琥珀色の戯言

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【映画感想】 機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島 ☆☆☆☆

地球連邦軍ジャブローでの防衛戦に続いて、ジオン地球進攻軍本拠地のオデッサ攻略に乗り出す。アムロ・レイたちの乗るホワイトベースには、通称「帰らずの島」での残敵掃討任務が命じられる。その島でアムロたちは、そこにいるはずのない子供たちと1機のザクに遭遇。アムロは戦闘中にガンダムを失い、そしてククルス・ドアンという男に出会う。


g-doan.net


2022年11作目の映画館での鑑賞です。
公開から2週間経った平日の朝の回を観ました。観客は10人くらい。
朝から映画を1本観ると、とりあえず充実した休日を過ごしたような気分になります。


 この映画が公開される、というのを聞いたとき、「どうせだったら、『エヴァンゲリオン新劇場版』みたいに、映画の『機動戦士ガンダム』3部作のリメイクを作ればいいのに」って思ったのです。

 うーむ、ククルス・ドアン……そんな話あったっけ……?
 僕は『ファーストガンダム直撃世代』なのですが、リアルタイムでのテレビ放映の時期は、まだ小学校の低学年で、「なんかちょっと難しい話だな……」と、友達の家でチラッと観て投げ出してしまった記憶があります。
 その後、夏休みの再放送では全話欠かさずに観たのですが、どちらかというと、映画版のほうが、ラストの感動も含めて印象に残っているんですよね。

 この『ククルス・ドアンの島』というアニメ映画だけへの率直な感想としては、「なんか『子どもと動物』が出てくるありがちな戦争ドラマを、『機動戦士ガンダム』の登場人物たちが1980年代テイストの演出でやらされている感じ」だったのです。
 ブライト・ノアは、あの生真面目なのが良いんだよ!なんか悪ノリした連邦軍のお偉方とのコントみたいなのをやらされているのは、正直観ていてキツかった。
 スレッガー中尉は、この映画でもそんなに出番が多いわけではないけれど、けっこう存在感があって、きっと、安彦良和さんは、もっとスレッガーを活躍させたかったんだろうな、スレッガーが生きていてくれれば、ブライトもけっこうラクができたのかもしれないな、なんて思いました。

 「上層部の無能」と「仲間を大切にする現場」のせめぎあいなど、安彦良和さんや富野由悠季さんらしいといえばらしいし、宮崎駿さんや高畑勲さんと同じく「太平洋戦争後の反戦・左翼思想」を持ち続けているのだなあ、ということも伝わってきたのです。

 アニメーションとしても、ちょっと今風にはなっているけれど、そんなに絵にお金をかけている感じもしませんでした。
 最近のアニメは、作画崩壊しているテレビアニメもあれば、高クオリティの作品もあり、けっこう出来、不出来の差が大きいのですが、この映画では、目を見張るようなハイクオリティ映像より、ファーストガンダムの味を重視したのかもしれません。


 正直、これまで『機動戦士ガンダム』を観たことがない人、あの「ガンダムブーム」のなか、プラモデルを買うために、デパートでダッシュした記憶がない人が、いきなり「これが『ガンダム』だよ」と、この『ククルス・ドアンの島』を見せられたら、「なんだこんなものか……」と思うのではなかろうか。



 だが、僕には、それがいい。


 ファーストガンダム直撃世代の僕にとっては、こうして、40年ぶりに「あの頃から、あまり変わっていない『機動戦士ガンダム』に再会できた」ことが、何よりも嬉しかったのです。

 長寿アニメ作品って、どうしても、途中で声優さんが交代していくじゃないですか。
 あるいは、長年務めていた声優さんが、昔のような声を出せなくなっていく。

 でも、「40年ぶり」ともなると、もう「久しぶりに開かれた同窓会」みたいなものです。
 ああ、古谷徹さんのアムロ・レイだ……(いま、「安室」と変換されたんですが、いまの若者たちにとっては、むしろそっちなのかもしれませんね)。
 そうそう、古川登志夫さんが、カイ・シデンだったんだよなあ……

 ブライトさん、ミライさん、セイラさん……キャラクターの絵はあの頃のままだけれど、当時、声をあてていた人たちは、もうこの世界から去ってしまいました。
 5年や10年なら、劣化とか、声が合う合わない云々とか思うかもしれないけれど、40年経てば、同じ声優さんのキャラクターには「同じ時代を生きてきた仲間」みたいな気持ちになり、変わってしまったキャラクターの声には、昔その声をあてていた人のことを思い出しながら、新たな声優さんに「プレッシャーかかるだろうけど、がんばって!」と素直に応援したくなるのです。
 
 シャア・アズナブルの出番が少ない(というか、ほとんどない)のは寂しくはあったのですが、むしろ、ファーストガンダムのメインストーリーとはあまり関係のない「外伝」的なエピソードだからこそ、観る側も、あれが違う、これが違う、という間違い探しではなく、「久しぶり、本当に久しぶりに、あの『ガンダム』の世界に2時間、浸っていられる。それだけで十分」という余裕もできるのかもしれません。

 古谷徹さんのアムロは、相変わらず、「こんなに世話になっているんだから、もうちょっと愛想よくしろよ!」とオッサン的には説教したくなる「塩対応野郎」ですし、ラストでのアムロの選択に対しては、ウクライナ戦争のさなかで、自民党の偉い人が「日本の防衛費を2倍にする」とか言っているのに(僕は現在のアメリカとか中国のスケールを考えると、今の日本が予算を2倍にしても、周辺国を刺激するデメリットの割に実際の効果は乏しいとしか思えないのですが)、安彦良和さんや富野由悠季さんはブレないよなあ、と感心せずにはいられませんでした。

 みんなが武器を捨てれば、戦争はなくなるのか?
 そもそも、そんなことが可能なのか?
 だからといって、軍拡競争を続けていては、いつか、それが暴発するときがくるのではないか?

 いやまあ、そんなことをあれこれ考えるよりも、「ああ、『ガンダム』懐かしい……あのBGMとともに、ガンダムが登場するシーンだけで、もう映画代の元は取れた!(森口博子さんの歌も聴けるし!)やっぱり、「『ガンダム』は、『ファースト』が至高!」
 
 オールドファンのための、ゆるい「同窓会映画」としては、過不足のない佳作です。
 また、ファーストガンダムを最初から観たくなりますし。
(なんのかんの言っても、シャアが出ないと寂しくはあるよね……)


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