琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】酒を主食とする人々: エチオピアの科学的秘境を旅する ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

本当にそんなことがありえるのか?

世界の辺境を旅する高野秀行も驚く
“ 朝昼晩、毎日、一生、大人も子供も胎児も酒を飲んで暮らす” 仰天ワールド!
話題騒然の「クレイジージャーニー」の全貌が明らかに!

幻の酒飲み民族は実在した!
すごい。すごすぎる……。
改めて私の中の常識がひっくり返ってしまった。
デラシャ人は科学の常識を遥かに超えたところに生きている──
朝から晩まで酒しか飲んでいないのに体調はすこぶるいい!

出国不能、救急搬送、ヤラセ、子供が酒を飲む…
まさか「クレイジージャーニー」の裏側で、
こんな“クレイジー”なことが起こっていたとは!?

目撃者たった一人のUMA状態の酒飲み民族を捜しに、
裸の王様に引率された史上最もマヌケなロケ隊が、
アフリカ大地溝帯へ向かう!


もはや「未開の地」がほとんどなくなってしまった(ようにみえる)現代で、「探検」をする側の舞台裏を含めた「冒険譚」を読ませてくれる高野秀行さん。

fujipon.hatenadiary.com
fujipon.hatenadiary.com


世界各地を旅し、さまざまな言語を使いこなしつづけている高野さんが、今回旅をしたのは、エチオピア南部の「酒を主食とする民族」が生活している土地でした。

 アフリカのエチオピア南部に酒を主食とする民族がいる。朝から晩まで酒を飲み、栄養の大部分を酒から得ている。健康な成人だけではんく、子供や病人、妊婦の人たちも飲んでいる。しかるにこの民族の情報はただ一冊の本に書かれた以外、世界的にも全然知られていない。ネット上にも情報は皆無──。
 こんな不思議な民族が実在するのだろうか? 実在するとしたら、一日中、酒を飲み続ける生活とはいったいどんな感じなのだろうか? 日常生活や健康に差支えないのだろうか?
 それを知るためには実際に行ってみるしかない。


日本でずっと生活をしている僕には、「それって、『アルコール依存症』じゃないのか、みんなアルコール性肝障害になって、生活はめちゃくちゃ、幻覚・妄想にとりつかれた人ばかりになるのでは……」としか思えなかったんですよ。
そんな民族がいるのなら、特殊な体質をもっているのか、「酔わないお酒」みたいなのを飲んでいるのか。

それにしても、「ただ一冊の本に書かれた情報」から、取材に行き、番組をつくろうとする『クレイジージャーニー』という番組もすごい。
そして、この本で描かれている番組スタッフの「面白くて、なるべく嘘のない取材をするための努力」には驚かされました。

取材する側が「ドキュメンタリー、ノンフィクションとして撮りたいもの」と、現地の人たちが「こういうのが見たいのだろう、と思い込んでいるもの」とは、同じではないのです。

カメラを抱えていって、そこにあるもの、行われていることを撮影すればそれで済む、というものでもない。

ちなみに、高野さんはこれまで番組に4回出演されたそうですが、スタジオで体験談を披露しただけでも反響が大きく、番組がきっかけで高野さんの著書を読むようになった、という人がたくさんいたそうです。
高野さん自身は、若いころ、大学の探検部時代に「探検もの」のテレビ番組の現地調査をするコーディネーターの仕事をされていたこともあり、その時代の著作もあるのですが、積極的に出演したいわけではないけれど、読者が増える効果を考えるとテレビ出演もやぶさかではない、というスタンスのようです。

