琥珀色の戯言

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【読書感想】秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

内容紹介
こち亀』作者・初のビジネス指南書!長く、そして面白く仕事をする秘訣がここに!

「なぜ、40年間も週刊連載を休まずに持続できたのか」 これは僕がとてもよく聞かれる質問です。対する僕の答えは、
さほど面白いものでは ないかもしれません。いまになっていえることといえば、“目の前にあることをこなし、
ひとつ ひとつ積み重ねること”。月並みかもしれませんが、これしかないのです。(まえがきより)

週刊少年ジャンプで『こちら葛飾区亀有公園前派出所』、通称『こち亀』を一度の休載もせずに40年間連載し続けた作家=秋本治は、どのような思考・行動で日々仕事をしていたか?

・週刊連載時代、そして現在もどのようなタイムスケジュールで働いているのか。
・『こち亀』の毎回のアイディアはどこから出てきたのか。
・歴代担当全員とうまくいった人間関係はどうやって築いたのか。

など、偉業を成し遂げた著者の仕事の取り組み方、考え方を「セルフマネジメント術」「時間術」「コミュニケーション術」「発想術」「健康術」「未来術」の6章立てで、本邦初公開。

巻末には本書のために描き下ろした特別漫画「両津勘吉の仕事術」も掲載!


 あの「両さん」の生みの親って、こんなに真面目でコツコツ仕事をこなしていく人だったのか……
 僕はそのギャップに驚かされました。
 あらためて考えてみれば、40年間も週刊誌で連載を続けていくなんて、真面目で健康に恵まれないと、できることではありませんよね。

 この本を読むと、「長期連載」に注目されやすい『こちら葛飾区亀有公園前派出所こち亀)』は、その連載の間に、何度も方向性を変えていることがわかります。
 初期の『こち亀』の劇画調の絵をみると、これが同じ作品?と不思議な気分になるくらいです。
 そういえば、『キン肉マン』も「超人トーナメント」がはじまるまでは、あんまり冴えないギャグ漫画だったのだよなあ。

 しかし連載が長く続くうちに、そうしたテイストのままでは先が見えてこなくなってきました。そんなとき、担当編集者から思わぬ提案がありました。下町をテーマに描くのがいいのではないかというのです。
 僕は東京の下町生まれですので、ただ身近だったという理由で『こち亀』の舞台も下町に設定していましたが、それまで下町のこと自体をテーマに描くなんていう頭はなかったのです。

 「そんな、自分の近所の話でいいんですか?」と半信半疑でした。でも、一度ベーゴマのことや浅草の話などを描いてみたら、読者の子どもたちから意外な好反応がありました。僕にとってはあまりにも当たり前だった下町の日常が、当時の現代っ子には珍しいものとして映ったのでしょう。下町の話だったら、ネタは腐るほどありましたから、『こち亀』は下町路線へと大きく舵を切ったのです。

 それ以降も、『こち亀』は最初に設定した路線にこだわらず、そのときどきに僕の好きだったもの、たとえばミリタリーやゲーム、デジタル機器などをテーマとして取り入れ、少しずつ内容を変化させていきました。


 『こち亀』って、少年漫画誌のど真ん中である『週刊少年ジャンプ』で連載されながら、そのときどきの最先端の流行やマニアックな新製品を取り入れた回があり、その一方で、センチメンタルな下町の思い出をじっくり描いた回もあったのです。
 秋本さんが「他人の意見をとりあえず採り入れてみる」人ったのと、「変えることを恐れなかった」のが、これだけ長く続いた大きな理由だったのでしょう。
 人は、自分が持っている背景や好きなものを過大評価することもあれば、過小評価してしまうこともある。
 『こち亀』=「下町」というイメージが強い僕にとっては、「下町のことを描こうだなんて思わなかった」というのは意外でした。
 これはもう、編集者の功績ですし、漫画に編集者が介在したことによる成功例のひとつと言えるでしょう。


 この本からうかがえる秋本さんは、本当に「几帳面な人」なんですよ。
 第2章の「時間術」には、こう書かれています。

 僕も昔は、『こち亀』一本に、一週間のうち7日間、フルでかけていました。連載に慣れてくると、6日でできるようになりました。週に1日の休みができるということは、1か月で4日も余裕ができるということです。それでは、やろうと思えば5日でも描けるんじゃないかと思ってトライし、だんだんペースができ上がってきたのです。

 もちろん、週刊連載でも時間をかけて凝った話を、月に1本は描きたくなります。僕の場合、懐かしいことがテーマの回などは特に時間がかかり、1本に一週間以上かかることもありました。そんな場合でも作品のストックがあれば、目先の〆切は気にせず、十分な時間をかけて凝った話に取り組むことができます。
 
 連載を続けている漫画家さんで、作品のストックを持っている人はあまりいないと思います。直近の〆切を目指し、ギリギリで数本描いたり、一本に絞って描いたりしていらっしゃる方がほとんどです。その方がライブ感があり、迫力のある作品になるのは確かです。

 僕のように、読み切りを描くために連載マンガを描く時間を詰めているというと、真面目にやっていないのかと疑われてしまうかもしれません。
 でも、決してそうではありません。単純にいうと、無駄な時間を省いていけば、誰でも時間はかなり詰められるのです。
 たとえばアイデアを練るとき、ネームを考えるとき、ゆっくりコーヒーを飲んで、「どうしようかな……」と考えます。この「どうしようかな……」に2日かけているのであれば、「1日でやるぞ!」と決めてしまう。それだけで週に1日は空きます。こういう小さな”無駄な時間”を見つけてカットすれば、かけるべきところに十分な時間を充てることができるようになるのです。


 秋本さんは、こうして時間を「貯金」しておくことによって、描きたい作品には時間をかけて取り組むことができるし、取材にも行きたいときにすぐに行ける、と仰っています。
 何よりも、気持ちに余裕を持つことができるので、イライラせずにすむ、と。
 あまりにも正論すぎて、参りました、という感じなんですよ。
 秋本さんは天才型ではなくて、描き続けることによって、少しずつ効率化し、1本の漫画を描くのにかかる時間を縮めていくという、マラソンランナーみたいな仕事を続けてきたのです。
 こういう人の頭のなかから、あの「両津勘吉」が生まれてきたのだから、人間って不思議だよなあ。
 作者がこういう人だからこそ、「自分と正反対のキャラクター」を想像することができたのだろうか。


 正直なところ、これを真似できたら、そんなに悩まなくても良いのかもしれないけれど、自分には無理だなあ、とも思ったのです。
 ただ、この本には「特別なこと」は何も書かれていないんですよね。
 真剣にやる気があれば、できないことではない、はず。

 ダイエットも、「食事を減らして、適度な運動をすること」という「王道」が、いちばん確実に結果を出せるはずなのだけれど、みんなそれができないから、「ラクですぐに結果を出せる方法」を探してしまうのです。
 そして、失敗を繰り返す。

 この仕事術を全部真似するのは難しいと思いますが、参考にできるところを取り入れるだけでも、長い目でみれば、人生が大きく変わるかもしれません。
 

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