内容紹介
ロックバンド「クリープハイプ」の新刊『バンド』を、バンド結成10周年を記念してミシマ社より刊行することが決まりました。10月20日(日)発売いたします。今年の11月16日、現メンバーによるバンド結成10周年を迎えるクリープハイプ。
「このバンドを小さな会社だと思っている」(尾崎)2009年11月16日、当時、メンバーが次々と脱退して尾崎世界観の「一人バンド」となっていたクリープハイプに、3人が正式に加わる。それから10年――。
順風満帆とは全く言えない10年間に起こった数々は、まさに「小説より奇」なり。
プチ失踪、メジャーデビュー、解散の危機、レーベル移籍、炎上、歌えない・演奏できない身体…。
次々に押し寄せる困難をどのように乗り越えていったのか? そもそもなぜ、この4人だったのか
小泉拓(ドラム)、長谷川カオナシ(ベース)、小川幸慈(ギター)、そしてフロントマンの尾崎世界観。メンバー4 人が初めて怒涛の10年を語り尽くす。今や、絶滅危惧種と言われる「バンド」。この時代に何かを表現すること、表現を生業にすること、チームで何かをおこなうこと、こうしたもの「すべて」に迫る、唯一無二のノンフィクション。
クリープハイプ、というバンドのことは名前くらいしか知らなかったのですが、ネットでこの本が話題になっていたのと、木村俊介さんによるインタビューということで読んでみました。
この本、クリープハイプのメンバー四人、それぞれが自分の半生と、ずっとやってきた音楽について、そして、クリープハイプに加入する経緯と、加入してからの、気持ちや立場の変遷を語っているのです。
「なぜ人はバンドを組むのか」そして、「なぜバンドは仲違いをして、解散したり活動休止になるのか」
「音楽性の違い」とか言うけれど、結局はカネと人間関係じゃないの?と思っていたんですよね。
それにあてはまる事例というのは多いのだろうけど、必ずしもそうとは限らない。
この本を読んで感じたのは、バンドって、仲良しで、みんなが完全に同じ方を向いていては面白くなくて、「違い」があるからこそ意味が生じてくる、ということなんですよ。
でも、「違い」があまりにも大きくなりすぎると、やっぱり、一緒にやり続けることが難しくなる。
インタビュアーの木村俊介さんが、それぞれのメンバーへのインタビュー内容を独白調に書いています。
ドラムの小泉拓さんの項より。
これまでのメンバー間のぶつかり合いについては、……むしろ、「ぶつかり合いにまで行かない、そこまで行けない、そのことで悪循環が生まれる」ということが多かった気がします。
そういうなかで、尾崎(世界観)くんが不機嫌になってしまう。
でも、メンバーとしては、なんで不機嫌なのかがわからない。あとで理由を聞いて、「原因はそれか」という答え合わせを繰り返していました。
そういうすれちがいを繰り返すうちに、関係性も良くなくなった時期が出てきました。倦怠期のように、会話がなくなる。おたがい、なにを考えているのかが、余計にわからなくなる。
そうなると、けっこういろんなことで萎縮するようにもなるんです。演奏の面でもそうでした。
そういう細かいことが積もりに積もって、ライブのあとの打ち上げで、おれ、尾崎くんと喧嘩をしたんです。胸ぐらをつかみあうぐらいの。
それは、おれのなかでは大事なターニングポイントのひとつです。クリープハイプに入ってから、自分の感情をあんまり人にぶつけてこなかったから。でも、それができた。
はじめての言い争いというわけでもなかったけれど、そこからは、尾崎くんと「喧嘩もできるようになった」。前進です。いや、「喧嘩」ではないのか。おたがいの「意見」を言い合える関係になった気がします。
でも、喧嘩した時には、「それまでの関係が浮き彫りになった」って感じだった。きっかけは忘れちゃったし、ふたりとも酔っていたんだけど(笑)。たしか、おれが「それが、メンバーに対する態度か」と怒鳴ったのは覚えています。尾崎くんが突っかかってきて、それでキレちゃって。
でも、その喧嘩がなかったら、関係性は深まらなかった。だから、おれは良かったと思っています。
クリープハイプは、ボーカルの尾崎世界観さんのカリスマ性が際立っているバンドのようなのですが、他のメンバーは、自分のやりたい音楽とは異なっていたり、ひとりのメンバーが注目されたりすることに対して、鬱屈してしまうところもあるのです。
このバンドが組まれたきっかけが、尾崎さんが声をかけて実力のあるミュージシャンたちを集めた、というものでも、ずっと「主従」の関係にあるというのは、気分の良いものではないですよね。
そこで、「ちゃんと喧嘩をした」からこそ、クリープハイプは関係を建て直し、10年以上続いてきたのです。