正直、高野さんくらいの知名度がある(と僕が思っていた)作家でも、テレビに出演すると、そんなに集客効果があるのか、と意外でもありました。

 日本のテレビでは昔から今に至るまで数々の「秘境モノ」の番組が放映されおり、私も若い頃、何度か参加したことがあるのだが、ドキュメンタリーにしてもバラエティにしても、まずディレクターもしくはその代わりとなる日本人のリサーチャーかコーディネーターが現場に入り、「ロケハン(ロケーション・ハンティングの略)」という名のリサーチを行うのがふつうだ。
 例えば、私は学生時代に「NHKスペシャル」の依頼を受け、一人でザイール(現コンゴ民主共和国)のジャングルに住む狩猟民族ムブティのロケハンを行ったことがある。ムブティの人たちは数十人単位でグループを作り、移動しながら暮らしていた。といっても、移動のルートは決まっていて、定期的に戻ってくるキャンプもあれば、グループによってはすでに定住している人たちもいた。私は一カ月ぐらいかけて、いくつかの定住・半定住キャンプを車と徒歩で回って調査した。どのキャンプの人がより伝統的な生活をしているか、狩猟のスタイルはづか、それぞれのキャンプではどんな映像が撮れそうか、移動のルートや距離はどれくらいなのか、人たちの人柄や気質はどうか、定期もしくは定住キャンプは道路からどれくらい離れているかなどなど。
 異文化を取材したいわけだから、なるべく伝統的なムブティらしい生活をしている人たちが好ましいが、かといって、テレビのクルーを受け入れてくれる余地のある人たちではないといけない。だいたい、キャンプを最低でも三つ以上見ないとムブティという民族の特徴自体がよくわからない。実際「伝統的な」とか「ムブティらしい」などと言っても、キャンプ(集団)によって服装や持ち物、狩りの手法などがちがうので、一概には言えない。
 でもまあ、いくつか見ていくとなんとなく「あ、この人たちはわりと伝統的なムブティらしい生活をしている」と思われる人たちに出くわす。でもそういう人たちのキャンプがベストとはかぎらない。彼らは道路や町から離れたところに暮らしていることが多い。あまりにアクセスが悪いと、物資の補給(特に電源。発電機を使用するならガソリンの補給)やトラブルが生じたときなどに支障が出る。ロケのスタッフ全員が長い距離を歩けるわけでもない。
 そういうことを調べて帰国後はそれらについて詳細なレポートを書いた。ついでに交通費や人件費の見積もりを作り、ザイールの情報省の局長と交渉し取材許可の内諾も得た(結果的には諸事情でこの企画はボツになったので本番はなかった)。


「ヤラセ」が指摘されたり、「その地域でも特殊な集団」が、クローズアップされて、典型例のように紹介されたりして問題になることも少なからずあるのですが、「ちゃんと取材する」というのは、本当に大変なことなのだと思います。
「ちゃんと取材したら、取材費はものすごくかかったけれど、あんまりおもしろい映像にならなかった」ということも頻回にあるはずで、お金があった昔のテレビ業界ならともかく、今はお金もないし、スタッフの安全にもより一層気を配らなければならないし、「秘境モノの番組が難しい時代」ではありますよね。

僕が子供のころ、『ドラえもん』の映画で、のび太が「もう地球上には秘境はなくなってしまった!」と嘆くシーンがあったのですが、その映画から、もう40年くらい経っているのだよなあ。

 コンソ人の世界はユニーク極まりないが、「飲酒民族」としてはマイルドだった。水やお茶代わりに酒を飲んでいるのはたしかだし、12、3歳以上なら子供(未成年)でも飲む。
 でも彼らは酒をガブガブ飲んだりしていなかったし、アラーケのバー以外の場所で酔っ払った人も見かけなかった。チャガ(現地の人が飲む地酒)なくしてコンソの生活が成り立たないのは間違いないにしても、主な栄養源はソルガム団子と豆類ではないか。多く見積もっても「酒」と「固形物」が半々ぐらいのように見えた。あくまで私たちの見たかぎりだが、決して「酒を主食とする民族」とは思えなかった。
 デラシャはどうなのだろう? 砂野さんの調査によれば、コンソの大人が飲むチャガが一日平均して2リットルであるのに対し、デラシャはパルショータという酒を5リットルも飲むという。コンソの2倍以上も飲むのだ。そして固形物をとる量は当然ずっと少ないという。
 でも私には酒メインで暮らすということがいまだに信じがたい。幻の酒主食民族は本当に存在するのだろうか?


