琥珀色の戯言

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【読書感想】フェイスブックの失墜 ☆☆☆☆


Kindle版もあります。

虚偽情報の蔓延、ユーザー離れ、株価急落、「メタバース」への事業転換……すべての原因はここに!

ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー

解説:古田大輔(ジャーナリスト、メディアコラボ代表)

フェイスブックはなぜユーザーの個人情報を流出させたり、またヘイトスピーチや危険なフェイクニュースを拡散させたりしたのか。
さらに、ユーザーの思想・政治的な対立を増幅させ、トランプ大統領の誕生と失脚後の大混乱を招いた責任は、創業者マーク・ザッカーバーグとCOOシェリル・サンドバーグにどう問われるのか。そして、ザッカーバーグサンドバーグとの間の溝とは。
ニューヨーク・タイムズ紙記者が、関係者400人以上の証言をもとに、世界27億人のユーザーを抱えるビッグ・テックの「醜い真実」を暴く。


 フェイスブック、使っていますか?

 僕の場合、ブームと付き合いで、アカウントは作ってみたものの、現実で繋がっている人とネットでもお互いに見張りあっているのは息苦しくて、現在は開店休業状態です。
 むしろ、「使っている痕跡を残すとめんどくさそうなので、頑張ってログインしないようにして放置している」のですよね。
 「いやー、僕には合わなくて、使っていないんですよね……」ということにしておきたい。
 実際、Twitterを見ることはできないと辛いけれど、フェイスブックやインスタグラムは、触らなくても何も困らないのです。
 わかる、という人も、僕とは全く逆のSNS生活を送っている、という人もいるとは思いますし、「自分はそれぞれ役割を分けて使いこなせている」と言う人も多いのでしょうけど。

 この本、今やAppleGoogle(アルファベット)、Amazonなどとともに、現在の世界を牽引するIT企業となったフェイスブックのこれまでの足跡と、そこで生じてきた(そして、今も生じ続けている)さまざまな問題について、関係者への綿密な取材に基づいて書かれています。
 アメリカのジャーナリストが本気で取材して書いたノンフィクションは、本当にすごい(読むのがけっこう大変、と言うのも含めて)。


 フェイスブックは、人々のプライバシーを扱う企業であるにもかかわらず、そのセキュリティはかなり緩いものだったのです。


 2015年のフェイスブックについて。

 Facebookの幹部たちは、ユーザーデータへのアクセス権限を使って個人的な目的のために友人や家族のアカウントを調べたりしていることが発覚した社員はただちに解雇されると強調してきた。しかし、データに対する安全対策が講じられていないことも幹部たちにはわかっていた。Facebookのシステムは、オープンで透明度が高く、すべての社員がアクセスできるように設計されてきた。それは技術者たちの作業をスローダウンさせて自立型の仕事を妨げるいっさいのお役所的な仕組みを排除するという、ザッカーバーグフェイスブックの社員数がまだ100人にも満たなかったころに導入されたものだ。だが数年が経ち何千人ものエンジニアを抱えるようになっても、誰もこのやり方を見直そうとはしなかった。ユーザーの個人情報に対するアクセス権限の悪用を防ぐには、社員自身の良心に頼る以外になかった。
 一度デートした相手のことを調べたこのエンジニアは、2014年1月から2015年8月までの間にユーザーデータへのアクセス権限を悪用して解雇された52人のフェイスブック社員の一人にすぎない。権限を悪用したエンジニアの大半は、気になる女性のプロフィールを調べた男性社員だった。ほとんtどはユーザーの情報を調べただけだったが、大胆な行為に及んだ社員もいた。あるエンジニアは、ヨーロッパ旅行に一緒に行った女性を追いかけるためにデータを利用している。二人は旅行中にけんかして彼女が部屋から出ていったため、そのエンジニアは女性を移動先のホテルまで追跡した。別のエンジニアは、最初のデートをする前からある女性のフェイスブックページにアクセスした。サンフランシスコのドロレス公園をよく訪れていると知ったエンジニアはある日、女性が友人とその公園で日光浴しているのを見つけた。
 解雇されたエンジニアたちは仕事用のノートパソコンを使って特定のアカウントを調べていたため、こうした普通でない活動をフェイスブックのシステムが感知し、上司たちに違反行為を通報していた。社内規則に違反した行為が事後に発覚したためにこの社員たちはフェイスブックを去った。違反行為が見つからずに済んだ者がいったい何人いたのかはわかっていない。


 フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグという人は、基本的に「情報はどんどんオープンにしていくことで世の中は良くなるはず」「インターネットには自浄作用があり、プラットフォームはなるべくユーザーの書き込みを制限したり排除したりすべきではない」と考えているようです。
 もちろん、プライバシーやセキュリティを無視している、というわけではないのですが。
 このエンジニアたちの行為も、「プライバシー軽視」にしか思えないものではありますが、自分がフェイスブックで働いていて、自由にデータを見ることができるのであれば、「魔が差す」のではないか、とも思うのです。これは「本人がネットに発信していて、その友達には公開されているもの」だし、って。

 僕は、この本を読みながら、ザッカーバーグFacebookの技術的な進化やネットの自浄作用にばかり目を向けて、デマを拡散する危険性や政治的な宣伝に利用される可能性を軽視している、とは感じたのです。
 しかしながら、僕自身も、インターネットをけっこう初期から使い、「これで、『誰が言ったか』よりも『何を言ったか』が重視される社会ができるのではないか」と期待していたので、ザッカーバーグの「気持ちはわかる」のです。

 この本を書いたニューヨーク・タイムズの記者たちは、フェイスブックがちゃんと情報を管理し、デマやヘイトスピーチを制限・排除しないから、社会は分断され、トランプ大統領が生まれたのだ、と考えているようです。
 でも、それは「アメリカの民主党支持派である都会のインテリ・リベラル層にとっての不都合」を強調しているようにも感じられるんですよね。

 フェイスブックには、新しい製品や機能をできるだけ早く実現するようエンジニアを奨励する文化があった。「作れ、出せ」という言葉が社内でよく使われていた。このプロジェクトは遅々として進まなかったが、ザッカーバーグは2008年末、ついに新機能として承認した。社内の検証データからこのボタンの価値を確信したからだ。小規模なテストを重ねた結果、ボタンがあるとフェイスブックの利用率が上がることが示されていた。ザッカーバーグは「いいね! ボタン」という正式名称をトップダウンで決定した。
 この新機能はたちまち大ヒットとなった。ユーザーは自分のニュースフィードをスクロールしながら、このボタンで友達に素早くポジティブなリアクションができるようになった。ニュースフィードで「いいね!」を押すと、フェイスブックは類似した他のコンテンツを表示する。突然、猫の動画や面白いインターネット・ミームなどが次々と表示された。その一方で、ユーザーは「いいね!」を獲得するために投稿を競うようになり、たくさん好意的な反応を得ようとして自分から積極的に情報を開示するようになっていった。同じ年に廃止されたビーコンとは異なり、「いいね!」ボタンがユーザーから問題視されることはほとんどなかった。開発者のパールマンは期せずして、政治家、ブランド企業、友人たちなど誰もが高い評価を得ようと競い合うインターネット上の新しい共通言語を設計したのだ。


 フェイスブックそのものは、リベラル色が強いアメリカのIT企業であり、自ら積極的にデマを拡散しているわけではありません。
 しかしながら、フェイスブックが企業として、自らのプラットフォームにより多くの人を集め、滞在時間を長くして、広告を表示させようとしていくと、大きな金銭的な利益と引き換えに、さまざまな弊害が生じてきたのです。

 サンフランシスコ湾を見下ろすアパートの一室で、誤情報研究家のレネ・ディレスタがフェイスブックのブログを確認した。すぐに彼女は他の研究者で、それまでの二年間で知り合ったアマチュアの誤情報研究家たちにメッセージを送った。
 アメリカで誤情報を専門に研究している人はほんの一握りしかいない。他の研究者たちと同様、ディレスタがこの分野に足を踏み入れたのは偶然がきっかけだった。2014年に長男を入れる幼稚園を探していた時、カリフォルニア北部には厳密なワクチン接種のルールを設けていない幼稚園がいくつもあると知った。これは子どものワクチン接種を拒む親が多いからだが、なぜ医学界の勧告を聞き入れない親がそれほどたくさんいるのか疑問に思ったディレスタは、フェイスブック上の反ワクチングループにいくつか参加してみた。
 二十代のころのディレスタは市場力学を研究しており、金融市場のパターンを理解するためにいつもデータの詰まった図表を使っていた。ディレスタはそれと同じやり方で、反ワクチングループがどのようにしてネット上で情報を共有しているのかを調べた。活動家たちは、フェイスブックを利用してそれまでにない数の人々を自分たちの運動に誘い込んでいた。フェイスブックを利用してそれまでにない数の人々を自分たちの運動に誘い込んでいた。フェイスブックアルゴリズムそのものが彼らの最大の武器だった。「自然健康療法」や「ホリスティック医学」を謳うグループに一つ参加すると、そこからさらなる深みへと引き込まれ、1、2クリックで反ワクチングループに招待される。そこまで行ってしまえば、その後もフェイスブックが他の反ワクチングループを次々と勧めてくるのだ。

