Kindle版もあります。
たとえば、ゴジラが街を破壊するシーン。ガンダムやエヴァンゲリオンの戦闘シーン。セーラームーンの変身シーン。『太陽にほえろ!』の犯人追跡シーン……。
あなたが愛した名作の「音のデザイン」を、いま、ひも解きます。劇伴音楽とは、アニメ・映画・ドラマの背景に流される音楽のこと。映像とともに聴かれる音楽であり、さまざまな制約のもとに作られる不自由な音楽とも言えます。 しかし、その制約があるからこそ生まれ得た、自由で挑戦的な音楽でもあります。
劇伴音楽は意識して聴かれることはほとんどありません。それでも、熱中して観た映像作品の劇伴音楽は知らず知らず記憶に刻まれています。本書を読めば、さまざまなシーンの音楽が脳内に鳴り響いて、きっと驚くことでしょう。劇伴音楽は、映像作品の記憶をよみがえらせてくれる「タイムマシン」でもあるのです。そして、その音楽をよく聴けば、ふつうの音楽にはない工夫や実験的手法が盛り込まれていることに気づくはずです。
本書は、そんな劇伴音楽ならではの特徴と魅力を解説した初の入門書。劇伴音楽のルーツである映画音楽の成立から、それをお手本に日本の劇伴音楽が発展し、やがて独自のスタイルを獲得するに至るまでの経緯を、豊富な実例とともに紹介します。
また、近年、日本のアニメの劇伴音楽が海外で人気を呼んでいますが、本書では、その秘密を解き明かすカギとしてテレビドラマとアニメの音楽に注目。映画以上に制約の多いテレビドラマの劇伴のために作曲家がどんな工夫をしてきたのか。アニメの世界観を表現するためにどれほど野心的な音楽を生み出してきたのか。作曲家の挑戦の歩みをたどり、世界を熱狂させる日本の劇伴の魅力に迫ります。
僕は中学生くらいまで、アーティストが歌っている音楽を聴くことにちょっと抵抗があって、映画やドラマ、ゲームミュージックなどのサウンドトラック(サントラ)ばかり聴いていました。
「誰々のファン」だと認識されることが、なんだか嫌だったのです。
愛とか恋とかいう歌詞が、苦手でもありましたし。
いまは、アーティストが歌っているアルバムを聴くことが多くなりましたが、映画やアニメ、ゲーム音楽のサントラもけっこう買っています。
「音楽を聴く」ことに没頭するのではなく、なにか作業をやるときのBGMとしては、サントラのほうが心地よいことも多いから。
この本を読むまで、「劇伴」は「げきはん」と読むのだと思っていました(正解は「げきばん」)。
「劇」の「伴奏」として考えれば、「げきばん」のほうがしっくりくるはずなのに、先入観というのはなかなか拭えないものですね。
「劇伴」好きで、劇伴のサントラの構成を決めたり、ライナーノーツをつくったりする仕事もされている著者による、「劇伴のおおまかな歴史とその転換点となった作品・音楽・音楽家の紹介」がされている新書です。
映像に音楽がつけられるようになった初期から「劇伴」という言葉は「劇を引き立てるための音楽」というイメージを持たれるということで、作曲家にはこの言い回しを嫌う人が少なかったそうです。
著者は、作曲家たちに直接インタビューするときには、「劇伴」と言う言葉を使わないように気をつけていたのだとか。
現在では「劇伴」は音楽のジャンルとして確立されていて、自ら「劇伴の作曲家」としてコンサートをやる人も増えてきています。
半世紀前くらいは、アニメの主題歌は「子供向けの格下の曲」とみられていたそうですが、いまや、名だたるアーティストがこぞってアニメ主題歌を手がけており、ヒット曲への最短ルートのようにすら感じます。
1990年代には、トレンディドラマの主題歌が、軒並みミリオンセラーになっていたんですよね。
劇中の音楽にしても、「ジャララーン」っていう音を聴くだけで、いまだに、「あっ、『東京ラブストーリー』!」って、織田裕二さんと鈴木保奈美さんの顔が思い浮かぶくらいです。「カーンチっ!」あの頃は僕もそれなりに若かった。
まあ、この本には、そういうトレンディドラマの劇伴はほとんど触れられていないんですけどね。あれはあれだけで1冊の本になりそうではあります。
