。これは大切な学びです。
 どの企業にも経営理念はありますが、問題はその理念が社員一人一人に深く浸透しているかどうかです。社員が自社の経営理念に共感していれば、より団結し、より迅速に動くことができるでしょう。
 虎屋では「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」という経営理念の共有が、驚くほどうまくいっていると思います。なぜ長寿企業の多くがファミリービジネスなのかといえば、企業の伝統、価値観、ストーリーを代々伝承してくのにファミリーほど適した組織はないからです。
 虎屋の歴史や製品には多くの物語がありますが、結局のところビジネスを長く繁栄させていく上で核となるのはこうした目に見えない価値観やストーリーなのです。


──日本には虎屋と同じような長寿企業が数多くあります。日本は国として、この強みをどのように生かしていくべきですか。


コーエン教授:企業の歴史はいわば唯一無二の無形財産です。その価値をお金に換算するのは難しいですが、企業にとって最も価値あるものだといっても過言ではありません。
 私が知るアメリカのとある超富裕層ファミリーは、一族の全ての財産を慈善団体に寄付することを決めていました。これが何を意味するかといえば、この一族は金銭を一族の永続的な繁栄のためのレガシーとして捉えていないということなのです。
 では、この一族は何を継承していくのか。ストーリーです。子孫たちが目を輝かせて語るのは、「わたしの曽祖父がこんなことをした、私の祖母がこんなことをした」といったファミリーヒストリーなのです。日本は歴史の長い国です。世界中を見渡しても、これほど多くのストーリーが語り継がれてきた国はありません。国や組織の中に長年にわたって蓄積されてきたストーリーが数多くあるというのは大きな強みです。
 残念ながら、日本も日本企業もこの強みをフルに生かしきれていません。日本の課題は、いかにこの唯一無二の無形財産であるストーリーの価値を再認識し、成長のために生かせるかでしょう。そうすれば、国も企業もさらに繁栄していくと思います。


ファミリーオフィス」というのは、超富裕層の資産管理や運用を行う専門組織で、超富裕層が一族の資産を守り、増やし、継承していくために設立し、専属のファンドマネージャーや弁護士、会計士などを雇っているそうです。
世界経済において、この「ファミリーオフィス」の影響力がどんどん強まってきているのだとか。

『虎屋』には、経営に関わるのは一族のなかで、一世代にひとりのみ、という「掟」があるそうです。
誰を選ぶか、は大きな問題ですが、そのおかげで、同族の企業内での権力争いを避け、当主の方針がブレないようになっているのです。
『虎屋』は和菓子の伝統を守りつつも、時代にあわせた新しい味の創造や、海外への進出も積極的に行い「状況に応じて変わっていく」ことを恐れない企業であることも紹介されているのです。

読みながら「ハーバードの経営大学院に行くような超富裕層や超エリートだからこそ、虎屋の『ファミリービジネス』から学ぶことが多いのだろうな」とも感じたのですけど。

 日本通のラモン・カザダスス=マサネル教授が来日時、毎回、訪問するのは、「ドン・キホーテ」の店舗。
「東京に滞在するときは、仕事以外でも必ずドン・キホーテに立ち寄ることにしています。特によく訪問しているのが「MEGAドン・キホーテ」です。駅から近く、郊外にある店舗とはまた違ったショッピング体験ができる点が気に入っています」と話す。
 カザダスス=マサネル教授が訪れるたびに驚かされるのは、独創的な売り場づくりだ。安価な日用品から高価なブランド品まで多種多様な品揃え、ジャングルのようなインテリア、圧縮陳列(狭小な売り場空間を商品で隙間なく満たす陳列手法)、遊び心にあふれたPOP(商品説明)……。顧客にショッピングを楽しんでもらうための仕掛けが、あらゆるところに見られるところが面白いのだという。
 銀座の街中に、シンプルな製品を提供する「無印良品」「ユニクロ」とジャングルのような空間で雑多な商品を売る「ドン・キホーテ」が、混在しているのは、いかにも日本らしい。
 カザダスス=マサネル教授は、これもまた日本の魅力だという。
「日本社会が持つ『相異なる要素を調和させ、包含する能力』には感服するばかりです。『伝統と革新』『礼節と奇抜』『喧噪と静寂』『階層と平等』『高い勤労意欲とワークライフバランス』『ミニマリズムとモノであふれた空間』──。一見、真逆に見える2つの要素を共存させているのが日本文化の魅力だと思います」


そこまで言われると、好意的に受けとめすぎなのでは……とも思うんですけどね。
アメリカみたいに広い売り場があれば、ドン・キホーテみたいな商品陳列は思いつきにくいでしょうし、新鮮に見える、というのはわかりますが。

海外に行くと、商品のバリエーションが少なかったり、自動販売機やコンビニがなかなか見つからなかったりすることも多いので、「簡単に欲しいものを買える」日本という国は、たしかに便利だなあ、と僕も感じます。


ちなみに、この本の「おわりに」には、こんな記述があります。

 ハーバード大学経営大学院では、2025年3月現在、経営者育成プログラム「AMP」(アドバンスド・マネジメント・プログラム)が開講中です。
 授業料(宿泊費等込)が3か月間で9万4000ドル(約1400万円)と高額であるにもかかわらず、近年、日本人の受講者が急増しているそうです。派遣元企業は、商社、金融機関、メーカー、シンクタンクなど様々。大企業の管理職・役員だけではなく、中小企業の経営者なども参加しているといいます。
 いま、なぜ、日本企業がこぞってハーバードに役員や役員候補者を送り込んでいるのでしょうか。
 その背景には、日本企業の間で経営人材の育成が喫緊の課題となっていることがあります。中でもグローバル環境で臆せず、堂々とものを言えるような人材が圧倒的に不足しているのです。


3か月間で1400万円!
NISA枠で積み立てるか高配当株でも買ったほうが、「将来のため」になるのでは……

……とか考えてしまう人が行くところでは、ないのでしょうね。
こういう超富裕層のファミリービジネスの世界で日本が評価されている、というのは、「そういう人たちをお客さんにできたらすごいだろうけど、自分には縁のない世界だなあ」というのも僕の実感でした。


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