 情報操作問題の根源は、当然ながらテクノロジーにある。フェイスブックは、人の感情をかき立てるコンテンツがあれば、たとえそれが悪意に満ちたものであっても、その拡散に拍車をかけるよう設計されていた。アルゴリズムがセンセーショナルなものを好むのだ。ユーザーがリンクをクリックした理由が、興味を持ったからなのか、恐怖を感じたからか、積極的に関与しようとしているのかは重要でない。広く読まれている投稿があればより多くのユーザーのページに表示させるだけだ。ミャンマーは、インターネットが上陸した国でソーシャルネットワークが主要かつ最も広く信頼される情報源となった場合に何が起こるかが試される、生死のかかった実験場となってしまったのだ。
 フェイスブックは自社のプラットフォームに人々の感情を操る力があることをよくわかっていた。それが世界中の人々の知るところとなったのは、2014年6月上旬、会社が秘密裏に行っていた実験について発表したときだ。この実験は、ユーザーの心に深く入り込むフェイスブックの力と、ユーザーの知らないところでその力の限界を試そうとする会社の姿勢をいずれも露わにするものだった。
「感情は伝染という形で他者に伝わり、人々は無意識のうちに同じ感情を経験することになる」と、《米国アカデミー紀要》に掲載された研究論文の中でフェイスブックのデータ科学者たちは述べた。論文によると、2012年の1週間で会社は70万人近くのユーザーがログインした際に表示される内容を操作した。
 この実験において、一部のユーザーには「幸せな」コンテンツばかりが表示され、他の一部のユーザーには「悲しい」コンテンツばかりが表示された。幸せなコンテンツは動物園でパンダの赤ちゃんが生まれたことなどで、悲しいコンテンツは移民問題に関する怒りの論説などだった。結果は劇的だった。ネガティブなコンテンツを見たユーザーは自分の投稿でもネガティブな態度を示すようになったのだ。一方、ポジティブなコンテンツを見れば見るほど、ユーザーは明るいコンテンツを拡散する傾向が強くなった。
 この研究に関する限り、「人と人との直接的な交流」がなくても感情の伝染が起こることが実証されたのだ(知らぬうちに被験者にされていたユーザーたちはそれぞれでニュースフィードを見ていただけなのだから)。これは驚くべき発見だった。


 この本を読みながら、考え込まずにはいられませんでした。
 フェイスブックが「人間の自然な欲望に忠実に、アクセスや滞在時間を伸ばそうとすると、センセーショナルな話題ばかりがトップページに表示される、あるいは、偏った情報に興味本位で触れると、次から次に、その「仲間」の情報にさらされるようになった」のです。

 悪いのは、アルゴリズムなのか、それとも人間の本質なのか。
 
 人々のさまざまな垣根を越えるはずだったインターネットは、人々を分断するためのツールになってしまった。

 しかしながら、良くも悪くも、フェイスブックは誕生してから20年近くになり、すでに、多くの人々にとっては欠かせない、日常生活を支えるインフラとなっています。

 フェイスブックは必要か否か、を論じる段階では、もう無くなっているのです。

 フェイスブックが存在するのを前提として、その「自由」と「制限」は、どのくらいが妥当なのか、という試行錯誤は、今も続いています。

 イリノイ州選出のディック・ダービン民主党議員が、鼻先にかけた黒縁の眼鏡越しにザッカーバーグを見下ろした。「ミスター・ザッカーバーグ、あなたが昨夜泊まったホテルの名前を教えていただくことはできますか?」ダービンはそう切り出した。
 返答に困ったザッカーバーグは、天井をちらりと見上げてひきつった笑いを漏らし、「ええと、いいえ」と居心地悪そうな笑顔で答えた。
「今週誰かにメッセージを送っていたら、その相手の名前を教えていただけますか?」とダービンは続けた。
 ザッカーバーグの笑顔が消えていく。質問の方向性は明らかだ。
「議員、いいえ、ここでそれを公にしようとは思いません」とザッカーバーグは真剣な口調で答えた。
「これこそが今回の問題の本質かもしれませんね」とダービンは言った。 
「プライバシーの権利とその限界、そして、現代のアメリカでは、『世界中の人々をつなぐ』という名目でどれほどの権利を手放すのか」


 自分のことを知ってほしい、という欲求と、自分のことを(嫌いな人、めんどくさい人には)知られたくない、というプライバシーを守りたい意識のせめぎ合いは、フェイスブックというプラットフォームだけでなく、それぞれの人の心の中にあるのです。
 フェイスブックは、絶対的な正解がない問いに、ずっとさらされ続けることになるのでしょう。


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