劇伴音楽(映像音楽)には、一般的な音楽には見られない特徴があります。
まず、劇伴音楽は厳密に言えば「音楽のジャンル」ではありません。レコード・CDショップでは、クラシック、ロック、ジャズなどとともに「サウンドトラック(あるいは映画音楽)」が並んでいますが、ほかの音楽ジャンルとサウンドトラック(劇伴)は同列には語れません。サウンドトラックは音楽の「用途」に着目した分類であって、音楽性に着目した分類ではないからです。サウンドトラックには、クラシック的な曲もあれば、ロックもあり、ジャズもあります。その多様性、「音楽的になんでもあり」なところが魅力のひとつなのです。
もっとも大きな特徴は、劇伴が映像とともに使用される音楽であることです。そのため、ふつうの音楽とは異なる作り方や曲調が採用されます。
『スター・ウォーズ』のような劇映画の場合は、一般的に映像に合わせて音楽を作ります。「この場面からこの場面まで音楽を付けたい」と監督や音楽監督がリクエストし、作曲家は音楽が付く場面の長さと内容に合わせて作曲するわけです。これを「フィルムスコアリング(film scoring)」と呼びます。作曲家が「もっと良い曲にしたい」「この辺で曲を盛り上げたい」と考えても自由にはなりません。
作品やシーンによっては、先に音楽を作っておいて、音楽に合わせて映像を制作する(撮影する)場合もあります。こちらは「プレスコアリング(prescoring)」(略して「プレスコ」)と呼ばれます。プレスコは、音楽と動きのタイミングをぴったり合わせる必要があるミュージカル音楽などでよく使われる手法です。どちらにしても、映像に合う音楽が求められることは同じです。
おおまかに言うと、「映像が先か、音楽が先か」なのですが、「ミュージカルでもなければ、音楽よりも時間と手間がかかりそうで時間調整が難しい映像が先になりやすいのでは」と思っていたのです。
でも、1928年に公開されたディズニーの短編アニメーション映画『蒸気船ウィリー』では、先に絵をつくってそれに合わせて音楽を録音するよりも、先に音楽をつくり、それに合わせて絵をつくったほうが、より絵と音楽のシンクロ度が高くなる、という結論に達し、現在でも画面内の動きと音楽を同期させる手法は「ミッキーマウシング」と呼ばれているそうです。
劇伴は「音楽のジャンルではない」からこそ、さまざまな音楽のジャンルが内包され、シンセサイザーを使った現代音楽がいちはやく使われたり、民族音楽が取り入れられたりもしています。
ゲーム音楽と似たところがあって(ゲーム音楽も「劇伴」のひとつだとも言えますが)、クラシックやワールドミュージック、ジャズ、演歌など、現在の音楽シーンでは商業的に成り立ちづらくなっているジャンルの音楽が「劇伴」として使われ、活きつづけている、という面もあります。
近年、日本のアニメ音楽は世界中で人気を集めています。その躍進の最初の一歩となった作品はなんでしょうか? 映画やレコードが大ヒットした『宇宙戦艦ヤマト』を挙げる人が多いかもしれません。しかし、筆者はこう答えることにしています。それは1972年に放送されたテレビアニメ『海のトリトン』であると。
僕自身がまだ生まれたばかりに放映されていたテレビアニメなので、内容に関しては「再放送で少し観たことがある」くらいで、勇壮な主題歌だけが印象に残っている『海のトリトン』なのですが、劇伴的に、いかに画期的な作品だったのかが、この本のなかで解説されています。
『海のトリトン』の音楽は、ファンからの熱い支持もあり、のちにサウンドトラックが(当時ですからレコードで)発売され、かなりヒットしたそうです。
著者は、『海のトリトン』と『宇宙戦艦ヤマト』が、アニメのサウンドトラック・ビジネスを開拓した、とも述べています。