人間関係においては、お互いにズレや違いが出てくるのは当たり前のことだから、「ちゃんと言いたいことが言える、喧嘩ができる」というのは、重要なことなのだと思い知らされます。
その場では、「酔っ払って絡んで喧嘩した」ように見えたかもしれないけれど。
ベースの長谷川カオナシさんの項より。
ただ、ぼくは、自分も含めて、人間関係があまりうまくいっていない頃のクリープハイプの音楽も、それはそれで好きなんです。
その時の音楽でも、メンバーがみんなそれぞれ、頑張っていたので。「負けるか、負けるか」というそれぞれの心の声が聴こえてくるような演奏だから、それでグッとくるんですけれども。
バンド内での人間関係がうまくいっていれば、良い演奏ができる、観客に伝わる、とも限らないのです。
ビートルズの解散直前の曲にも、なんというか、せつなさ、みたいな魅力がありますよね。
それは聴く側が、いろいろ想像して感情で補填してしまうからかもしれませんが。
ギターの小川幸慈さんの話。
四人それぞれに危機感はあったので、合間に「このままではだめだろう」というような話題は出ていたんです。でも、またその後しばらくは、さっき言ったような「膠着状態」が続く。怒っているのだろうか、みたいな距離感のやりとりも、けっこう長く続く。
でも、まぁ、そういうことも含めた「なにもかも」があって、四人でやりとりをしあうことが続いて、重なって、いまに至る。だから、「徐々に」「自然と」って感じです。もちろん、状況が良くなっていった根底にあるのは、四人の「いまのままではだめだ」という共通認識だと思いますが。
……あ、拓さんも、カオナシも、その頃の話を同じようにしていたんですか。「踏みこめば良かったけれども、それができなかった」と。
そうなんです。おれもそう思う。そして、三人が「踏みこんんだほうがいいと思うところはあるけれども、それをしない」という状態であることぐらい、尾崎はものすごく敏感だから、とっくにわかっているんですよね。あの時にこちらが思っていたことを、尾崎が推測しないわけがないんだから。
で、だからこそ、「なんで来てくれねぇんだ」ということになっていたと思うんです。
しかも、尾崎にはおもしろいところがあって、あれだけひとりでなんでもできるところだってあるし、いろんな才能を持っているんだけど、「バンドというかたちで音楽をやること」がすごく好きなんですよね。どんな時でも、「ソロで音楽をやる」という方向性では喋っていなかった気がします。
それもあって、尾崎は苛立っていたんじゃないのかなぁ。バンドという集まりで音楽をやることが好きなんだから、メンバーたちからは、「どんどんぶつかりに来てもらってナンボ」なわけで。途中で、バンド内のコミュニケーションとしてはつらい時期があったのは、そういうことだったんじゃないのかな、と想像しますが……。
嵐が過ぎ去ってみて、ようやくその正体みたいなものがわかる、というのは、よくあることなのでしょうね。
頭ではどうすればいいのか理解しているつもりでも、その「一歩」が踏み込めないことって、ありますよね。
尾崎世界観さんは、「バンド」について、こんなふうに語っておられます。
ぼくは、途中でメンバーがいなくなった時期でも、ひとりで「クリープハイプ」と名乗ってきました。サポートメンバーをつけた時期もありますが、それも「クリープハイプ」というバンドの活動だと思ってきました。
これまで「ソロで音楽をやりたい」と思ったことはないんです。なぜかと言えば……音楽を、「ひとり占め」するつもりがないから。これは、そうだとしか言いようがない感覚です。
個人としては、すごくわがままです。我も強い。欲もある。でも、なんでバンドをやっているかと言えば、「喜びを分けあいたい」とか、「それができるのが、バンドである」というのがあるんですよね。
だから自分の場合には、音楽をやるなら、バンドでなければと思ってきました。
人前でライブをやるしても、自分の好きなバンドでの音楽は、メンバーがいなければできないわけです。
仲が良いだけじゃなくて、それぞれの譲れない部分がぶつかりあうからこそ、「バンド」は面白いし、存在意義がある。
と言うのは簡単なのだけれど、当事者にとっては、いろんなストレスというか、許せないこともたくさんあるし、人というのは、時間や立場によって、変わっていくものです。
そんなに「危うい」ものなのに、いや、「危うい」からこそ、人はバンドを組むし、バンドというものにひきつけられるのかもしれませんね。
クリープハイプというバンドに興味がある人はもちろんおすすめなのですが、人間関係に悩んでいる人にとっても、「役には立たなくても、『みんな同じなんだな』って、少し安心できる」、そんな一冊だと思います。
- アーティスト:クリープハイプ
- 出版社/メーカー: Universal Music
- 発売日: 2020/01/22
- メディア: CD