現地ガイドが案内してくれた、デラシャ人のエリアで、高野さん一行は歓待され、「伝統的な生活習慣を守っている人々」を見せられます。
ところが、この村には、とんでもない「秘密」があったのです。

 昨日、一歩敷地に入ったら突然伝統的な世界になって驚いたが、今日は逆だった。一歩外に出るとグローバリゼーション真っ只中の村が広がっていた。学校に行く子供たちはきれいなTシャツに半ズボンやスカートを着ているし、雑貨屋はあるし、ド派手なバイクに乗った少年(バイクタクシーだった)はいるし。
 しかし、とどめは雑貨屋の向かいにある水場だった。黄色いポリタンクが何十個と並んでいたのだ! 明らかに水汲みの順番を待っている。パリトゥはそこを通り過ぎ、順番待ちの人全員を追い抜いて壺に水道の水を入れ始めていた。
「やられた!!」と私とD(ディレクター)岩木君は叫んだ。今どき土器の壺なんか使っているなんてすごいと思っていたが、わざとなのだ。
「みんな、ふつうの服着てるし!」とD岩木君。たしかに、私たちの家に来ている女性たちのように赤い布を頭に巻いたり白いスカートをはいたりした女性は全く見当たらない。みんな、ふつうに洋服を着ている。そして、よくよく思い返せば、パリトゥが壺を背負ったり下ろしたりするとき、妙にぎこちなかった。
「他の人たちが『そうじゃない、こうするんだ』みたいに言ってましたよ」とD岩木君が付け加える。壺なんか背負ったことがないから四苦八苦していたらしい……。
 なんてこった。
 私たちは本当に民俗資料館に住んでいたのだ。ヒョウタンや自然素材のものしかないのも、他の家からかき集めて、プラスチック製品と取り替えていたのだろう。まんまと騙されてしまった。通訳2号のトルネットが私たちにパルショータや水汲みについていかないよう止めていたのも納得がいく。私たちの家の敷地内だけ19世紀以前のアフリカであり、日光江戸村みたいなものだった。
 デラシャは演劇のようだ。第一幕では高地の秘境感に驚き、第二幕では植民地再現にげっそりし、第三幕ではタイムスリップで舞い上がり、そして第四幕では舞台は暗転、悲劇(喜劇か?)に転ずる。
「ほんと、劇団デラシャですね……」とD岩木君も呟いた。


ほとんどの「探検モノ」では書かれないであろう、こんな現実も詳しく記録し、公開してくれるのが高野さんの魅力なのです。
向こうは「こちらが見たいものを見せてあげよう」という感じで、悪気はないのかもしれませんが、高野さんは「これまでも、こういうのを事実だと信じ込んでいた事例があったのではないか?」と自身に問いかけています。

今の世の中、「事実」と「演出」と「嘘」の境界は見えにくくて(川口浩探検隊のように、原始猿人がスニーカーを履いて走り去る、なんていう隙は、なかなか見せてくれません)、もう、何を信じたらいいのか、わからなくなってきます。

この本、ここからが本番で、ちゃんと高野さんたちが現地で取材した、「劇団」ではない「酒を主食とする人々」の驚異的な生活も紹介されています。
ただ、「驚異的」とは書いたものの、文章になってみると、その人たちはあまりにも自然に暮らしていて、「固形物をほとんど食べない」以外は、熱中症予防のためにこまめに水分をとっている人と、そんなに変わらない感じでもあります。
つねに酔っ払ってハイテンションで大騒ぎしているわけでもないし、顔色が悪かったり、生活が荒れたりしているわけでもなさそうです。

「酒を主食とすることの、健康への影響」についても、医療関係の専門家による検証などもまじえて書かれています。

人間って、環境に身体を合わせてしまう生き物なのかもしれないし、現代人は「科学にもとづく『健康的な生活』」を信じすぎているのかもしれません。
それが、人類の平均寿命を延ばしてきたのは事実ではあるのだけれど。


fujipon.hatenablog.com
fujipon.hatenadiary.com

アクセスカウンター