『海のトリトン』のファンは放送終了後もファンクラブを作って活動を続けていました。その活動のなかから、サウンドトラック・アルバムの発売を要望する声が上がります。1978年1月、折からのアニメブームに乗って日本コロムビアからLPアルバム『海のトリトン』が発売されました。しかし、これは本編の音声を編集して収録したいわゆるドラマ盤で、ファンが望んだ「セリフやSEがかぶらない、音楽だけ」が聴けるものではありませんでした。
ファンの声に応えたのは作曲家の鈴木宏昌でした。鈴木の事務所・蛙プロダクションは『海のトリトン』のBGMをオリジナル・スコアに沿って再演奏し、レコードにして発売することを決定したのです。アニメ雑誌などに「初回プレス限定5000枚。シリアル番号入り」と広告を出したところ、またたくまに予約が殺到し、早々に追加プレスを行うことが決まりました。発売日は不記載ですが、1979年5月頃と思われます。このアルバムは権利上アニメの絵が使えないため、ジャケットは真っ白。タイトルもただ「トリトン」とだけ付けられていました。ファンのあいだでは「白ジャケ」と呼ばれています。
「ドラマ盤」じゃなくて、「音楽だけ」を聴きたいのに!というアニメファンの声は、1970年代の後半になってようやく届くようになったのか、と驚かされます。
いまでは、ネットに人気アニメの「ノンクレジット版」がアップロードされたり、ブルーレイやDVDの特典映像になっているのが当たり前なのに。
ゲーム音楽でも、「豪華なオーケストラ版やアレンジ版もいいけど、オリジナルのファミコン版の音源を収録してくれよ、それれがいちばん記憶に残っている音なのに」と思ったことが何度もありました。
ファンの「本当のニーズ」というのは、なかなか届かない。
ネット社会以前は、なおさら届きにくかったのでしょうね。
以前は手作業の職人芸でフィルムの映像に音楽を合わせていたのが、デジタル化によって、パソコンで、よりタイミングを正確に、簡単に合わせられるようになったそうです。
それによって、前述のフィルムスコアリングも進化してきています。
フィルムスコアリングを採用した近年の話題作といえば、テレビアニメ『鬼滅の刃』(2019~)でしょう。音楽は梶浦由記と椎名豪が共同で担当。梶浦がメインテーマなど作品を象徴する曲を何曲か書き、椎名が毎回映像に合わせたフィルムスコアリングで劇伴を制作するという分業が行われました。制作は2週間に1回、2、3話分をまとめて録音するスケジュール。第1期は全26話で合計670曲以上が作られました。椎名は映像が完成する前に絵コンテやガイド用の映像をもとにコンピュータでデモを作り、手直しを経て、本番のレコーディングを行うという手順で音楽を作っていったそうです。『鬼滅の刃』は第2期、第3期、劇場版とシリーズが続き、制作する曲数も膨大になりました。椎名はキャラクターをイメージする音色やメロディを決めておき、それをベースにシーンごとの曲を作ることで音楽に一貫性を持たせています。
『鬼滅の刃』は激しいアクションシーンと情感ほとばしる人間ドラマが見どころの作品です。状況の変化や感情の起伏をストレートに反映した音楽が効果を発揮します。音楽と映像が一体となって盛り上がる熱気は、溜め録りの曲を映像にあてはめていく手法では生まれなかったでしょう。フィルムスコアリングは『鬼滅の刃』の「熱さ」を支える、なくてはならない演出技法なのです。
『鬼滅の刃』のアニメや映画がこれだけの大ヒットを成し遂げたのは原作人気だけではなく、アニメのクオリティの高さのおかげでもあるのです。音楽に関しても、ここまで丁寧に、手間を惜しまずにつくられていたのか、と驚かされました。
売れる、人々を熱狂させるものには、それだけの理由があるのだなあ。
読むと、「劇伴」に注目して、あらためて観てみたくなる作品がたくさんできた本でした。
『リズと青い鳥』(2018年)、『響け! ユーフォニアム』未見の僕も、(『ユーフォニアム』から予習して)観てみようと思います。





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